チベットの環境問題

水源と水力

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チベットはアジアの主要な分水界をなし、主要河川の水源がある。これらの河川は地下水や氷河を源泉とするため、流量はかなり安定している。流量がモンスーンに左右される近隣諸国とは、その点でかなり異なっている。

チベットを流れる河川水は、90%が国外に流れ去る。流量全体の1%にすぎない。チベット河川の砂泥沈降率は、今日かなり高くなっている。マチュ川(黄河)、ツァンポ河(プラマプトラ川)、ディチュ川(揚子江)、センゲ・カバブ川(インダス川)の4河川は、世界5大沈泥河川に数えられている。東はマチュ川から西はセンゲ・カバブ川に至るこれらの河川が潤す地域は、世界人口のじつに47%を養っている。

黄河、ブラフマプトラ川、揚子江、インダス川の4河川の河口では定期的に氾濫を起こっている。チベットにおける広い領域での森林伐採、地肌の露出は、ここ何十年かに渡るこれらの河川の氾濫と破壊の頻発によって例証されるように沈泥の流出を悪化させている。チベットからの水が大きく流れ込んでいるブラフマプトラ川の氾濫は、1987年〜88年のインドの全氾濫領域の35%以上をなしている。こうした氾濫領域の面積率は2大河がチベットに発している中国では更に高いと考えられている。しかし、これに関してのデータは、東南アジアのメコン河口の氾濫と同様、秘密にされ不足しており、また存在しても信頼性に欠ける。

チベットには、200を超える自然湖がある。なかには神聖な湖や、人々にとって特別な意味を持つ湖沼があり、全体として35,000キロメートルに散らばっている。

急な傾斜と豊富な水量のおかげで、チベットには25万メガワットの水力エネルギーが潜在する。これは、世界のどの国よりも多い量である。「チベット自治区」だけでも、20万メガワットの水力エネルギーが眠っている。

また、単位面積あたりに受ける太陽エネルギーも、チベットはサハラに続いて世界第2位であり、年間平均で1c?あたり200キロカロリーである。さらに地熱資源も豊富である。

このように、チベットの豊富な潜在エネルギーは、それぞれが小さな、そして環境に無害なものである。それにもかかわらず、中国は龍羊峡のような巨大ダムを造り上げ、ヤムドク湖(ヤムドク・ユツォ)の水力発電所などをいまだに建設している。

こうしたプロジェクトが意図するところは、チベットの水力エネルギーを開発し、中国人住民や、中国・チベット双方の産業にむけて電力などの恩恵を提供することにある。しかし、そのプロジェクトによって環境や人間、そして文化の犠牲を払わされるのはチベット人ばかりである。チベット人が家や土地から追い出される一方で、何万という中国人労働者が、これらダムの建設やメンテナンスのために中国から送り込まれてくるのだ。

これらのダムが、発言権のないチベット人を益することはほとんどない。ヤムドク湖の水力発電プロジェクトをみればよい。中国側は、このプロジェクトはチベット人にとっておおいに有用だという。しかし、パンチェン・ラマ10世やアポ・アワン・ジクメーに代表されるように、チベット人はたいていこのプロジェクトに反対している。その結果、ダム建設は数年間延期されることになったが、それでも中国側は工事に着手した。今日では500人以上の解放軍兵士が工事区域を警備し、一般人は近づくことができない。


チベット亡命政権情報国際関係省1992年発行
「チベット環境と開発をめぐって」より

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