ダライ・ラマ法王

ダライ・ラマ法王

最新ニュース

これから開催するイベント

言葉を越えたカーラチャクラ灌頂の儀式

Print Friendly, PDF & Email

– インディアナ州ブルーミントンでの、ダライ・ラマ法王によるカーラチャクラ灌頂の儀式 –


(1999/08/17-27 トゥプテン・ペモ師)

アメリカ合衆国インディアナ州のブルーミントン市は、美しい湖と森に囲まれた小さな大学街である。ダライ・ラマ法王の兄、トゥプテン・ノルブ(タクツェ・リンポチェ)が、この街に平和な地として設立したチベット文化センターで、1999年8月17日〜27日にかけて、ダライ・ラマ法王によるカーラチャクラ灌頂の儀式が、世界中から集った5,000人の人々に惜しみなく施された。灌頂の儀式は人々にとって言葉では言い表せない体験となり、ダライ・ラマ法王の心からの思いやりは大きな感動を呼び起こした。

インディアナ州知事のフランク・オバンノンとインディアナポリス市長のステファン・ゴールドスミスに続き、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の代表者たちからもダライ・ラマ法王への歓迎の言葉が寄せられた。シスターであるマーガレット・ファンクは、ダライ・ラマ法王との過去数度にわたる会合がどのようなものであったか素直な感想を述べ、キリスト教の修道士、修道女が、チベットを訪問した際にチベットの状況を調査しダライ・ラマ法王にその結果を報告したことを発表した。

ダライ・ラマ法王は次のように述べた。

「人類は1つです。肌の色が黒くても白くても、たとえ黄色でも緑でも赤でも、私たちは同じ人間なのです。」

最初の3日間、ダライ・ラマ法王とナムギャル僧院の僧侶たちによる声明は、午前7時〜午後4時まで、短い昼食の時間を除いて休むことなく朗々と唱えられた。私たちは、主な行事の会場となる大テント内で、準備作業に参加することを許されたが、そこでは、儀式のための祭壇、精密な模様の砂マンダラの製作、そして自身の灌頂、僧侶が金襴とどくろでできた衣装を身に着け上演する儀式的舞踏のための準備作業が行われていた。

壇上で、ダライ・ラマ法王の左右に着席したのはチベット仏教の4つの宗派とボン教のラマ僧であった。彼らは、カーラチャクラ灌頂の儀式に特別な来賓として招待され、灌頂に先立ち数日間にわたって講義を行った。ネパールの山間部にあるトゥプテン・チョリング僧院のトゥルシッグ・リンポチェは、ニンマ派を代表して『Thirty pieces of Heart Advice (心に関する30の助言)』をテキストとして講義を行った。講義が終了するとリンポチェの周りには、白いスカーフ(カタ)を捧げ祝福の祈りを請う人々が押し寄せた。

カギュ派を代表するディクン・キャップゴン・チェツァン・リンポチェからは、「仏教の真髄」という演題で講義が行われた。また、ゲルク派の現在のガンデン・ティパであるロプサン・ニーマ師からは、「カーラチャクラと世界平和の関係性」に関する熱のこもったスピーチが発表された。

ワシントン州シアトル市にあるサキヤ僧院のジクダル・ダクチェン・サキャは、「悟りへの前進」に関する講義を行った。チベットのボン教の代表は、ルントック・テンペイ・ニーマ師である。ニーマ師は、ボン教の33代のメンリ・ティンジンで、インドのドランジにあるボンポ僧院に僧籍を置いている。ニーマ師の「ボン教とゾグチェン思想の9つの道 – 心の本質への入門」に関する講義と討論は2日間に及んだ。

夕刻になると、ほかの参加者からのスピーチが発表された。俳優のスティーブン・セガールは、思いやりの心について感動的なスピーチを発表し、その後の長時間にわたる質問にも熱心に答えた。ニンマ派の長であるペノール・リンポチェ師からラマ僧の転生であると認められたセガールは、そのスピーチの中で、自分の心がどのように変化したか、そして、ここ数年間、各地を訪ね仏教について講演を行っていることに関して述べた。彼は、また、暴力的な映画を今後製作するつもりはなく、精神的に意味のある映画を作っていきたいと語った。

ロバート・サーマン教授は、多方面にわたった愉快な話しを生き生きと語り、父親と『The Monk and the Philosopher(僧侶と哲学者)』を著したフランス人の僧侶であるマシュー・リカード師は、著書のサイン会に姿を現した。リカード師はまた、ダルマ (法) に関する討論にも参加し、指導者とともに生活することがどのようなものか、多くの素晴らしい話を聞かせてくれた。

4日目〜6日目までは、心のマンダラのカーラチャクラ・サダナ (瞑想による礼拝式) が行われた。午後には、ダライ・ラマ法王は、カーラチャクラ灌頂に備えるため、シャーンティデーヴァ(7世紀のインドの仏教詩人学者) の著作、『A Guide to the Bodhisattva’s Way of Life(菩提行入門)』の瞑想に関する章を引用して法話を行った。

この後の7日間は、喜びに満ちていた。ダライ・ラマ法王は、仏教を学ぶ者にとって、

「仏教の理解をより深めることが重要である。」

と語り、その方法については、次のように述べた。

「仏法の基本的な教えの全体を理解するよう努めることが必要である。ダルマ (法) の本質は実践である。食事の用意ができたなら、それは食べなくてはならない。ダルマ (法) の目的は、自分の心を制御し鍛錬することにある。教えられた内容は、自分の心といつも照らし合わせる必要がある。教えと、それを学ぶ者の心の状態に隔たりがあってはならない。心の悩みは、何かをきっかけに、自然に湧き上がってくるからだ。」

ダライ・ラマ法王は、また、菩薩の誓願の授与を行ったが、その儀式は大変感動的なもので、10の方角にいらっしゃるブッダと菩薩に対し五体投地と花が捧げられた。

次の3日間は、何千もの幸運な人々がカーラチャクラ灌頂の儀式に参加したが、その様子は言葉では言い表せないほどであった。みな一様に大きな笑みを浮かべこの上ない幸せそうな表情で、喜びをかみ締めているようであった。州当局から派遣されてきた男たちでさえ、ダライ・ラマ法王の愛情のこもった慈悲心に、心を深く動かされているようであった。儀式の参加者の中には、自分たちのマットレスの下に敷くクシャ草を持ち込み、夢を思い出すための指示を聞きながら、儀式の間、赤いリボンで目隠しをする人の姿も見受けられた。

人々の間には、お互いに対する親切心と思いやりの心があふれていた。ホテルで出会った知らない者同士には、親密な友情が生まれ、かつての友人たちにとっては、家族の再会のような場が生まれた。ダライ・ラマ法王の、その寛大な心にあふれた存在 – テントの周りに絶えず目をやり、古くからの友人や信徒に向かってほほ笑み、手を振る姿 – により、欧米、チベット、日本、中国、メキシコ、そしてその他の国からやってきた何千もの人々もまた、躊躇することなくお互いに対して心を開いたのだった。

今、祈ることは、この圧倒されるほどの優しさが失われず、たった今から私たちの心に絶えず浸透し続けることである。私たちは、いつでもグル(導師)、ブッダ、そして菩薩の安らかな心に包まれている。そして、その聖なる恩恵を受け取り私たちの心に変化を起こすことができるのである。

私は、今回、空なる心に浮かんできたこの空なる言葉を、ほかの人々の益になるよう、ここに記した次第である。