ダライ・ラマ法王

ダライ・ラマ法王

最新ニュース

これから開催するイベント

王力雄氏によるダライ・ラマ法王インタビュー

Print Friendly, PDF & Email

(2010年5月21日)

2010年5月21日、ダライ・ラマ法王は王力雄(Wang Lixiong)氏のインタビューを受けた。
王力雄氏のツイッターの投稿メッセージはこのインタビューが土台となっている。

── ダライ・ラマ法王、こんにちは。将来のチベットの宗教的指導者についてお訊ねします。パンチェン・ラマの後継者として11世が二人になる可能性について、どのようにお考えでしょうか。

ダライ・ラマ法王:

ダライ・ラマ制度が続けられる必要があるか否かはチベットの人々が決めることになります。このことは1969年に公式に伝えています。同様に、1992年にも公式の声明を発表し、「チベット本土にいるチベット人と亡命中のチベット人が再び共に暮らせるようになったときには、私はどのような地位にも就任するつもりはない」と伝えています。現在のチベットにおいて責任ある地位についている人たちがその責任を担っていくことになるでしょう。

亡命政権の場合は、2001年に中央チベット政権の指導者を5年ごとに投票で選出するシステムが確立されました。以来、指導者は投票によって選ばれています。

ですから、ダライ・ラマという制度の問題を私はさほど重視してはいません。私は、生きている間に自分ができる仕事については何でもするつもりです。それ以外には何の意図も責任もありません。

ダライ・ラマ制度については、私よりも中国共産党のほうがよほど懸念しているようです。その結果、二人のパンチェン・ラマが現れるような状況が起きているのです。そうなれば、中国とチベットの問題はさらに深くなるだけです。何の徳にもなりません。

── 中国政府が任命したパンチェン・ラマ11世について、法王様はどのようにお考えでしょうか?

ダライ・ラマ法王:

鋭い知性の持ち主で、宗教的な事柄についても非常に関心があると聞いています。しかしながら、彼のことをいぶかる人が多いこともまた事実です。ですから、すべては彼自身の問題です。仏教に基づいた知識と実践を体現する人物となって、釈尊の教義を実践し、その教えを説いていくのであればよいでしょう。

── チベット政権と中国共産党の間で行なわれている対話についてお訊ねします。双方の対話はなぜいつも成果を得ることができないのでしょうか?何十年かかっても解決できないほどの問題とは、具体的にどのような問題なのでしょうか?

ダライ・ラマ法王:

中国政府は「チベット問題というものは存在しない。これはダライ・ラマの個人的な問題に過ぎない」と公式に述べています。私自身は、自分のことについて要求することなどひとつもありません。

チベット問題は、600万人のチベット人の基本的権利の問題であり、宗教、文化、環境の問題です。そしてこれこそが私が懸念している問題であり、話し合おうとしている問題なのです。

チベット問題というものを実際にある問題として中国中央政権が認めるときが来たそのときには、中国中央政権は話し合うべき問題として解決に努めるでしょう。

私としては、中国政府が掲げている国の発展、安定、友愛という同じ目標を持っていますので、目標を分かち合う者のひとりとして、これに協力するつもりです。

しかしながら、その目標を達成するための方法については異なります。中国政府は武力を使って安定を求めていますが、我々は、安定は心の充足と信頼関係から生まれるものであると考えているからです。

── 法王様、こんにちは。今後、中国がどのような政策を取ったとしても、チベットの一般庶民と漢人の一般庶民の格差は開いていくと思います。チベット人の多くは、漢人がチベットを支配していることが問題なのだと割り切っていますが、 実際には私たち漢人も同じ独裁支配の犠牲者なのです。法王様は、この問題をどのように考えていらっしゃいますか?

ダライ・ラマ法王:

中国とチベットの関係は1940年から50年にかけて始まったのではありません。1000年も続いている関係なのです。その間には、親密な友好関係があった時期もありましたし、あまり友好でない時期もありました。現在の我々は、友好ではない時期にいます。原因は、格差を生む政府の政策にあります。人が原因ではないのです。ですから、人と人がより良い関係でいることが、ますます大事になります。

自由が与えられている国で暮らしているチベット人と中国人の間には、親善交流協会を設立しようとする動きもあります。

問題は、鄧小平の「事実から真実を求める」が実行されていないことなのです。胡耀邦総書記はチベット問題の現実を理解しようと努めてくださいました。 最近では、温家宝首相が「胡耀邦総書記の仕事ぶりは机上のものではなく、人々と接するなかで状況を理解したなかで生まれた仕事であった」と語っておられます。
物事が透明化された状態で問題の実情が調査されないがゆえに、中国にはたくさんの難点があります。物事が透明化されるなら、腐敗は減っていくでしょう。

── もうひとつお訊ねしたいのですが、漢人とチベット人が良い関係を続けていくために、法王様はどのようになさっておいででしょうか?

ダライ・ラマ法王:

私はたくさんの国々を訪れます。その度に思いを強くしているのは、我々はみな同じ人間であるということです。そのような思いがあるからこそ、私は良い関係を持つことができるのです。

チベット人と中国人は同じ人間であるのみならず、歴史的にも深く関係しています。私たちが物事を明確に理解し、平等の人間関係を築くなら、すべての問題は解決されるのです。

私は、中国本土からやってくる人たちと定期的に会っています。彼らは誠実な人たちですから、私も親密な関係を築くことができています。疑いや疑念があるところには問題が生じるものです。これは中国とチベットに限らず、世界中でいえることです。そしてこれは解決しなければならない問題です。

私は面会するときはいつも、「私たちは同じ人間ですよ」とその人たちに言います。宗教、文化、言語の違いは二次的な問題です。いちばん大切なことは、私たちはみな同じ人間であるということなのです。

1954年から55年にかけて、私は北京に滞在していました。当時はマルクス主義についてディスカッションを重ねたものです。私は、国際主義という考え方を好いています。

── 『全チベット民族が名実共に自治を享受するための草案』についてお訊ねします。この草案では、チベット自治区に住んでいる漢人の権利について書かれていません。現在チベット自治区に住んでいる漢人が、名実を伴う自治が行なわれるようになった後も同じ場所に住み続ける権利を認めていただけますでしょうか?

ダライ・ラマ法王:

1950年よりもっと前にも、中国人はチベットに住んでいました。例をあげますと、私が生まれた地域には中国人もイスラム教徒もたくさんいました。ですから将来においても、中国人がその土地に住むことはもっともなことです。

これに関連して心に留めておかなければならないのは、内モンゴル自治区のケースです。内モンゴル自治区では、モンゴル人は少数派となり、人口のわずかを占めるだけです。そのような状態では、自治区ならではの特質が存在していないことになります。

次にチベットのケースですが、中国人が多数を占め、チベット人は少ししかいない町がいくつかあります。そうなったとき、自然に起こるのはチベット語とチベットの伝統の衰退ですから、これについて考えていく必要があります。別の言い方をすれば、中国人の友人たちが安全かつ幸福な状態でいられる状況である必要があるということです。つまるところ、私たちは人間という点ではみな同じなのです。

── 偉大なる師にお訊ねします。法王様は過去のチベットのことを「調和ある仏教社会」と描写されますが、中国政府は「邪悪な奴隷社会」と描写します。双方の描写が天地ほど異なるのはなぜなのでしょうか。絵画をはじめビジュアル的な資料は、奴隷社会の残酷さと不正を伝えています。両者の食い違いがこれほど大きい理由を説明していただけますか?

ダライ・ラマ法王:

1950年より前のチベットは確かに後進的でしたし、概して封建的でした。昔の社会が天国のようだったというチベット人はひとりもいないでしょう。今日、昔の社会を復興させたいと願っているチベット人などチベット本土にも外にもひとりもいないと思います。

一方で、中国政府がいうところの「昔のチベット社会は地獄のようだった」というのもまた誇張なのです。

過去に、中国人がチベットの歴史に関する映画を作ったことがありました。この映画が撮影されたときの様子を私に話してくれた人たちがいるのですが、撮影が行なわれていたとき、見物人たちは笑って見ていたそうです。なぜかというと、事実とは異なることをフィルムにおさめていたからです。とてもおかしなものが撮られている、と彼らは思ったそうです。

文化大革命では「革命は偉大な成功である」といわれていました。しかしその後、現実を隠せなくなったときに情勢は変わりました。

天安門問題もまた同様です。天安門事件は世界中の人が知っている問題ですが、中国政府は少数の人々の問題であったとして実質的な問題はなかったものとしているようです。重要なことは、あなたたちみんなが、科学的に適っていると思われる方法で物事を判断し取り組むことです。

いつもチベット人にたいして言うのですが、「私が言ったことだからといって鵜呑みにするのではなく、自分で検証しなさい」と私は言っています。仏教の実践者という立場から申しますと、私たちは、仏教の教えさえも詳しく検証する必要があるのです。

── もし法王様がチベットへお戻りになることを中国政府が許したなら、そして名実伴うチベットの自治が実現したなら、どのような政治体制をチベットにお望みでしょうか?

ダライ・ラマ法王:

これはチベット本土にいるチベット人が決める問題ですし、彼らの大多数が望む通りに決定される必要があります。とくに有識者が中心となって、事実から真実を求めていくことが重要になります。亡命チベット政権では、この50年間、民主路線が取られています。

── ダライ・ラマ法王にお訊ねしたいのですが、法王に対する中国政府の批難中傷にはすさまじいものがあります。とくに激しいのは、法王がチベットにおける軍隊の数をゼロにするよう要求なさっていることに対してです。中国政府は、これこそが法王が独立を求めている証拠である、と言っています。チベットにおいて軍隊をゼロにすることを要求するお気持ちに変わりはないのでしょうか?

ダライ・ラマ法王:

このことについては常に明確にしてきました。チベットは中国の自治下にあるのですから、外交・国防は中国中央政権が取り組む問題です。

私は過去に、チベットの隣国であるインドやネパールといった国々と信頼や友好関係を築くことを通してチベットを平和ゾーンとする夢がある、と語ったことがあります。これはチベットに限ったことではありません。非武装化は世界中が取り組むべき問題です。これはずっと申し上げてきたことです。

── 現在の状況を見ますと、ダライ・ラマ法王が生きておられる間にチベット問題の平和的解決が実現する見込みはほとんどゼロではないかと思います。チベットについての現在の見解をお聞かせください。

ダライ・ラマ法王:

私は、中華人民共和国が建国されてからの時代を、毛沢東の時代、鄧小平の時代、江沢民の時代、胡錦濤の時代というふうに分けて考えています。それぞれの時代ごとに社会は大きく変わりました。国の政策は変化するものですし、変化していかなければなりません。ですからまず第一に、私は中国とチベットの双方にとって有益なチベット問題の解決が不可能なことだとは思っていません。そして第二に、これが実現に到るのにさらに長い年月がかかるとも思っていません。

チベットで共産党員として働いて定年を迎えた人たちや中国人学者のなかには、現在の国家政策は時宜を得ていないので見直す必要がある、と言っている人たちもいます。ですから私は、変化と解決がそう遠くない未来に起こるだろうと考えています。

(翻訳:小池美和)