ネパールと中国 ――チベット人に対する旅行の制限
入手できた情報筋によると、チベット人がネパールとの国境、またはネパールの領土内にいて他に目撃者がいないと、ネパール当局により拘束され、中国に送還されている。中国とネパールとの主要な国境地点で勤務する移民当局者は、中国からの圧力により、チベット人を強制的に帰国させることがあると認めている。
仏教法話会参加のためにインドを訪問したチベット人は、帰国するときに中国当局に拘束されている。中国国民である証明書を携帯していても、中国入国を拒否されることがあるのだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2012年以降、チベット人が中国への帰国を拒否された例がたびたびあったことを報じている。中国への入国を拒否され、ネパールでの滞在を余儀なくされた例や、ニューデリーの中国大使館に出向いてチベットへの再入国特別許可を申請せよと中国の警察から告げられた例もあった。
チベット人に対するパスポート発行の差別
国連の人種差別撤廃委員会(CERD)は先ごろ、『中国の第14回および第17回定期報告書』をまとめ、2018年8月30日に総括所見を発表した。同国連委員会はその中で、チベット自治区内外および外国におけるチベット人の移動の自由に対する顕著な制限についての懸念を表明している。さらにチベット人が外国に旅行するためのパスポート発行の全面的な禁止について触れ、その規制や慣行を改善して、チベット人の差別のないパスポート発行と、チベット自治区内外や外国への自由な移動を保証するよう推奨した。
2012年以降、中国はチベット人に対するパスポート発行を拒否し、移動の自由の制限を強化した。(付録1)2012年には、チベットのチャムドの住民65万人のうち、パスポートが発行されたのは2人のみだった。
「チベット人にとって、パスポートを取得することは天国に行くより難しい。中国政府によるチベット人への『優遇政策』の一例だ」
―2012年10月、中国語のウェブサイト上のチベット人ブロガーの投稿
ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2012年以降、チベット人自治区当局が住民登録のある住民が所有する通常パスポートすべての没収を命じている。地域住民の90%以上がチベット人である。
パスポート発行に関する差別的規則
- 迅速な対応のシステム
- きわめて遅いシステム(付録2)
迅速な対応のシステムは、中国人が大半を占める地域で運用され、きわめて遅いシステムはチベット人やその他少数民族の地域で運用されている。迅速なシステムでは、公安当局管理下の出入国管理局地方支部の一か所のみに申請、承認を得られればパスポートが取得でき、申請から15日以内に誰でも発行されるか、遅れた場合は説明が得られる。一方で、きわめて遅いシステムが運用される地域では、取得までに数年を要するか、単純に特段の理由もなく拒否される。
迅速な対応のシステムから除外された少数民族居住地区(ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告による)
パスポートの迅速な取得手続きが許可されない県を含む省 | パスポートの迅速な取得手続きが許可されない県の数 | パスポートの迅速な取得手続きが許可されない県でチベット人、イスラム教徒が多い県 |
新疆 | 14 | 14 |
チベット自治区 | 7 | 7 |
江西 | 1 | 0 |
四川 | 2 | 2 |
雲南 | 1 | 1 |
甘粛 | 2 | 2 |
青海 | 8 | 8 |
合計 | 36 | 35 |
(付録1)――チベット自治区当局発行の内部通知
[1ページ] |
「地域のパスポート取扱い、承認、発行管理の強化に関する提言」すべての県レベルの市党委員会、すべての行政事務所、ラサ市人民政府、地域党委員会、すべての部門委員会、自治区のすべての委員会、事務所、部署、部署に提言する。 「地域のパスポート取扱い、承認、発行管理の強化に関する提言」は、地域党委員会および政府によって承認されており、ここに印刷物として発行する。これを徹底的に実行することを求める。 |
[2ページ] |
(この文書は各県部門レベル、郡党委員会、郡政府に送付された) |
[3ページ] |
地域のパスポート取扱い、承認、発行管理の強化に関する提言関連する法律や規則に従って、地域のパスポートの取り扱い、承認、発行作業のさらなる規制を実施することを目的に、地域の業務を統合することにより、以下の作業提案が特別に提示された。 |
I.一般市民の普通パスポートの取扱い、承認、発行に関する管理作業を真摯に強化する
- 今年5月に全国的に電子パスポートの運用が開始された機会を利用し、当地域の有効期限内の普通パスポートをすべて例外なく没収する。普通パスポートを申請する必要がある者は、厳格な審査と承認を経て普通電子パスポートが再発行される。
- 普通パスポート発行の承認を厳格に管理する。普通パスポートの申請および発行は、「居住地で申請し、県で審査し、地域治安部による統一的承認を得る」制度で実施されるものとする。普通パスポートを申請する場合は、地域管理の原則に従い、例外なく、その県(県レベル)の公安機関にその家庭が登録されていなければならない。公安局の地域出入国管理局は、今後申請受付けおよび処理を行わないものとする。第二に、普通パスポート申請者は、自分の地元の村(地域)委員会、町の人民政府、および警察署に自ら作成した申請書を自ら手渡しで提出し、一次審査を受けなければならない。警察署は申請書を町の人民政府に提出し、指導者の審査を受け、郡の公安局に提出する。郡(郡レベルの市)公安局の審査を経て、郡(郡レベルの市)の人民政府の指導者に送付し、審査と承認について意見を求める。県(県レベルの市)公安庁及び出入国管理局に報告した上で、申請書は県(県レベルの市)公安局の主任指導者が審査し、その後、府省(政府)の主要指導者に報告され、審査と承認が行われる。県(県レベルの市)の公安出入国管理局は、すべての手続が完了した後に、公安局の出入国管理局に審査、承認、発行を報告しなければならない。パスポート所有者は帰国した際には例外なく地方県レベル(県レベルの市)の公安局および出入国管理局にパスポートを提出し、パスポートは統一管理される。
- 普通パスポートを所有する国家労働者を厳格に制限する。県(県レベルの市)の公安移民管理局が市民の普通パスポート発行の申請を受けた場合は、申請者が国家労働者であるか否かにかかわらず、申請書類を審査し、面接を実施する。当地域では国家労働者に普通パスポートを発行しない原則に基づき、例外的な状況により国境を越えるために通常パスポートが必要な場合、郡レベル以下の係官は、県(県レベルの市)党委員会組織部門へ、郡レベルより上級の係官は、自治地域党委員会組織部に審査を求め、承認されなければならない。外国旅行からの帰国の際には、すべてのパスポートは例外なくパスポート所有者の郡(郡レベルの市、地方)に提出され、保管されるものとする。
- 普通パスポート所持に関する誓約に署名する制度を実施する。個人による外国旅行のために普通パスポートを受ける者は、県(県レベル)の出入国管理局で誓約書に署名し、出国後に国家の保安や国益を脅かす活動その他の犯罪行為を行わないことを保証しなければならない。公安出入国管理局は、パスポート所有者が帰国した際には来局を求めて面接を実施し、違法行為が発見された場合は例外なくパスポートを無効または無効宣言を行うこととする。
II.団体旅行パスポートの申請の良心的な取扱い
国務院が公布した「旅行業者規則」第2章第9条ならびに「具体的実施方法」第2章第10条に従い、ツアー団体の普通パスポート申請の取り扱いを真摯に厳格に実施する。
- 旅行代理店が企画したツアー団体が外国に旅行する場合、当地域住民の普通パスポートの申請は、「確認し承認しする者は責任も負う」という原則のもと、関連する規定に厳密に従い一人ずつ確認し承認作業を行わなければならない。旅行代理店は旅行者と正式な旅行契約を締結しなければならない。
- 旅行会社はパスポートの取扱いを終了した後、責任者が地域の自治区観光局監督管理室に出向き、「ツアー団体で出国する中国市民リスト」書式を受け取り、慎重に記入しなければならない。ツアー団体運営者が書式の作成を完成後、「ツアー団体で出国する中国市民リスト」の3枚目は自治地域観光局監督管理局が保持するものとする。
- ツアー団体の厳格なパスポート管理を行う。ツアー団体に参加して普通パスポートを申請した当地域市民については、ツアー団体の参加者が帰国した時点でツアー団体を運営する旅行代理店はパスポートを例外なく回収し、県(県レベルの市)公安出入国管理局に提出し、管理されるものとする。
III.公務員パスポートの承認と発行に関する管理業務の強化
- 外務省発行の「外交パスポート、サービスパスポート、広報パスポート回収法」(MFA Doc [2006] No.60)、チベット自治区外務局発行の「チベット自治区公務パスポート発行と管理業務の実施についての詳細(試験的施行)」および「チベット自治区公務パスポート回収と管理の実施詳細についての通達」(TAR外務局[2007] 第53号)、ならびに「外交パスポート、サービスパスポートと公務員のパスポート発行と管理措置に関する通達」(MFA Doc [2006])に従い、公務パスポートの管理業務を強化する。
- 公務に携わるすべてのツアー団体および個人が公務パスポートを申請する場合、公的業務で国外旅行を行う者のために設けられた申請手続きを行うものとする。公務パスポートは、帰国後7日以内に発行部門が指定する機関に返却し、保管または破棄されるものとする。パスポート提出に遅滞のあった個人または団体、または書類管理条項を実行しない者は、公的業務での外国旅行を一時的に禁止される。
- 当地域内の企業や作業団体単位での外国旅行のためのパスポート管理を強化し、公務パスポート承認をすすめ、普通パスポート所有者の公的業務を行うための外国旅行を禁じる。
(付録2)――チベット自治区での普通パスポート取得の10段階
2012年4月29日発行の通知第22号に記載されている指示に基づく要約
出典:ヒューマン・ライツ・ウォッチ
- 申請は、申請者が居住する村(または近隣の村)委員会、町人民政府(または近隣の町)、および警察署に行われ、一次審査を受ける。
- 申請者は、一次審査のため、居住する地方警察署に申請書を提出する。
- 地方警察署は、町人民政府(または近隣の町人民政府)に申請書を提出し、指導者による審査を受ける。
- 申請書は、郡(郡レベルの市)公安局に提出され、審査と承認を受ける。
- 申請書は、郡レベル(郡レベルの市)人民政府指導者提出され、審査と承認を受ける。
- その後、申請書は、県レベルの公安出入国管理局に提出され、審査と承認を受ける。
- 承認後、申請書は、県レベルの公安局(出入国管理局の管理機関)の主席指導者に提出され、審査と承認を受ける。
- 申請書は、県レベル政府の主席指導者に提出され、審査と承認を受ける。
- 県レベルの公安出入国管理局は、自治区公安省の出入国管理局に申請書を提出し、審査と承認を受ける。
- 自治区の公安部出入国管理局がパスポートを発行する。