この度、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所(チベットハウス・ジャパン)に代表として就任したルントックです。ダライ・ラマ法王日本代表部事務所の代表として、日本に駐在できることを大変嬉しく思うと同時に、非常に重い責任を感じております。
まず、自己紹介を致します。私はチベットに生まれ、インドに亡命後、チベット亡命政権が運営するチベット中央学校(CTA)に通い、チベットの歴史・宗教・文化・生活習慣などを学びました。1980年、成田山新勝寺の留学生として来日し、成田山新勝寺での専門的な勉強の他、柔道・空手の稽古にも通っておりました。その後、当時の拓殖大学の椋木瑳磨太理事長との出会いで、拓殖大学に入学し、学士・修士学位を取得しました。在学中は勉学のかたわら、チベットの現状を一般、メディア、政治家の方々に紹介しました。しかし中国政府の影響は非常に大きく、チベットの本当の現状やその真実を知る方は少ないことを痛感させられました。そこで私は、機会があるたびにチベットの歴史・文化・内外の現状を知って頂けるようさらに努めました。
1996年から2002年まで、チベット亡命政権の役人として、ダラムサラの公安省でダライ・ラマ法王の警護を担当しました。テイケイ株式会社のご協力によりインドで初めて開かれた柔道場で、同僚の警護員たちに柔道・空手の基礎の指導もしていました。そして2002年4月から2013年2月まで、東京のダライ・ラマ法王日本代表部事務所で文化・情報担当官として勤務しました。2013年にダラムサラの公安省に異動となり、再び法王の警護に従事した後、2014年6月に日本に戻ってまいりました。
私たちチベット人は、ダライ・ラマ法王のご指導の下、難民として55年間、インドをはじめネパールやブータンなど世界各地で暮らしております。55年間は長い年月ですが、チベット支援者の皆様は亡命チベット人のことを最も成功した難民と評価してくださいます。このようなお言葉を聴くと大変嬉しくなります。このような成果を遂げることができたのは、ダライ・ラマ法王のご指導とご加護、そして皆様のご支援のおかげです。私たちチベット人は、いつか祖国に帰れる日が来ると信じ、チベットの仏教文化の価値を守っていくよう今後も努力してまいります。
ダライ・ラマ法王のご意向の下、2011年、民主的な選挙によってロブサン・センゲ主席大臣(首相・シキョン)が政治的最高指導者に選出されました。新政権の指導の下、私たちはダライ・ラマ法王が提唱してこられた「中道のアプローチ」を貫くことでチベット問題を解決しようと取り組んでおります。「中道のアプローチ」とは、チベット・中国双方を利する方法でチベット問題を平和的に解決しようという政策です。中道のアプローチにおいて私たちは、“中国がチベットの名実伴う真なる自治を認めるならば、外交・防衛に関しては中国に委ねても構わない”とし、チベットの独立を放棄しております。しかし中国側は、“チベットは中国の不可分の領土である”“独立を放棄していない”と主張することに終始し、話し合いは途絶えたままになっています。チベット人は、このような現状を非常に危惧しております。
チベット本土では、チベット人の高僧・知識人・実業家・教師・歌手・芸術家・作家・富裕層など、少しでも影響力のある人は昼夜を問わず抜き打ちで連行され、取り調べられ、さまざまな冤罪で逮捕されています。そのため、チベット本土にいるチベット人は、中国政府の弾圧と監視に常に怯えて暮らしています。現在、チベットは事実上封鎖されており、外国の報道機関がチベットに自由に入ることはできません。
1951年の十七か条協定の締結以降、中国政府は、“チベット解放によってチベットは発展し、豊かになり、チベット人は平和的かつ幸福に暮らしている”と大々的に報じています。2009年2月から続いている焼身抗議の犠牲者は130名に上り、その半数近くは15歳から20歳の若者です。中国政府の報道が真実なら、中国共産党の恩恵を受けているはずの若者たちがなぜ焼身抗議をするのでしょうか。
軍事・経済的大国となった中国を相手に、チベット問題の解決は難しいという声もあります。しかし、チベット亡命政権とチベット内外のチベット人は、希望を失っておりません。世界中の方々が絶賛してくださるチベットの仏教文化を、私たちは何としても守らねばと考えております。特にチベット本土の若者たちのチベットの仏教文化を守ろうという思いは、以前にも増して強くなっております。このような状況での皆様のご支援は、私たちの原動力であり、ひとりでも多くの方にチベットの真実を知って頂くことが、チベットが抱えている問題を変える力になると信じております。
ダライ・ラマ法王がご自身の三つの使命を守って働き続けておられるお姿を、私は間近で見てまいりました。その三つの使命とは、第一に、慈悲、許し、やさしさなど人間としての価値を高めること。第二に、世界の主要宗教間の調和を促進し、相互理解を深めること。そして第三に、チベットの仏教文化、つまり平和と非暴力の文化を維持することです。私も、ダライ・ラマ法王の三つの使命とロブサン・センゲ主席大臣の方針に沿って「中道のアプローチ」とチベットの現状を一人でも多くの日本の一般の方々、メディア、政治家の皆様に伝えながら、できる限りの努力をしていくつもりです。また、法王の来日を待ち望んでおられる日本の皆様の架け橋となって、与えられた任務を全うするつもりでおります。どうか皆様、私を温かく見守ってください。
ダライ・ラマ法王日本代表部事務所(チベットハウス・ジャパン)はこれまで、大勢のボランティアの皆様に支えられてまいりました。これまでお世話になってきた皆様、また、新しくこれからお世話になるチベットに関心のある皆様と、この日本で仕事ができることを大変嬉しく思っております。ダライ・ラマ法王日本代表部事務所スタッフ一同、チベットと日本のさらなる友好促進と文化交流に向けて活動を続けてまいりますので、皆様にはこれまでと変わらぬ温かいご支援とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。合掌
2014年8月吉日
ダライ・ラマ法王日本代表部事務所
代表:ルントック