(1993/12/10)
1948年以来45回めを迎えた12月10日の世界人権デーにあたり、チベット国民−特に中国の圧政下で生きているチベット本土の人々−へ、私は真心を込めて言葉を贈りたいと思います。
周知のとおりチベット問題は、600万チベット人の現在,及び将来に亘る幸福を左右するのみならず、世界人権宣言とも関係し、国際政治の場で頻繁に議論されております。
中国による占領以前のチベット社会が、現代的な意味に於いて発展したものであったか否かにかかわらず、一般的に国民が基本的な権利と自由を享受していたという事実は動かせません。一方、中国の支配下でチベット人たちが筆舌に尽くし難い苦難は、我が国の歴史上に前例を見ないものです。この点は、国際社会一般に認められている事実です。真実,自由,民主主義の灯火が、覆い隠されること無く輝き渡り、世界各地でその勢いを強めています。この光が、次第にチベットも照らし出すことは間違いないと、私は信じているのです。
私たちの運動は、イデオロギー闘争ではありません。例えば「チベット人が改革,共産主義,変化などに抵抗している」という図式では、説明できないのです。まして、私たちが中国人そのものに敵意を感じている−というようなことはありません。私たちはただ、外国の武力による不法な占領に対して自らの権利を守るためにだけ、運動を展開しているのです。正義,自治の権利,そして自らの将来を決定する権利のためにこそ、私たちは闘っているのです。600万チベット人にそれらが満たされない限り、この運動は続けられます。
今日、私たちにとって追い風となるような内外の肯定的諸要素が、数多く生じてきています。中国側がこうした状況に耐えられず、私たちの亡命政権,そして力の源泉となっている民族の団結を破壊しようとする挙に出るかもしれません。また、私たちの共同社会の中に、誤解と不和を生み出そうと試みるかもしれません。だから、皆が慎重になり警戒する必要があります。
あらゆるチベット人たちが各自、共通の目的へ向けて力を尽くし働くなら、チベットに幸福の太陽が昇る日も遠からず訪れるでしょう。チベット本土に残っているチベット人と亡命中のチベット人が再び一つになるという喜びに満ちた機会の訪れるとき、チベット(ウ・ツァン,カム,アムドの三地方からなるチベット全国)は、真の自由,民主主義,統一の道を、国民の希望に基づいて進むことになります。「将来に於けるチベットの政治形態の指針と憲法の基本要点」に明記されているとおり、チベットの民主主義は、仏教が説く慈悲,善,平等の原則に立脚したものとなるでしょう。チベットは平和地帯となり、また政府の指導原理としての環境を保全してゆきます。
願わくは、遠からず本土のチベット人と亡命チベット人が相まみえ、幸福の果実を手にすることができますように。