以下は、 2004年8月10日にアテネで行われた「宗教、平和、そしてオリンピックの理想」と題された異宗教間会議へのダライ・ラマ法王からのメッセージの内容である。
私たちの誰もが平和を願っていますが、どのようにしたら平和を得ることができるのか迷ってしまうことがしばしばあります。暴力はさらなる暴力へと繋がることは必然です。暴力は解決にはなりえません。また長期的な展望においても、決して解決になりえません。今日、対話、妥協、議論、また人間的な理解と謙虚さを通じることが、それぞれの相違を解決できる適切な方法なのであると考える人がだんだん増えています。これは、真の平和は相互の理解、尊重、信頼を通して得られるものあるという認識が発達していることの表れです。
オリンピックもまさにこうした精神のもとで行われています。フェアで誠実な競争で優位を勝ち取るため、自らの肉体を鍛え上げ完成させたアスリート、スポーツマンの選手にとっては、オリンピックはまさに絶好の機会といえましょう。
私は、世界の平和は個々人の心が平和であるかどうかにかかっていると考えます。この見解のもとに、宗教に関心のある人は特別の責任と関心を払うべきであるとも考えます。全ての宗教は、許し、忍耐、慈悲を説き、その道を人々に啓蒙します。それらは、異宗教間でも共有できる偉大な価値ある実用的性質を持つものです。一方で、宗教が時に争いを引き起こす源になっていることは不幸なことです。この場合、無知、誤解、そしてそれによって生じた恐れが争いの原因となっています。異なる伝統ある宗教に携わる人たちの間で活発に対話を交わすことは、こうした宗教における短所を直すことに尽力できるはずです。私は、異宗教間で互いに学ぶことが数多くあることを信じて疑いません。
よって、私は、東方正教会総主教庁とアマロシン・オリンピック事務局の共催による「宗教、平和、そしてオリンピックの理想」と題した異宗教間会議の開催を歓迎するものであります。オリンピックの理想に感化された平和な世界に向けて力を注ぐため、宗教と我々の(心の)内的発展が果たす役割を人々に注意を喚起することは、オリンピックがその発祥の地でまた開催されるというこの素晴らしい好機に大変ふさわしいことだと思います。異宗教間会議「宗教、平和、そしてオリンピックの理想」が、まさに平和が勝者の凱旋をあげるような、より幸福で友情に満ちた誠実な世界を創出するため、実質的な前進を踏み出すことを心より祈っております。
2004年8月7日
ダライ・ラマ