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怒れる少数民族が大学で見つけた代弁者

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(2010年1月4日 ALEXA OLESEN、AP通信記者)

(北京)若者たちは後方の柵に上ってもっとよく見ようとし、イスラム教のスカーフをかぶった女性は携帯電話で写真を撮っている。

「わたしたちは龍の子孫ではなく、狼の子孫だ」とイリハム・トフティ(Ilham Tohti)は叫び、漢族中国人とウイグル少数民族の創世神話の間に明確な一線を引いた。 「わたしたちを創ったのは中国共産党ではない。わたしたちの歴史は60年を遥かに超えている」

中国の西端、主にイスラム教徒の住む地域である新疆出身で40歳の経済学者であるトフティにとって、毎週の講義は綱渡りのような行動である。中国の新疆に対する態度と人々の扱いを批判して、彼はこの10年何度も自宅に軟禁されている。しゃれた服装の教授がこぶしを突き上げて、驚くべき率直さで、彼自身の民族、ウイグル族の苦難を語るのを一目見ようと集まる学生たちで、毎週金曜日の午後、大学の一室はいっぱいになる。

漢族、ウイグル族、カザフ族という中国におけるさまざまな民族の学生の尊敬を集める恐れを知らないその態度が、まさに政府の恐れるものである。

しかしトフティは分離独立主義者でも反体制派でもない。彼は共産党員であり、中国の一流大学の教授であり、自身を漢族とウイグル族の架け橋と見ている。彼が中道であることの承認や、彼との協同を政府が否定していることが、不安定化したウイグルおよびチベットと共産党の争いの解決が難しいことを示している。

「あくまで中国の既存の政治秩序に則って活動するという確固たる態度がイリハム・トフティの卓越している点です」とハーバード大学のウイグル史研究者Rian Thumは語る。「彼は率直かつ明確に中国の差別的な多くの方針を批判しますが、著作においては中国のイデオロギー上の根拠や新疆の中国支配の正当性に異議を唱えていません」

中国内のウイグル族は約1千万人で中国の人口の1%に満たず、石油とガスを豊富に埋蔵する中央アジアの地域に居住している。イスラム教徒が主である同地のウイグル人の一部に、彼らが東トルキスタンと呼ぶ新疆の独立を求めるナショナリズムの機運が復活したのは、ソ連崩壊とイスラム過激派の台頭の影響である。

漢族の移民の激増をよく思わないウイグル族は、移民のために仕事を失い、ウイグル文化が侵害されると言う。その憤りは7月5日に新疆の首都ウルムチで暴動の形で爆発した。漢族所有の店舗は破壊されて燃やされ、多くの漢族が殴打され焼き殺される者まで出た。

政府は多くのウイグル族を裁判にかけ、9人の死刑を執行した。

トフティは3週間に渡り北京のホテルに勾留されて警察の尋問を受け、罪状無しで釈放された。2006年に彼の開設したウェブサイト、Uighur Online(ウイグルオンライン)は、暴力行為の煽動に与したと当局に指摘され、閉鎖せざるをえなかった。同サイトは彼が米国のサーバー上で再開しているが、中国国内ではブロックされている。

トフティは生き生きとしたスピーカーで、教師というよりは伝道者だ。彼の背後に映し出されるスライドショーには暴動後のウルムチのショットが次々と現れる。焼かれた車、町を巡回する警官と兵士、拘束された親戚の情報を中国治安部隊に求めて泣くウイグル女性、暴力行為に抗議して行進する怒った漢族。

彼は教室で民族の誇りを確立しようとしている。

ウイグル族が、チュルク語系のウイグル語と北京語という2つの根本的に異なる言語を使用しなければならないこと、それでいてそのアクセントをばかにされることを、彼は多くのウイグル族学生に思い起こさせる。

彼は問う。どうして新疆へのフライトで乗務員はウイグル語ではなく英語を使い、列車のスタッフは中国語しか使わないのか。

中国では、これらの話題は通常は公には語られない。差別は毎日実際にあると話す若いウイグル族にとって、教室でそれを聞くことは刺激的である。ウイグル族がホテルやインターネットカフェへの出入りを禁じられることはよくある。犯罪者かテロリストと思われているからだ。買い物をしているときも漢族の警備員に疑いの目で見張られていると多くのウイグル族は言う。

ある大学生はトフティについて「彼はわたしたちの代表です」と言う。「彼のようにわたしたちがはっきり物を言うのは難しいのです。漢族中国人がウイグル族に対して偏見を持たず、敬意を持つべきだと言うのは」。就職に響くので、名前は伏せてほしいと彼は言った。

中央民族大学での2時間にわたる力強い満員の講義の後、トフティは一息入れ、このまま話し続けるべきか学生に尋ねた。
「続けてください」と学生は一斉に叫び、彼は続けた。

「学生は彼を本当に崇拝しています」と、トフティにウイグルのストリートチルドレンについてインタビューしてから彼と親しくなった中国人ジャーナリストHuang Zhangjinは言う。「7月5日の事件について勾留され尋問を受けて教室に戻ったとき、彼は総立ちの大喝采で迎えられました」

トフティの意見とスライドショーは挑発的であるが、彼は慎重であり、決して独立や暴力を支持することはなく、また中国の新疆の支配権にあからさまな疑問を示すこともない。

代わりに、自分たちを守るために中国の法律を利用し、また海外のウイグル人権活動家を避けるように学生に訴える。

「あなたたちは北京の漢族に対応しなければならない、欧米に期待するなと学生には言います」と北京の自宅アパートでのインタビューでトフティは吠えるように笑いながら言った。「欧米はあなたたちのために軍隊を送って中国と戦うことはしないよと」

しかし当局はトフティを海外の活動家と同一視し、7月の暴動を煽ったと非難する。

「当局がトフティのような人物までも敵とするなら、少数民族との関係を改善することなどどうやって可能でしょうか」と、この夏彼が勾留されたときに解放の嘆願書を提出した中国の知識人(Wang Lixiong)王力雄は言う。

これまでトフティは罪に問われたことはないが、その覚悟はしている。2007年、彼は妻を法的に守るために離婚した。2人は今もいっしょに住み、第2子の出産予定もある。

「警察にはずっと付け回されているから、それには慣れてしまった。そのために自分のしていることをやめることはないし、生きている限り続けるよ」


(翻訳:太郎次郎)