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宗教活動の場に関する中国の令第19号は人類文明にとっての大きく後退である

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作:アリヤ・ツェワン・ギャルポ*

9月1日に施行された命令第19号は、中国全土と中国の全ての宗教に悪影響を与えるものであるが、チベットやその他の占領地域にとってはとりわけひどいものとなっている。

中国共産党(CCP)指導部は、「命令第19号」「宗教活動の場に対する行政措置」を2023年9月1日から施行すると発表した。これは中国とチベット、東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)、南モンゴル(内モンゴル自治区)など中国の占領地域の宗教施設を従属させ、支配するための、中国共産党のもう一つの凶悪かつ致命的な動きである。それはおそらく、すべての宗教の基本原則を共産主義イデオロギーで滅ぼし、徹底的に害するために用いられる、最後の致命的かつ辛辣な剣となろう。

新しい政令は全10章からなり、その中には73の条項と多数の下位条項および注記がある。これらの条項は、国家安全保障と公共の安全を装ってはいるが、国内における宗教の自由な実践と宗教教育を妨害し、弱体化させるための、制約の多い有刺鉄線にすぎない。各章の内容は以下の通りである。

1)一般規定2)設立の承認および登録3)管理組織4)個人の管理5) 宗教活動の管理6) 構築の(construction)管理7) 安全管理8) 監督と管理9) 法的責任10) 最終条項。

命令第19号第1条には、この措置は「通常の宗教活動を保護し、宗教活動の場及び信者の法的権利と利益を保護するために」中国憲法に従って策定されると述べられている。

しかし、全10章の政令に含まれる条項の多くが、宗教の実践の自由が理論的に認められている条項と矛盾している。したがって、命令第19号の第1条自体に、出だしから技術的過ちが存在するのである。いくつかの章と条項を詳しく見てみたい。

この命令の第3条は、中国共産党指導部が実際に念頭に置いていることを明らかに裏切っている。「宗教活動の場は、中国共産党の指導と社会主義制度を堅持し、新時代のための、中国的特徴を有する社会主義という習近平主席のイデオロギーを徹底的に実践し、憲法、法律、規則、規定および宗教活動の管理に関する関連条項を遵守し、社会主義の中核的価値を実践し、中国の宗教の中国化という方向を堅持するものとする。」

中国政府が認めている五大宗教は仏教、カトリック、プロテスタント、イスラム教、道教である。中国はこれまで、さまざまな手段や大げさな法律を用いて、地域の状況に応じて、中国とチベット、東トルキスタン、南モンゴル、香港の宗教団体を潰してきた。中国政府は現在、この命令を用いて、あらゆる場所のあらゆる宗教を、罰することなく取り締まるための包括的権限と正当性を得ることを目指している。ここで中国政府は非常に大胆かつ公然と明らかにしているが、あらゆる宗教がそれぞれの宗教的言説の中で、「習近平主席による中国的特徴を有する社会主義イデオロギー」を採り入れることを義務付けている。これは冒涜的なものであり、決して受け入れることはできない!

宗教団体が、宗教をまったく信じていない個人や組織のイデオロギーに同化することや、それを採り入れることを強制された場合、宗教の自由はどこにあるのだろうか。中国の憲法第36条はこれをどのように規定しているのだろうか。中国共産党指導部は憲法を超越しているのだろうか。これらも中国共産党指導部が答えるべき、関連している質問である。

命令の第2章「設立の承認および登録」には16の条項があり、さらに20を超える下位条項がある。こうした条項により、修道院や寺院、教会、モスクを設立し、登録するための手続きが、非常に厄介でややこしくなった。地方や特定の地域の宗教団体を含めなければならないこと、「民主的協議」による管理組織の設立、会員や宗教の教師の特定など、全てにおいて煩雑な作業を行わなければならなくなった。申請者は、宗教活動の場に関する登録証明書の発行の監視を任されている、宗教局所属の中国共産党幹部のなすがままにされている。

第16条には「宗教活動の場には教会や宗派、人物の名を付してはならない」と規定されている。しかし、特に仏教では、僧院や寺院の名前を昔の学問の中心地や関連する学校、尊敬されていた教師にちなんで付けることがしばしばある。ようするにこの条項は、宗教実践者を悩ませ、礼拝所の設立を阻止しようとする中国共産党指導部が意図的に作成したものである。

第24条は「管理組織」に関する条項であるが、非常に曖昧かつ巧妙に書かれており、悪用や誤解を招きやすい内容となっている。また、宗教活動の場の管理組織の構成員は、中国国籍を有する本土居住者でなければならないという第27条の文章は混乱を招くものであり、見当違いのものである。第36条には「宗教活動の場は学習システムを確立し、参加者が中国共産党の指針と政策、国内法と規則、中国の優れた伝統文化、宗教に関する知識などを学習するための場を定期的に組織しなければならない」と規定されている。この条項は、中国共産党のイデオロギーとプロパガンダを教え込む強制教化を促すものであろう。これは、宗教施設や教育への中国共産党の侵入と干渉を合法化することを目的としている。中国の漢民族の文化は他の少数民族の文化よりも優れていると直接的に主張しているのである。

第50条には「宗教活動の場は中国の様式を反映し、建築、彫刻、絵画、装飾、その他の視覚的側面において中国文化を統合しなければならない」と規定されている。これは少数民族の宗教的信条や文化を完全に無視し、中国文化を強制するという中国共産党指導部の政策を明確に示している。そして、漢族の狂信的愛国主義を公然と公式に宣言するものである。この法律はまた、寺院や教会の外側に宗教と関連する大きな像を建てることの禁止についても言及しており、これにより2021年12月に、高さ30メートルの釈迦如来像や高さ7メートルの弥勒菩薩像、チベットのカム省ドラゴ地域にある45のマニ車を中国共産党が破壊することが遡及的に正当化されることとなった。この法律は「国家の統一を害し、国を分裂させる者は除去されるべきであり、さらに、構成員を評価する適切なシステムが存在するべきである」と主張している。ダライ・ラマ法王に忠誠を尽くすことと、チベット語の使用を奨励することは、「分裂主義」活動とみなされるため、チベットの僧侶や僧院の施設が新しい命令の下で更なる困難と弾圧に直面することは必至である。

中国は2007年には、チベット仏教の高僧たちの生まれ変わりの選定と任命に対する権威と監督を主張する、宗教令第5号を可決している。この命令は共産主義のプロパガンダをおうむ返しに述べる、上辺だけの偽りの宗教の教師を生み出すために、2007年9月1日に施行された。現在の親中派パンチェン・ラマは偽物であるが、この政策の最も有名な産物である。今回、16年後の同じ日に施行されたこの命令第19号を用い、中国政府は、習近平による中国的特徴を有する社会主義イデオロギーに従わないあらゆる宗教施設を閉鎖し、弾圧し、潰す自由を中国共産党幹部に与えようとしている。

ボストン大学の2020年世界宗教データベースによると、中国には2億8,800万人以上の仏教徒、1億600万人以上のキリスト教徒、2,400万人以上のイスラム教徒、そして600万人以上の道教の信者がいる。こうした数字からも、宗教に関するこの制約的な法律の影響をどれだけの人が受けるのか十分に推測できる。また、9,800万人という中国共産党員の数に比して、国内の宗教の信者の数が圧倒的に多いという事実に直面した中国共産党指導部の恐怖も理解できる。しかし、弾圧や制限措置は解決策にはならない。中国当局が統治の正当性を勝ち取ることができるのは、少数民族の宗教と文化を尊重することによってのみである。

これまで少数民族は、自分たちの文化や宗教の中国化を中国共産党指導部が推し進めていることに対して抗議してきた。しかし、中国政府はこのような命令を発し、宗教の中国化を国内法の一部に含め、義務化した。ここで言う中国化とは、習近平の、中国的特徴を有する社会主義イデオロギーを遵守することである。国際社会と世界の宗教的共同体は、中国人、チベット人、ウイグル人、南モンゴル人とともに、この非常に厳しく違法でもある命令第19号の布告を共に拒否し、中国人も中国の少数民族も、中国憲法第36条および世界人権宣言第18条に規定されている信教の自由を享受できるようにすることを中国政権に求めるべきである。

国際社会の沈黙は、宗教に対する共産党指導部のさらなる残虐行為を助長させるだけでなく、仏教やキリスト教、イスラム教、道教など、主要な宗教の教えを共産主義イデオロギーと混同させることにより、それらに対する冒涜を許すことになるだろう。そしてこれにより、中国だけでなく、人類の文明全体が大きく後退することになるであろう。

和訳:三浦朝子

*アリヤ・ツェワン・ギャルポ博士は、情報・国際関係省(DIIR)長官及び、チベット政策研究所(TPI)所長を歴任した。現在、ダライ・ラマ法王日本・東アジア代表部事務所の代表を務めている。免責事項: 本稿の意見に関わる部分は筆者の個人的な見解である。

この記事は、2023年10月10 日付の“Bitter Winter”に掲載されたものです。その和訳は、11月19日に新宿区立新宿歴史博物館で行われたチベット・ウイグル・南モンゴルセミナー「中国の国家宗教事務局令第19号は宗教に対する犯罪である」にて発表しました。