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善いこころを育む

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2021年11月10日
インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ

今朝、ダライ・ラマ法王は「善いこころを育む」という主題でオンライン講演を行われた。主催は日本外国特派員協会(FCCJ)で、まずFCCJのスヴェンドリーニ・カクチ会長が法王を歓迎し、続いて進行役のピオ・デミリア氏を紹介した。

法王公邸から臨まれた日本外国特派員協会主催のオンライン講演に先立ち、スヴェンドリーニ・カクチFCCJ会長から歓迎を受けられるダライ・ラマ法王。2021年11月10日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

デミリア氏は法王にお会いできた喜びを伝え、「これから世界はどうなるのでしょうか。人々は今より優しくなれるのでしょうか」と質問し、本日の講演が始まった。

ダライ・ラマ法王は次のように述べられた。
「善いこころとは温かいこころであり、慈悲深く愛情深いこころのことですが、それが私たちが生き延びていくための土台です。人間は、少なくとも哺乳類である以上、生物学的にもお互いに愛情を持って接したいと思っています」

「私たちは生まれたときから母親が愛情をもって世話してくれます。そうでなければ、死んでしまいます。まだ母親のお腹にいるときから、母親の機嫌の良し悪しや、心が平穏であるか否かによる影響を受けています。人間は社会生活を営んで生きていく類いの生き物ですので、他者に依存しなければ生きていけません。私たち人間は愛情に支えられて成長します。このことが、あらゆる宗教において愛の大切さを説く理由のひとつです。宗教にあまり関心のない人も同じ人間であり、愛情に満ちた優しさを経験することが、幸せな人生を送ることにつながります」

「どこへ行っても私には友人がいますが、それは私が出身地域や人種、宗教の違いなどによって区別しないからだと思います。私にとって、他の人々は兄弟姉妹のようなものです。その結果、人々は概ね私に対して親切にしてくれます。彼らは私がいつも笑っている顔に反応してくれているのです。もし私が人々に対してしかめっ面をしたり、つっけんどんな態度を取ったとしたら、このように多くの友人を得ることはできなかったかもしれません」

「優しさや思いやりは、動物に対しても有効です。犬に笑顔で親切にすると尻尾を振りますが、怒った顔で文句を言うと尻尾を巻いて逃げてしまいます」

「近代教育においては、優しさや思いやりの重要性が十分に教えられていません。幼い子どもたちは家では笑顔で過ごしますが、学校に通い始めると知性を磨くことばかりが重視され、その笑顔が他の心配事にとって代わってしまいます。そのバランスをとるためにも、優しさや思いやりが幸せに生きることに役立つということを、教育のカリキュラムに組み入れる必要があります。不安や怒りに支配されると睡眠が妨げられますが、心が平和であればよく眠れます。優しさや思いやりのこころは人類全体に恩恵をもたらすことができるのです」

「それでは、なにかご質問があれば受けたいと思います」

ピオ・デミリア氏が外国人特派員に対し、質問する上でのルールとして簡単に自己紹介をしてから質問を簡潔、明快にするよう求めた。そして、最初の質問は、恐ろしい状況下であっても心の平和を保つ方法についてであった。

日本外国特派員協会主催の「善いこころを育む」と題したオンライン講演で、法王公邸からFCCJのメンバーに向けてお話をされるダライ・ラマ法王。2021年11月10日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「一般的な教育では、優しさを育み、心の平和を保つ方法について教えるということが大きく欠けています。すでに述べましたが、実際、心が平和であれば不安や怒りを克服できます。温かいこころを持っている人は穏やかで幸せです。私は一人の難民で、多くの苦難に直面してきましたが、内なる平和を培うことがとても役立つということを身をもって理解することができました。優しく思いやりのある態度をとることが鍵となるのです」

「私たちチベット人はナーランダー僧院の伝統に基づいて仏教の教えを学んできているので、根拠に基づくものの考え方をします。私たちの心の平和は根拠に根差しているのです。私たち人間は感情、特に精神の均衡を崩しやすく、怒りに捕らわれてしまいがちですが、心の訓練を積むことにより、怒りや恐れを減じ、思いやりの気持ちを高めることができます。それは私が子供のころから親しんできた訓練なのです」

次に、もし法王が世界の2600万人の難民のリーダーに選ばれたとしたら、最初に何をされますかとの質問に対して、「私はただ単に一人の人間であり、チベット人です。リーダーとなることに関心はありません。私は政治的な活動からは完全に引退しています」と述べられた。また、「あなたの人生において何か後悔はありますか」との質問には、「それはありません。私の人生を振り返ってみると、私は常にすべての人間が私の兄弟姉妹であると考え、心の平和を保つよう努めてきましたので、後悔は何もありません」と答えられた。

異なる宗教を持つ人々と共に平和に暮らすためにはどうしたらよいかについて、インドネシアの特派員がイスラム教徒への助言を求めると、法王は次のように述べられた。
「70億の人間は皆、同じような感情を経験しますが、その中には怒りや差別を強調する指導者たちに操られている人たちもいます。そして、政治家が宗教的な忠誠心を政治に利用したり、宗教の違いを悪用したりする場合もあります。しかし、結局のところ、宗教の選択は個人の問題です。ひとりひとりが優しさと思いやりのこころを育み、人類はみな兄弟姉妹であるという感覚を養えば、それが人類全体に対する関係に波及するのです」

台湾が現在直面する状況を1949年のチベットが置かれていた状況と比べてどう思われるかという質問には、法王は「台湾の人々はほとんどが漢人であり、仏教を含め、中国古代の伝統や文化の多くの側面を守り継承されてきました」と述べられ、「中国本土は、台湾に経済的な機会を提供するとともに、中国古来の価値や伝統を台湾から学ぶことができると思うのです」と語られた。

そして、「中国と台湾が平和的に協力する方法を見つけられるように心から祈っています」と述べ、次のように続けられた。

「私が中国にいたとき(1954 – 55)、毛沢東主席や他の指導者たちにお会いしたことがあり、彼らのマルクス主義の価値に感銘を受けたものです。しかし、ある時、毛主席が “宗教は毒である” と宣言され、その瞬間、私は毛主席がどれほど宗教を敵視しているかということに気付いたのです」

日本外国特派員協会主催の「善いこころを育む」と題したオンライン講演で、法王公邸からお話しをされたダライ・ラマ法王に質問をするジャーナリスト。2021年11月10日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

別の質問者からは、習近平氏が3期目の任期を迎えたことをどう思われるか、そして香港や新疆で起きたことを考えると、世界は間近に迫った冬季オリンピックをボイコットすべきではないか、という質問があった。それに対して法王は、習近平氏については何も言及しないと明言され、毛主席や他の指導者たちに会ったとき、彼らのイデオロギーに魅力を感じる面もあったが、厳格に管理しようとする姿勢には魅力は感じなかったと述べられた。そして、新しい世代の指導者の下で物事が変っていくことへの期待を示された。チベットと新疆については、中国共産党の一部の指導者は、異なる文化の価値や役割を理解しないばかりか、中国内にチベット人やウイグル人などの様々な民族が暮らしていることさえ理解していない、と指摘された。

次に、新型コロナウィルス感染症の世界的大流行によって引き起こされた困難に対して、地域社会はどのように対処したらよいかについて助言を求められると、法王は、ご自身よりもっと的確に助言する資格のある専門家がいると答えられた。

別の外国人特派員が「習近平主席と会う予定はありますか」と質問すると、法王は次のように述べられた。

「具体的な予定はありませんが、数年前から五台山へ巡礼に行きたいと希望してきました。もしそれが叶っていたなら、北京に立ち寄り中国の指導者とお会いすることもできたでしょう。また、中国の旧友である元官僚や軍人も訪ねてみたいと思っています。私も年を取りましたが、彼らも年を取っているので、彼らがどうしているのか見てみたいのです」

アラビア人の特派員から、「イスラム世界の最も神聖な地であるメッカを訪れたいと思われますか」と尋ねられ、法王は次のように答えられた。

「宗教間の調和を促進することは私の使命ですので、その一環として、ぜひメッカを巡礼したいと思いますし、もし機会があれば、喜んでお受けします。インドには様々な宗教の祈りの場があり、以前、私はそのいくつかを訪れたことがあります。デリーにあるジャーマ・マスジッドというイスラム寺院を訪れたときは、“トピ” とか “タキーヤ” と呼ばれる伝統的な白い帽子を被って礼拝に参加しました」

同じ特派員が、「チベット戻って暮らしたいと思われることはありませんか」と尋ねた。

日本外国特派員協会主催の「善いこころを育む」と題したオンライン講演で、法王公邸からモニター越しに参加者からの質問に答えられるダライ・ラマ法王。2021年11月10日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「私はここカングラ谷のダラムサラで暮らして数十年になりますが、私はここでの暮らしを非常に楽しんでいます。世界中のどこからでも人が訪れてくれますし、私はここにいて世界中の人々とお話することができます。私はとても自由です。何年か前、インド元首相のマンモハン・シン博士に、ここでは完璧な自由があるので、私は生涯この地に留まりたいとお伝えしたことがあります」

次に、「ダライ・ラマ法王は歴代のローマ法王に会われましたが、現在のローマ法王にはまだ会われていませんね」と尋ねられ、「もしフランシスコ法王さえよければ、喜んでお会いしたい」と述べられた。

新型コロナウィルスによるパンデミックへの対処法についての質問には、ご自身は専門家ではないと繰り返されたうえで、どんな状況であっても、平和なこころを保つことができれば、より幸せを感じることができ、不安は減り、身体的にも強くなると思うと述べられた。

台湾のジャーナリストが、法王が以前に台湾を再訪すると述べられたことを思い出し、まだそのご予定であるかどうかを質問した。

法王は次のように答えられた。
「今の時点では、中国本土と台湾の関係が微妙なので、当面はインドで平穏に過ごしていたいと思います。政治的な問題を引き起こしたくはありませんから。しかし、インターネットなどのテクノロジーのおかげで、他の地にいる人々とお話をすることができます。私は台湾の兄弟姉妹や中国本土の兄弟姉妹たちの幸せのために、できる限りの貢献をしたいと思っています」

「私は政治的には中道を旨としており、チベットの完全な独立を求めているのではありません。私の立ち位置はオープンなものとなっています。状況は非常に複雑なので、私のような一介の仏教僧は複雑な政治の問題に頭を突っ込みたくはないと思うことが時々あります」

最後に、ピオ・デミリア氏がダライ・ラマ法王とローマ法王のどちらが先に中国を訪問すると思われるかと尋ねると、法王は「神のみぞ知るですね」と言って笑われた。

デミリア氏は、過去にダライ・ラマ法王は日本外国特派員協会の名誉会員として登録されていたが、期限が切れていたので、この度、登録を更新したと言って新しい会員証を法王にお見せした。デミリア氏は、「私たちは法王がこの名誉会員証を直接受け取りに来られることを楽しみにしています」と伝えた。

法王は、「ありがとう、またお会いしましょう」と応じられた。