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ワンダー氏、チベットの仏教と現状を語る

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1999年11月17日
東京

17日神田外語学院に招かれたダライ・ラマ法王日本代表部事務所のワンダー氏は、「インター・カルチュラル・コミュニケーション」を受講する学生に対してチベット仏教とチベットの現状、日常生活についての講義を行った。受講した学生は26名。

◆◆ チベット仏教について ◆◆

仏教とは何であるか、皆さんご存知ですか?

仏教は大きく分けて3つあります。大乗、小乗、密教。“乗”を英語で言うと“vehicle”、サンスクリット語では“ヤナ”ですね。お釈迦様の直接の教えをチベット語で“カンギュル”といいます。それは108冊の本から成ります。その他にインドの聖者や過去の学者が直接の教えを注釈したもの202冊あります。それはそれぞれの年代に合わせて書かれています。なぜなら、人はそれぞれ見方、考え方が違うので、お釈迦様はそれぞれに対して教えを説いています。“マハーヤーナ”や“タンタリアーナ”でお釈迦様がちゃんと教えています。しかし残念ながら、そうした教えに従わない人がいます。お釈迦様の根本の教えは、「慈悲と愛情と知恵を武器に全てのものに尽くす努力をしなさい。もしそれができないなら、他のものに迷惑をかけないようにしなさい」ということ。

チベットには大乗、小乗、密教の3つの宗教があります。僧侶たちは毎日それを励みにして勉強しています。僧侶になると、赤い袈裟を着て3つの戒律を守り、彼らは結婚しません。一生一人です。それは尼さんも同じです。他のために尽くすのであったら、一人でいるしかありません。「一生人のために尽くす」ということは人生を諦めたのではありません。人間の力は限られています。悟るにつれ、パワーが得られます。キリスト教的に言えば“全知全能”です。過去、現在、未来の三世に渡って、他のために尽くすことができます。

悟りとは“ニルヴァーナ”です。それはサンスクリット語で、元の意味は“火がぽっと消える”こと。それは中国と日本では“涅槃”になります。仏教の教えでは全ての生き物が仏陀になります。だから、皆さんも仏陀です。全ての生き物の幸福を願い、不幸を捨てるという意味では全ての生き物は同じです。誰でも幸福が欲しいということで動いています。我々はすべて仏陀であるので、煩悩、無明に囲まれています。

人は三毒(貪欲、瞋恚、無明あるいは愚痴)からいろいろなものに走ります。三毒にはそれぞれ2万1千の感情があり、三毒とそれを合わせたものを合計すると8万4千の感情が我々の心に存在することになります。これをなくすことで悟ることができるのです。瞋恚を有すると、冷静さを失い、理論的に理解することができなくなります。僧侶は、8万4千の感情をなくすために修行します。

諦とは真理です。つまり、四諦とは4つの真理のことです。

あるバラモン教徒が「あなたは何ですか?」と質問したところ、お釈迦様は「私は目覚めたものです」と答えました。その観点からすると、我々はまだ寝ている状態、夢の中にいるのです。夢を見ている時は、それが夢であることに気づきません。目覚めた瞬間、初めてそれが夢だと分かります。目覚めるとは、それと同じことだと私は解釈しています。

◆◆ チベットの現状について ◆◆

今から40年前チベットは一つの独立国家でした。1959年に中国に侵略されて、今は中国の自治区になっています。もともとチベットは3つの州で構成されていました。侵略後、ウ・ツァンはチベット自治区に、アムドは青海省に、カムは四川省、雲南省、甘粛省の1部となりました。残されたのは、ウ・ツァンだけです。

1959年ダライ・ラマ法王はインドに亡命しました。ダラムサラで亡命政府を樹立し、国際社会に対して、様々な呼びかけを行っています。日本には言葉の障害がありますので、関心を持つ方は少ないです。北アメリカ、ヨーロッパでは多くの活動が行われていて、大学の中でもStudents for a Free Tibetという組織が活動しています。日本でも今年6月に設立されました。アメリカやヨーロッパではダライ・ラマ法王の謁見が行われ、それはすごい人気です。最近チャールズ皇太子が江沢民の夕食会に欠席したことがニュースになりました。ダライ・ラマ法王が欧米を訪問する時はVIP扱いです。なぜなら、チベットの指導者であり、世界的な宗教指導者であり、ノーベル平和賞受賞者だからです。しかし、日本では違います。

チベットでは、ダライ・ラマは観音様の化身とされています。観音は慈悲の菩薩です。“愛”とはみんなが幸福になって欲しいということで、“慈悲”とは不幸になってほしくないと願うことです。仏教では前世、今世、来世があり、必ず生まれ変わるとされています。我々は煩悩に支配されているためどこから来て、どこに行くのか分かりませんが、化身は自分がどこから来て、どこに行くのか理解しています。高僧は死ぬ前に「どこに生まれ変わり、どこで発見され、名前はこうだ」と手紙に書き残します。

マーティン・スコセッシ監督の「クンドウン」ではダライ・ラマの選出方法が描かれています。「クンドウン」とは日本語では“御前”といいます。

◆◆ チベットの日常生活(衣食住)について ◆◆

以前のチベットは自給自足の社会でした。遊牧民、農民、商人が社会を形成していました。チベットでは1年に1回しか作物が収穫できません。インドや中国の国境に近い地域では比較的多くの作物が収穫できますが、それ以外の地域では何も獲れません。雨量が少なく、土地が豊かではないからです。そうすると、必ず1年に1回収穫物がなくてはいけません。そこから、精神文化と物質文化が共生することになるのです。

中国共産党にチベットが侵略されてから120万人のチベット人が殺されました。チベットの人口は600万人で、6人のうち1人が亡くなったことになります。さらに、6千カ所の寺院が破壊されました。チベットの寺院は日本の病院と図書館とコミュニティーセンターと学校を一緒にした感じです。文化の起点です。それが全部破壊されました。寺院には20人〜7,700人の僧侶がいます。チベットには山がたくさんあり、その麓に村が形成され、山の途中に寺院があります。僧侶は食べ物と着る物があれば、他には何もいりません。村では作物を育て、僧侶が雨を降らせ、自然災害から守る役目をして、少し収穫物を分けてもらいます。それが共生です。現代では科学が進歩していますが、それ以上の力が人間にはあるのです。そうした仏教哲学に従って、自然と共に生きているのです。木、草、水、山、人間、動物は共存しなくてはいけません。

チベットの国土は日本の約6.5倍で、人口はたったの600万。チベット人は常に自分のお椀を着物の中に携帯しています。遠くへ出かけた場合、他人の家でお茶も飲めるし、ご飯を食べることもできるからです。

主食はツァンパです。ツァンパは麦こがしを乾燥させたもので、そのまま食べることができます。バター茶の中にツアンパを入れて、肉や野菜を一緒に食べます。寒いところなので、体を温めるためにうどんも食べます。

仏教の根本はカルマ(業、Activity)です。それに従って、チベット人は生活しています。カルマの法則は「良いことをすれば良いことが返ってくる、悪いことをすれば悪いことが返ってくる」という因果の法則です。何らかの原因があって、そこに結果が生じます。チベットの生活は単純かもしれませんが、平和に満ちています。

◆◆ 質疑応答 ◆◆

■ TIBETAN FREEDOM CONCERTについて詳しく聞かせて下さい。

−TIBETN FREEDOM CONCERTはBeasty Boysが設立したMilarepaの主催で行われ、アメリカでは何十万人もの人が集まりました。日本では今年6月13日に初めて行われました。欧米ではStudents for a Free TibetやMilarepaといった多くの若者がボランティアとして参加しました。もちろん、出演したアーティストもすべてボランティアです。収益金は全て難民学校や難民キャンプに送られます。会場の雰囲気はとても良かった。日本には何かしたいと思っても、平和すぎてやることがありません。今回のイベントを通して、若い人たちに行動を起こすというきっかけを与えることができました。日本ではまだ始まったばかりなので、来年もぜひ開催してほしいと思います。

■チベットの民族衣装はどういうものですか?

−チベットの衣装は日本の着物と一緒です。チベットは高度で寒いので、着物を重ねることによって、風を防ぎます。袖も長いので、手袋が必要ありません。少し暑くなると、片腕を出して調節します。厳しい環境で生活するための知恵です。

◆◆ 講義後の学生の感想 ◆◆

「音楽に興味がありまして、TIBETAN CONCERTは雑誌で見て知ってました。国際問題とかを直接そのまま言葉にしてしまうとすごくきついので、音楽を通して表現することはすごく効果的で、共感も得られると思います。日本でStudents for a Free Tibetが設立されたのはいいことですね」

「日本も仏教の国ですが、それとは全然違いますね。内容は感覚的に捉えるようなもので、言葉で表すのが難しいと思いますが、今日はそれを教えていただいて、今までにない初めての経験でした。今まで学問的に仏教を理解してきましたが、今日は心で捉えることができました。仏教とは感じて理解するものなんですね」

(取材/LT)