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WTNのチベット人インタビューアー&チベット亡命政権主席大臣 議論白熱! チベット・中国間交渉 【第2部】チベット人の離散問題

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(2004年2月21日 WTN)

2003年10月、ワールド・チベット・ネットワーク(以下、WTN)の編集者ツブテン・サンドゥップは、インドの北部ダラムサラにあるサムドン・リンポチェ教授のオフィスを訪れた。チベット亡命政権主席大臣としてチベット中国間の交渉と、現在深刻な問題になっているチベット人の離散についてサムドン・リンポチェ教授にインタビューを行った。

第2回目のインタビューはチベット年の2131年の元旦にあたる今年2月21日にネット公開された。流出し続ける移民やチベット文化の保護、そしてインド国外のチベットオフィスの閉鎖を含むチベットの離散問題について、サムドン・リンポチェ教授は自らの立場を明らかにした。内容は以下の通りである。

●WTN:
あなたが西洋諸国へ移住したチベット人たちにチベット文化の保護や促進は無理だと述べたことに多くのチベット移民が誤解し、傷つきました。移住した多くのチベット人は様々な困難に立ち向かい、またチベット亡命政権にも貢献度の高い人々と言われています。あなたの声明についてご説明いただけますか?

●サムドン・リンポチェ教授:

とても重要な質問ですね。チベット亡命政権発行月刊誌「シェージャ」で発表した私の声明を皆さんに一文一句読みつくしていただきたいと願っています。確かに私は、西洋諸国で暮らすチベット人は、チベットの現状にとても熱心であり、決意を固くしてチベットのことを考えていると思っていますが、残念ながらチベット人社会をリードする人たちではありません。チベット移民は、西洋の土地でチベット人としてのアイデンティティを持ち続けていくことはできるでしょう。しかし、彼らの次世代を担う子供たちが成長した時、どれだけチベット語が話せるでしょうか。このことについて私に否定できる人はいないと確信しています。チベット語を子供に教えられる大人たちがほとんどいないのが現状なのです。
私が(西欧社会で育った)新世代のチベット人と意見交換をしようとするなら、英語で受け答えしなければならないでしょう。こう考えると、西側に渡っていったチベット人が、チベット文化を継承する最後の世代になると強く感じます。もし私の声明が皆を傷つけてしまったのなら、謝罪しなくてはいけません。皆さんを苦しめるつもりは一切ありませんでした。ですが、私は自分の言ったことが正しいと信じています。もし首脳陣が私の声明を支持しなければ、とても残念に思います。

●WTN: 
あなたがチベット人の海外移住に好意的ではないことがチベット人社会では常識とされています。その理由を説明していただけますか?

●サムドン・リンポチェ教授:

注意して意見を述べていきましょう。海外へ移住したチベット人が何処で安住の地を見つけようともそれは自由であり、私たち政府が抑止する権利はどこにもありません。むしろ、政府は彼らの決断を支持する立場でいます。正直、私個人としては、インドだけでなくネパールやブータンからチベット人が(欧米諸国へ)出て行くことを快く思っていません。政府もしかり、大規模な移民計画を予定していません。仮に政府が移民計画を推奨するなら、反対するつもりはありません。
海外へ移住するチベット人は渡航記録を作成しなければなりませんが、政府はその制度を廃止する代わりに彼らの権利を尊重して容易に作成できるようにしています。しかし政府はあくまでも移住を勧めてはいません。理由はたったひとつ。一度チベット人が欧米へ移住したら、次の世代ではチベット人としてのアイデンティティを持ち続けられないからです。
ダライ・ラマ法王はインドへ亡命後、すぐにチベット人が共に腰を落ち着けられる土地を入手するためにあちこち駆け回りました。何世代ものチベット人が母国の文化や言葉、伝統を引き継いでいけるようにと、法王の偉大な洞察力による決断だったのです。チベット人居留地の設置には法王の膨大な時間とエネルギー、そして努力が費やされました。しかし、法王の貢献が膨大なチベット人の国外流出によって消えようとしています。だから政府は、個人の権利を守ろうとしながらも大規模な移民政策を推奨しないのです。

●WTN: 
私が正確に理解したとすれば、あなた自身、チベット人個人が海外へ旅行することになんの反論を持していない、しかしアメリカ合衆国が数年前に行ったような大規模な移民政策に対しては反対しているのですね。

●サムドン・リンポチェ教授:

そのとおりです。私はアメリカの移民政策には反対ですが、どうしようもありませんでした。人々がチベット人居留地を去ることに反対ですが、彼らを妨害するようなことは一切していません。それも個人の権利を尊重しているからです。私たち政府は、各個人の権利の限界を定めなくてはいけませんが、だからといって私たちは彼らの選択の権利を奪うようなことはしません。チベット亡命政権内閣は世界各国の政府の打ち出す移民政策を支持するつもりはないし、今後イニシアチブをとることもありません。

●WTN: 
実は、あなたがデリー駐在のある大使館へ、チベット人にビザを発給しないよう通達書を送りつけたという噂があるのですが。

●サムドン・リンポチェ教授:

全く根も葉もないことです。私が大使館にそのような文書を送ったことは一度もありません。私にそんな権利はありません。もし私がそのような文書を書いていたとしても、大使館側が要請をすんなり受け入れるとは考えられないし、私としても書く理由がまったく見つかりません。このようなうわさは、政府がビザ申請のための推薦状を発行しないという制度をとっていることが原因になっているのかもしれません。しかし、この制度は、過去にある大使館からチベット人が偽造スタンプや偽の推薦状を提出していると報告された経緯が元になっているのです。それ以来政府は公用、もしくは教育機関関係の渡航目的以外に推薦状を発行しませんし、大使館へいかなる文書を送ったりしません。

●WTN: 
関連した質問になりますが、身分証明書の取得もまた困難になったといううわさを聞きますが、これに関してはどうでしょうか。(身分証明書とは、インド政府が難民に対してパスポート代わりとして発給する証明書とのこと。インド政府が身分証明書を発行するが、デリーにあるダライ・ラマ事務所が申請手続きを介助して申請者とインド政府の仲介役になっている)。

●サムドン・リンポチェ教授:

身分証明書の取得は、以前よりかなり楽になったと思いますよ。まず、事務所側の必要とする経費を大幅に抑えて申請料を引き下げ、以前の半額になったことです。次に、事務所は申請業務を行うスタッフ数を増やしました。以前は、証明書の取得にかなりの時間を要しましたが、現在は3カ月で500通発行するまでになりました。かなり効率が上がったのです。政府は今までより容易に、効率良く、早く身分証明書を発給していることになります。もし身分証明書の取得が前より困難になったと思っている人がいるとしたら、それは思い過ごしです。

●WTN: 
オーストラリア政府による人道的考慮から、年間1〇人の政治囚を受け入れるという3カ年計画がありますが、亡命政府がオーストラリア政府による延長の提案を断ったというのは事実ですか?もしそれが事実ならなぜですか?

●サムドン・リンポチェ教授:

これも事実ではありません。私が主席大臣になったとき、オーストラリアの移民問題は停滞中で、多くの問題が発生していました。しかし、私が個人的にオーストラリア政府に掛け合った結果、ようやく昨年5月にオーストラリアが延長を決定したのです。心から嬉しく思っています。

●WTN: 
先ほど亡命チベット人代表者議会で、ニューヨークのチベット財団についての質問がでました。議会でのあなたの回答は、同財団がアメリカ合衆国憲法の元で登録された団体である以上、チベット亡命政権は同財団に対して一切の法的権力は持たないという見解でした。もしそれが本当なら、(インドの)チベット・ハウス、チベット子供村、インドのチベット・ホーム・ファンデーションにも同様のことが言えるのではないでしょうか?

●サムドン・リンポチェ教授:

私の意見は事実です。私が主席大臣を務める内閣が始まった時、7年もの間チベット内閣とチベット財団、チベット法律協会と財団、また議会と財団との間で議論と回答がくり返されてきました。財団側は、もし政府が財団に何らかの法的権力を行使すれば、財団は合衆国憲法によれば外国の団体とみなされると主張してきました。財団が外国の団体になると同時に、献金や税の還元対策、慈善金に伴う税金が除外されてしまうのです。それに伴い、人道的援助金や奨学金制度、その他にも様々なチベット人への援助もなくなるとのことでした。財団の非政府な立場を維持するためには、政府は財団とは何の関わりを持たないことが必至でした。ですからチベット法律協会は、財団を政府管轄外の団体として、論争を終結するために財団を保護し、財団の役員を非役人とすることに決めたのです。このリスクは非政府組織としての立場を失いたくないと主張する財団側によってなされたものです。私は非政府組織として存続させるために、財団が合衆国の規則と規制によって登録された団体であると強調したのです。
インドにある数多くのチベットの団体、チベット・ハウスやチベット・ホーム・ファンデーションにとっても同じことがいえます。これらの団体はすべて自治体として登録されていますが、団体の規約には、政府が役員を選出できるという権利があります。団体は政府と相互作用があります。政府は多くの点で正当な権利を行使できます。それはすでに、団体の規約と政府の法律のうえに成り立っているものです。

●WTN: 
次の質問は、チベット財団の理事会が非営利の慈善業の立場を失う怖れがあると主張したことに関するあなたの見解についてです。理事会は財団がアメリカ人によるチベット人の福祉援助のために設立されたと主張しているのは確かです。もし政府が透明性を求めているなら、理事会は政府とともに共同運営の道を選んだであろうと思います。財団の問題において、誤解を解くよう明らかにする倫理的な責任があるとは思いませんか? 第一に何をしなくてはいけないかは、財団理事が財団の総意で政府に釈明する必要があると思います。

●サムドン・リンポチェ教授:

倫理的な責任を負う必要があることは、否定しません。また財団が政府のために、できればチベットにいるチベット人のために設立された団体というあなたの見方についても同意します。財団は当初、ダライ・ラマ法王の個人事務所と政府による多額の寄付金で設立されました。財団は、1986、もしくは87年に合衆国憲法のもとに登録された慈善事業団体ですが、政府はニューヨーク本部の財団の代表は法王によって選ばれた人が就任することを計画していました。しかし、法王より選出された代表者が財団の代表になることはありませんでした。財団は、もし政府が関われば彼らの立場を失う怖れがあるとはっきり言ったからです。それで私も干渉しないほうが得策だと思ったのです。
それにもかかわらず、政府は財団からチベット居留地への多額の寄付金を受け取りました。政府は、寄付金の出所と使い道を知る権利として財団に明確な情報を定期的に提供してもらうようお願いしました。それは現在も続いています。しかしこの時点で私達は、多くの不透明性とフルブライト奨学金制度の利用についての意見の食い違いが出ました。昨年以降、政府の受け取る寄付金を完璧に明示してもらうよう、ダラムサラを訪問した団長とスカラシップ協会の方達と議論を続けてきました。
政府を表敬訪問した団長とは、いくつかの論議をかわしました。もし議会側が団長を招き、何か追加情報を得たとしても議会によってなされたことです。政府にとっても合衆国憲法のもとにある財団を侮辱したくはありません。仮に政府の干渉によって財団の身に何かが起こったとしても、政府は無責任な態度をとるつもりはありません。

●WTN: 
確認になりますが、財団の理事会は政府が干渉すれば、立場を失う危険があると発言しました。そのためにあなたは財団への追求を避けています。財団による「脅し」が文書、または口語であるものと読者に説明できますか?

●サムドン・リンポチェ教授:

ここでは、「おどし」という言葉が適切ではないことをはっきりさせておきましょう。決して「脅し」ではなく、もし私たち政府が干渉すれば、財団の立場が失われるということを議会で文書と言葉の両方で説明いただきました。

●WTN: 
もうひとつ、政府はおそらく戦略的見解から海外駐在のチベット亡命政権の代表部事務所の分配を改正しようと考えているそうですが。

●サムドン・リンポチェ教授:

2年もの間、政府はいくつかのチベットオフィスの閉鎖を検討し続けてきました。この判断は決して容易なものではなく、時間をかけて調査してきました。多くの問題に悩み、乗り越えてきました。私たちはこれらの問題をどう再構築するかを考えあぐね、昨年10月末行われたプラハでの行われる代表部事務所の代表者との会合に多くの議題を用意しました。徹底した調査なしで新オフィスを倍増することはしません。現状のままでは、再構築はとうてい難しい作業ですが、前進するしかありません。

●WTN: 
最後の質問です。若い読者層の興味を惹き付けているミス・チベット・コンテストに対するあなたの反対声明に対して付け加えたいことはありますか?

●サムドン・リンポチェ教授:

何も付け加えることはありませんし、私の表明を撤回するつもりもありません。若者たちは、20年、いや30年後には私の言っている意味を理解し、賛成してくれるだろうと信じています。私は一度もこのイベントを止めさせたことはありません。ミス・チベット・コンテストは、チベットの文化と伝統に反する行為だと批判しているだけです。このイベントはチベットにとってなんら利益になりません。あくまでも一過性で、程度の低い人気広告の類いは長期的な意味でチベット問題になんら解決を見出しません。チベットは、精神と伝統の高貴さから世界中で尊敬されています。チベットの現状が世界に広く知れ渡っている理由は、この尊敬の念が根底にあるからです。西洋文化のただの模倣は、逆にダメージを与えるかもしれません。それが私の結論です。私の表明に不快を抱くミス・コンテスト協会の組織員は、15年、20年、もしくは30年後に私の見解を理解してくれるだろうと信じています。

●WTN: 
最後に、政府によってなされた様々な決断についてコメントしていただきたいと思います。亡命の地で生活しているチベット人は、互いに寄り添って生きていくことが最も重要なことと感じています。私たちがこの窮地を乗り越える解決策はなんでしょうか?

●サムドン・リンポチェ教授:

政府の失策をご指摘くださる方たちに心から感謝し、批判を肯定的に受け止めています。しかし、批判するだけで立証もせず、政府に直接意見を述べようともしないのは非常に残念です。人々の気持ちをかき乱すだけで、解決策を提示しようとしないのは良くないことです。間違いに気付いたのなら、私に話してほしい。「あなたの決断には同意できません」とか、「この決断はよくない」、「これはあなたの間違いです」と訴えてほしい。私はこのとおりオープンな性格だし、政府も間違った決断にはひとつひとつ見直す構えです。間違った決断を修正し、修正が不可能なら一からやり直します。しかし、噂やインターネット上の無責任なゴシップはいくら言論の自由と言えども、何の役にも立ちません。

●WTN: 
WTNと読者に代わって、このインタビューのために多大なお時間を割いていただき、深くお礼申し上げます。

●サムドン・リンポチェ教授:

こちらこそ、誠意ある質問に心から嬉しく思います。ありがとうございます。