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WTNのチベット人インタビューアー& チベット亡命政権主席大臣 議論白熱! チベット・中国間交渉 【第1部】

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(2004年1月1日 WTN)

昨年、中華人民共和国政府は、ダライ・ラマ法王の特使との対話に対する前向きな姿勢を表明した。ダライ・ラマによって率いられた特使は2度にわたって北京を訪れ、北京とラサにおいて中華人民共和国の高官らと会見した。10月に、カナダに拠点を持つWTN(ワールド・チベット・ネットワーク)のトゥプテン・サンドップ(チベット人)がチベット亡命政権内閣主席大臣サムドン・リンポチェ教授にインタビューし、中華人民共和国政府との対話プロセスとチベットの将来に関する真の交渉を開始することへの期待などについて議論を交わした。

 

チベット亡命政権内閣主席大臣 サムドン・リンポチェ教授プロフィールはこちら

●WTN:
チベットの「ディアスポラ」(流浪の民、難民)たちの間で、新たな対話プロセスは、ダライ・ラマ法王の個人的なオフィスによってではなく、選出されたチベット亡命政権の責任のもとに管理されるべきだという考えが表明されています。この意見に対するあなたのお考えはいかがですか?

●サムドン・リンポチェ教授:

まず、ダライ・ラマ法王が中国との対話プロセスをご自身の個人的な地位のために行っているのではないということを、常に明らかにしていることを思い出すことが重要です。この交渉の主題は、チベット内部に生活する人々の将来についてです。法王は、中国との交渉の中で、ご自身の個人的な地位について議論する意思は全くないとことを、常に明らかにされてきました。法王は、ご自身のためではなく、チベットの人々の為に交渉を行っているのです。
もし、我々が中国政府にチベット亡命政権と直接交渉するよう主張したとしたら、交渉そのものの可能性がその場で断ち切られてしまうでしょう。中国政府はチベット亡命政権の存在自体を認めないと言明するでしょう。そのような結末を回避するために、私たちは、ダライ・ラマ法王の代表団に代わって言及します。ダライ・ラマ法王は、チベットの人々の正当な代表です。

●WTN:
ダライ・ラマ法王は、中国政府当局との対話への道を確立するように、2人の特使を任命しました。チベット亡命政権内閣主席大臣としてのあなたの任期中に、この使節は2度にわたって代表団を北京に送りました。多くのチベット人やチベット人ではないサポーターの間では、チベットの将来に関わる重要な問題がチベット亡命政権とは関わりのないところで管理されている、と批判的に受け止めています。この特使の将来的な役割に対するあなたの見解をお聞かせください。

●サムドン・リンポチェ教授:

法王の特使という概念は、私自身が考え出したものではありません。私はその概念を、1980年代もしくは1990年代にさかのぼる歴史的産物としてとらえています。私が内閣を担当したときには既に特使という概念が存在し、特使と中国政府との間で取り決めが交わされていました。この特使に対する論理的な裏づけは、私の理解するところ、中華人民共和国国家が、チベット亡命政権の存在自体を承認していないことにあります。それゆえに、チベット亡命政権が直接中華人民共和国と交渉することが不可能なのです。しかし、私たちは中国政府との対話を必要としています。だからこそ、対話の機会を持つための唯一の道が、法王という存在を通じて行うことなのです。中華人民共和国政府当局はダライ・ラマ法王をチベット人の正式な代表者として認めているわけではありませんが、彼らは使節団を通じて法王と対話する準備をしています。このような認識が確立されたのは1979年のことであり、以後23年間維持されてきていることを、チベット難民は理解すべきです。

●WTN:
人々の選挙によって選出されたチベット亡命政権は、交渉プロセスにおける亡命政府自体の役割をどのように捉えていますか?

●サムドン・リンポチェ教授:

チベット亡命政権は2つの機能を持っています。1つ目は、中華人民共和国以外の国々との外交関係及び政策を管理することです。2つめは、中華人民共和国との間に、チベットの将来について交渉する機会を確立するための対話を実現することです。
これまで行われてきた中華人民共和国との対話を振り返ると、それらはダライ・ラマ法王の直接的なリーダーシップの下に行われたものであり、全てはダライ・ラマ法王によって決定されます。何故でしょう?それはチベット亡命政権によって後に支持される、国民投票の結果与えられた執行権によるものです。この国民投票を通じて、人々は、ダライ・ラマ法王を、チベットにおける現在の状況を維持しようとする中国との関係性に関して、決定権をもつ者として正式に承認しました。人々は、この対話プロセスの管理者として、亡命政府内閣を信任しませんでした。また、同様に、この使命を果たすものとして、亡命政府情報・国際関係省についても信任しませんでした。
にもかかわらず、法王は、十分な寛大さを持って亡命政府内閣に配慮し、それゆえに第12回内閣会議(1996-2001)以前に、中国政府との対話に関して法王に助言した個人(2人の特使、内閣主席大臣、亡命政府情報・国際関係省大臣、亡命チベット代表者会議前議長-当時のサムドン・リンポチェ氏)の間で議論が行われました。我々は、法王から、この問題に関する選択肢について議論することと、法王に対して新たに提案を提示することを求められました。そしてその後、法王は、2人の使節を通じて実行されるべき最終決定を下します。この様な手続きは、議会の支持を得た上で国民投票によって与えられた権限に正確に沿うものです。
中国以外の国々との国際関係に関して考察する限り、それらは内閣と亡命政府情報・国際関係省の共同責任です。このような認識に基づき、法王の特使は時々調査を受ける場合がありますが、多くの場合、調査を受けることはありません。法王の特使は、対外関係に影響を及ぼすチベット亡命政権の代表ではありません。亡命政府情報・国際関係省は、チベット亡命政権内部の様々な代表団について調査すると共に、公式な手続きとしてその指令を実行します。しかしながら、中国との対話に関する限り、法王の元に選ばれた2人の特使の責務については、これらの義務から除外されます。

●WTN:
このような背景を理解したうえでも、この2人の特使が非常な影響力を持っているという事実は残ります。そして、それゆえに、民間のチベットサポートグループ(非政府組織)とチベットの人々自身の間での見解として、そのような強力な権限の存在が、民主化のプロセスにおける脅威ともなりうることを心配しています。我々は現在、強い権限を保持する亡命政府内閣のもとに、民主主義のシステムを確立することに成功しましたが、多くのチベット難民が、あなたの内閣が交渉プロセスにおいてより重要な役割を果たすことを期待しています。例えば、昨年の第1回、もしくは第2回の代表団訪中期間に、報道関係者に向けられた発表は、亡命政府からのものではなく、ダライ・ラマの個人事務所からのものだったことなどが挙げられます。

●サムドン・リンポチェ教授:

私が思うに、以上の心配は不必要なものです。既に私が申し上げたとおり、亡命チベット代表者会議は、ダライ・ラマ法王を交渉プロセスと対話における全ての決定権をもつ者として位置付けています。内閣がこの職務に関して権限をもつことは承認されていません。この決定が下された際には、内閣もチベットの人々もそのことに対するどのような条件付けも行いませんでした。どのような形であれ、チベット亡命政権が交渉プロセスに関与すれば、中国政府は対話への参加に同意しません。ですから、このような形をとることが対話に向けた唯一の方法なのです。
この記事を読まれる読者は、かつて法王がデリーに駐在する中国大使館に接近するため、使節団を送った際に起きた出来事を思い出すかもしれません。使節団メンバーには、1人の亡命政府関係者が含まれていました。すると中国大使館の代表者ははっきりと、「申し訳ないが、亡命政府関係者は参加することが許されない。なぜならば、彼はいわゆるチベット亡命政権に属するものだからだ」といいました。これが中国政府の姿勢です。このような状況下において、我々が中国政府と接触を持つために残された唯一の道は、法王を通じて接近することであり、この過程については、特に中国のリーダーシップに対して、国際世論における透明性を確保しなければなりません。このような理由に基づき、第1回目の特使の派遣後、プレス・リリースは亡命政府からではなく法王の個人事務所から発信されました。また、中華人民共和国がこの発表を否定しなかったことは注目に値します。中国政府の発表はチベット側が発表したものとは異なるものでしたが、同時に、法王の個人事務所が発表した内容を否定するものではありませんでした。また、私はここで特に強調しておきますが、万が一法王の特使が再び中国を訪れることがあっても、プレス・リリースは同様に内閣からではなく、法王の個人事務所から発表されるでしょう。
法王の特使は、おそらく非常に大きな影響力をもちえますが、チベット亡命政権内閣主席大臣(サムドン・リンポチェ教授本人を指す)は、いかなる人物からも影響されえないということを知るべきだと思います。チベット人社会には、非常に多くの有力者が存在しますが、私の弱点であるか欠点であるかはわかりませんが、私はいかなる人物からも影響されないがゆえに私は不人気な人物です。交渉戦略に関する多くの決定は、アドバイザーチームと法王の間で行われる調査と議論の産物です。我々は、法王を抜きにはいかなる決定も行いません。と同時に、この我々の議論の過程において、私は、他のいかなる人物からの過度な影響も受けたことがないと信じます。私は、法王の特使が影響力のある人物であることを嬉しく思います…それは良いことであり、中国との協調関係を印象付けることのできる有力な人物であることが必要です。私は、彼らの努力において成功することを望み、希望し、信じたいと思います。

●WTN:
私は、チベットの人々が、ダライ・ラマ法王をチベット・中国間直接交渉の責任者として承認したという最初の論点に戻りたいと思います。このような権限にもかかわらず、法王は常に問題の相談のために内閣に向かいます。もし、別のアプローチを採択すべきだと人々が強く望み、同様に内閣が強く要望するのであるならば、基本的な権限を逆転させることも可能ではないでしょうか。

●サムドン・リンポチェ教授:

たとえチベットの人々がこれに関して強く望んだとしても、少なくとも私はそのようになるとは思いませんが、内閣が独自に権限を逆転することはできませんでした。この問題に関して、内閣の基本的な決定は、国民投票に反映される人々の意見によって導かれるものであることから単独で決定することはできません。実際、チベット人の66パーセントが、法王御自身が中国との関係性構築のために働きかけるべきだと意思表示しています。そのような人々からの委任は、議会によって満場一致で支持されました。
最近行われた議会の中で、私は、中華人民共和国との交渉において考察する限り、我々の方針を変更しうるのは2つの方法だけだと述べました。1つ目は、法王自身による変更であり、2つめは国民投票によるものです。議会についてもまた、このことに対する決定権をもたないため、変更する能力はありません。議会は、国民投票の過程において表明される人々の意見を支持しただけです。もし、我々内閣が変更を望むなら、新たに国民投票を実施するよう人々に訴えるか、もしくは法王に政策を変更するよう嘆願しなければなりません。

●WTN:
つまり理論的には、もしチベット難民の中に、中国との交渉において異なる手段を用いるべきだと強く信じる人々が十分に存在するなら、これまでとは異なるプロセスが可能となりうることを意味するのでしょうか?

●サムドン・リンポチェ教授:

はい、民主主義社会においては全てが可能です。しかし、手続きを踏まえる必要があります。人々がもし自分たちの中だけで雑談として終わらせてしまうとしたら、それを変えることはできません。法王は、状況に応じて決定する権限を与えられているため、方針を変更するたびに新たな国民投票に訴えることを要求されることはありません。このことは非常に明確な権限です。もし、議会が変更を望むのであるならば、議会は国民投票を準備し、それを実行するための全ての権限と権力をもっています。もし、人々がその変更に向けて、議会の権限を動かしたいと考えるなら、人々にはそれを実行する権利が存在します。

●WTN:
我々には、しばしば「対話」と「交渉」という単語を、混同しながら使われているように思われます。あなたの考えでは、この「対話」と「交渉」はどのように異なるのでしょうか。

●サムドン・リンポチェ教授:

非常に大きな違いがあります。我々は、中国政府との「対話」を達成することができましたが、「交渉」にこぎつけることはできませんでした。この場合の「対話」は、2者が、互いに面と向き合って会話することを意味します。「交渉」とは、2者間で、特定の問題を解決するための確立されたプロセスが存在することを意味します。例えば、法王は自ら、ストラスブール提案において議会を提案しました。現在、もし中国が交渉のテーブルに向うとしたら、中国政府の代表は、「これは受け入れることはできない」もしくは、「これは受け入れることができる」と言うでしょう。そして我々は、「いいえ、あなた方はこの提案を、これもしくはこれこれの理由に基づいて受け入れなければならない」と返答しなければならないでしょう。これは単なる議論ではなく、「交渉」です。そして我々はまだ「交渉」の段階には至っていません。それ故に、全ての記録と書類においては、中華人民共和国との「交渉」の段階にあるとは明記していません。我々は、中華人民共和国との「対話」の段階にあり、現在、この対話は「交渉」に帰着する可能性があります。

●WTN:
いかなる手段によって、「交渉」プロセスと現在の「対話」のイニシアティブとが区別されるのでしょうか?

●サムドン・リンポチェ教授:

法王は、「交渉」について非常に明確に言及しています。一旦「交渉」が開始されれば、現在の特使の権限は終了し、「交渉」のための新たな使節団が構成されるでしょう。この「交渉」使節団は、学者や卓越した人、有名人、歴史家、政治家などで、チベット居住者とチベット難民から構成されるべきでしょう。法王の特使の責任は、以上に述べた交渉にむけた下地を準備することと、「交渉」のテーブルに中華人民共和国政府を連れて来ることです。これらのことは、特使と法王と私の中で非常に明確なことです。