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紛争、新型コロナウイルス、慈悲の心

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2020年8月12日
インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ

今朝、ダライ・ラマ法王は法王公邸の居室に入り、紛争地域からの若者たちの顔をモニターの中に見出されると、温かく微笑んで手を振られた。彼らは米国平和研究所(United States Institute of Peace:USIP)の研究員の地位を持つ平和構築者たちで、法王は彼らの多くに以前ダラムサラで会われたことがある。彼らは紛争を解決するために、米国平和研究所から支援を受けた世代の若者で、力で問題を解決する古い方法によらず、出身国に変化をもたらそうとしている。

米国平和研究所(USIP)が主催する紛争、新型コロナウイルス、慈悲の心についての対談に臨まれ、法王公邸からモニター上の参加者に挨拶をされるダライ・ラマ法王。2020年8月12日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

米国平和研究所所長のナンシー・リンドボーグ氏は、次のように進行を始めた。 「猊下、またお会いできて嬉しく思います。紛争、新型コロナウイルス、慈悲の心に関するこの重要な対談に参加してくださり、ありがとうございます。猊下にお目にかかるため、これまでいくつかのグループの若者たちをダラムサラに同行しましたが、本日は20名で、それぞれがその地域社会で平和構築者になることを選択した若者たちです」

「2015年に初めてお会いした時、21世紀は紛争のない時代にしたいと法王が話されていましたが、私たちは今どの程度よくやっているでしょうか?」

法王は、次のように答えられた。
「数年にわたり、私に会うために紛争地域からの若者たちを連れてきてくださった努力に感謝しています。私は、世界は変わったと感じています。20世紀の前半においては、人々は軍事力を心から信じていました。多くのお金を武器製造に費やし、科学者たちはその頭脳をより破壊的な兵器の設計に向けました。私の経験では、今はこのような考え方は減っていると思います。2回の世界大戦が起こり、第二次世界大戦では核兵器が実際に使われ、第三次世界大戦の話も出ていましたが、最近そのような話はほとんど耳にしません」

「ヨーロッパ連合(EU)の精神は素晴らしいと思います。以前は、フランスとドイツのようなヨーロッパの国々は、最大の敵同士であり、彼らは戦争をし、互いに殺しあいました。しかし第二次世界大戦後、西ドイツのアデナウアー首相とフランスのド・ゴール大統領という二人の指導者がヨーロッパ連合を結成するほうがよいとの決断をし、それ以来、平和が広まりました」

紛争、新型コロナウイルス、慈悲の心に関するダライ・ラマ法王とのオンライン対談の紹介をする米国平和研究所所長のナンシー・リンドボーグ氏。2020年8月12日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「人々は技術開発に興奮したものの、次第に、核兵器は使用するにはあまりにも危険だと気づくようになりました。そして、20世紀後半までには、人々は総じてより人道的になりました」

「以前は、人々は物質的なものに魅了されていましたが、今では人間性が熟してきていると思います。人々は内なる価値により注意を払い、内なる平和を見出しています。教育には、私たちの内なる世界、つまり心と感情の働きについての指導も含めるべきだと強く感じています。例えば、私たちの心の平和を壊す、怒りのような破壊的な感情(煩悩)にどう対処するべきかについて学ぶ必要があります。健康を維持するため、子供たちに身体的な衛生観念を守る訓練をするのと同じように、感情面における衛生観念にも対応する必要があります」

オンライン対談で、法王公邸から紛争、新型コロナウイルス、慈悲の心についてお話をされるダライ・ラマ法王。2020年8月12日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「あなた方若者たちは、勉強を終え、今人生のスタート地点に立っています。21世紀の今、科学者たちが脳に関して学んだことを助けとして、心の平和を達成する方法を学ぶ必要があります。世界平和は、自分自身の心が穏やかな個人の集まりによってのみ構築できるものなのですから、これはとても重要です」

ナンシー・リンドボーグ氏は、今日は国際青少年デーであり、世界の若者の約半分が紛争の影響を受けている地域に住んでいることに触れて、法王に対して若者たちがどのような影響を与えてきたか、また彼らに何かアドバイスがあるかどうか尋ねた。

法王は次のように答えられた。
「私たちはグローバル経済の中で生きており、そこには元々境界線はありません。今日の若者たちは以前よりも広い視野を持っているように思います。例えば、チベットに住んでいた頃、私は限られた世界観しか持っていませんでしたが、インドに来てからは、もっと自由に他の人と会うことができるようになりました。今日の若者たちの心はより開放的であり、人類はより現実的になりつつあるようです。その意味で、状況はよくなっていると思います」

米国平和研究所の研究員である紛争地域からの若者たちに向けて、法王公邸からインターネットを介してお話をされるダライ・ラマ法王。2020年8月12日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

ここで質疑応答に移り、コロンビア出身の若い女性が、今日の不確実性にどのように対処すべきか法王にアドバイスを求めた。法王は、新型コロナウイルスの世界的大流行の悪影響は非常に残念だと答えられた。多くの科学者たちがこのウイルスに対するワクチンを作り出すことを期待して研究に勤しんでいる。法王は現実のありようについて、より明確な見解を持てば、落胆といった破壊的な感情の影響を受けにくいだろうと提言された。外面的な問題を思いのままに取り除くことはできないが、内なる世界においては寛容、許し、満足を知る精神を培うことができる。心の平和を育めば、たとえ外界で何が起ころうとも、落ち着きを保つことができるのだ。

「私が訓練を受けてきたナーランダー僧院の伝統は、ただ信仰に頼るのではなく、直面する問題を論理に照らして分析することを勧めています。今、私は85歳ですが、これが人生を通して私が成し遂げてきたことです。仏教の考え方では、すべての生きとし生けるものは母親のように恩の深い存在であると考えています。これと同様に、今日生きている70億のすべての人間は私たちの兄弟姉妹であると考えることができます。私たちはみな、この世に生まれてきて、最終的に死んでいくという点で全く同じなのです」

法王公邸からのオンライン対談の中で、ダライ・ラマ法王に質問をする紛争地域からの若者。2020年8月12日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

若いインドの女性は、不正をなす人、乱暴や虐待をする人に対して思いやりや慈悲の心をどのように保てばよいかについて尋ねた。法王は、仏陀は苦しみについて説かれたが、苦しみの原因についてより多く説かれたことを指摘された。私たちは誰も苦しみを望んでいないのだから、苦しみの原因を滅する必要がある。法王は、モラルのない人々が他者に迷惑をかけ、自らに不幸な結果をもたらす悪しき行為に携わっていると示唆されて、これらの人々と、彼らに虐げられた人々をどちらもケアする必要がある、と述べられた。

8世紀に現れたインドの導師シャーンティデーヴァ(寂天)は、敵こそ最高の先生になりうると述べているが、それは、忍耐の実践をするこのような機会を他には誰も与えてくれないからである。

若いソマリア人の男性は、危機に直面した際のリーダーシップには、異なる必要条件があるかどうか尋ねた。法王は、今や、自分の国や自分の共同体のことだけを考える時ではないと述べられた。そして、今こそ人類全体のことを考えなくてはならず、私たち全員に影響を与える問題に直面しているのだから、今日生きている70億すべての人間のために協力しなければならない、と強調された。

次に、悲惨な状況が団結をもたらす機会を提供できるか、という若いシリア人の男性からの質問に、法王は団結できる、と答えられた。そして、法王がまだチベットにおられた頃は、チベットの様々な地域の人々はそれぞれ別の道を歩んでいたことを思い起こされた。しかし、ひとたびインドに辿り着くと、“私たち”、“彼ら” という区別をする根拠がなくなり、共通の利益のために協力することがはるかに重要となったのである。

さらに法王は次のように述べられた。
「今日、新型コロナウイルスの世界的大流行は私たちが直面する脅威の一つですが、もう一つのとても深刻な問題は気候変動と地球温暖化です。科学者たちは、それを食い止めるための行動を起こさなければ、今後数十年で水源、河川、湖沼が枯渇する可能性があると予測しています。それに加えて、他に対処すべき問題は、富裕層と貧困層の格差の拡大です。これらの困難な状況に、私たちは協力して取り組む必要があります」

「私たちは、人類はひとつの人間家族であるという一体感を持たなければなりません。私が初めてヨーロッパへ行ったとき、髪の色や鼻の形が異なる人々に会いましたが、私たちは感情的には全く同じだということに気づきました。ですから、他の人たちを自分の母親と同様に恩の深い存在だと考えることが役に立つと思います」

法王公邸からのオンライン対談で、紛争地域からの若者の質問に答えられるダライ・ラマ法王。2020年8月12日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

法王は、様々な制約に直面する若い平和構築者たちへの助言を求められると、多くの場合、古い考え方と現在の変化した現実のありようには、実質的なギャップがあるという見解を示された。かつては自分の国のことだけを考えれば十分であったが、今はすべての人のことを考慮する必要があると同時に、可能な限りお互いに協力する必要があると述べられた。新しい現実のありようとは、私たちはみな同じ人間であり、70億の人すべてが共に暮らしていかなければならないということに加えて、より広い視野を持つということなのである。

ナンシー・リンドボーグ氏は、法王がこの対談に参加してくださったことに再度感謝し、法王庁職員の支援、特に音響映像チームにも感謝し、この対談を締めくくった。

ナンシー・リンドボーグ氏は、次のように述べた。
「法王にお会いできたのは、2015年に私が米国平和研究所で働き始めた最初の週でした。そして今週は、私にとって米国平和研究所で仕事をする最後の週です。法王に再びお目にかかれたことをとても嬉しく思います。副所長のデイビッド・ヤン氏が、今後もこれらの会合を継続する予定です。最後に、今日参加してくれた恐れなき紛争地域からの若者たちに感謝します。あなたたちは未来の光です」

これを受けて法王は、次のように話された。
「時は過ぎ、状況は変化し、私たちは新しい考え方を見出す必要があります。若いあなた方は、新しい世界を作ることに貢献する人たちです。古い考え方に陥らず、すべての人類はひとつの人間家族であるという一体性と新しい現実のありようを受け入れ、地球温暖化という課題に立ち向かってください。目を開き、心を開いて下さい」

「過去5年にわたり、あなたが私たちの間でいくつかの会合を設けてくださったことに私はとても感謝しています。より良い世界を作るという目標をもって、人類のために働き続けましょう。それが私たちの責任です。ありがとうございました」