ニュース

ニュース

最新ニュース

これから開催するイベント

神変大祈願祭の法話会

Print Friendly, PDF & Email
2021年2月27日
インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ

今朝、デプン僧院の経頭が重低音で唱える開経偈がインターネットを介して聞こえてくると、ダライ・ラマ法王は、公邸のネット中継用カメラの前に着座された。続いて『般若心経』が唱えられ、さらにセラ僧院の経頭の先導による『ラムリム(菩提道次第)の相承系譜の導師たちへの祈願文』が読誦された。そしてガンデン僧院の経頭によってマンダラ供養が捧げられると、法王は、スクリーンに映し出されたガンデン座主、僧院長方、元僧院長方、転生活仏方、ラダックのセムケ(発菩提心)協会のメンバーの顔を見つめられた。

ダラムサラの法王公邸から行なわれた満月の日の大祈願祭のオンライン法話会で、経頭方と共に開経偈を唱えられるダライ・ラマ法王。2021年2月27日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

法王は少しの間、黄色いゲルク派の学匠の帽子を被ってご自身で開経偈を唱えられると、次のように法話を始められた。

「本日の法話会は、神変大祈願祭じんぺんだいきがんさいの一部として開催されています。新型コロナウイルスの蔓延により、実際に会って集まることはできませんが、こうしてインターネットを介して集うことができました。神変大祈願祭はきわめて複雑な儀式であり、かつては私も午後の祈願を滞りなく執り行なうために入念な準備が必要でした。この祈願には、『阿弥陀仏の浄土に生まれ変わるための祈願文』も含まれています。私はあまりにも緊張していたので、この祈願文の一定の箇所を過ぎるまでは、私の周りを鳥たちが飛び交っていることさえわからなかったくらいでした」

「先ほども述べたように、今、私たちは実際に会うことができませんが、それは大した問題ではありません。なぜなら、オンラインで世界中のあらゆる地域から法話会に参加できるからです。チベット本土や中国の方々もここにおられたならどれほど嬉しいことでしょう」

「今日は伝統に則ってジャータカ物語を前回の続きから読み始め、その後でナーガールジュナ(龍樹)の『宝行王正論』について解説したいと思います」

「私たちは今、21世紀を生きていますが、私たちチベット人の多くが亡命生活を送っています。仏陀の教えは弟子たちの気質に応じて説かれ、鋭い知性を持つ人々によって、理由と根拠に依拠して保持されてきました。そういった認識は今世界各地に広がっており、多くの人々が関心を寄せてくださるようになってきました」

神変大祈願祭の満月の日に開かれた法話会で、ダラムサラの法王公邸からモニターに映し出された聴衆にお話をされるダライ・ラマ法王。2021年2月27日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「歴史を振り返ると、7世紀に観音菩薩の化身とみなされていたソンツェン・ガンポ王には、大変先見の明がありました。ソンツェン・ガンポ王は中国と緊密な関係にあり、中国の王女を妃に迎えられました。その王女が中国から携えてこられたのが現在ラサのジョカン寺に安置されている尊きジョヲ像なのですが、それにも関わらず、ソンツェン・ガンポ王はチベット文字のひな形にインド文字を選ばれました。その結果、ティソン・デツェン王によって、インドの偉大な僧院長シャーンタラクシタがチベットに招聘されました。そしてシャーンタラクシタの助言によって、サンスクリット語やパーリ語の知識に頼らずともチベット人が母国語で仏典を読めるよう、チベット語への翻訳が始まったのです」

「シャーンタラクシタはナーランダー大学から来られた方です。いわば最初から、チベット人はナーランダーの伝統に従って仏教を学んできたのです。これは、私たちチベット人が論理的な考えかたと根拠に依拠していたことを意味し、他の仏教国では見られないことです。私たちが仏陀の教えを完全なかたちで保持できたのは、シャーンタラクシタの思いやりと、チベット人の翻訳官たちとインド人の学匠たちのおかげなのです。チベット本土の人々は、多大な困難に直面してもなお屈しない、揺るぎない帰依の心と信仰心を持ち続けています。私たちがこのように甚深な伝統を維持し続けてきたことは、誇りに思ってよいと思います。これは、強硬派の中国人高官たちでさえそれを目の当たりにすることができるはずです」

「私は毛沢東に会ったとき、一般市民を大切に思う彼の社会主義的動機に心を動かされました。しかしながら時は流れ、それは変わってしまったように思います。現在、中国には巨大な貧富の差があります。一方で、チベット本土にいるチベット人たちは、若者も年配者もチベットの伝統を維持していることが、ラサのジョカン寺の前で五体投地をしている姿からわかります。彼らに私のメッセージを伝えられるなら、“逆境に立たされたときは、それを悟りへの道に変えてほしい” と伝えたいと思います」

「また、チベット人の若者たちには、チベット語にもっと関心を持つよう呼び掛けたいと思います。近頃は、チベット自治区の中部にある奇林シリンにおいてさえ、その状況にもかかわらず、努力してチベット語を学ぼうとする傾向があるようです。私は、チベットのあらゆる地域に住む皆さんに、私たちの共通言語であるチベット語に目を向けるようお願いしたいと思います。私たちは、方言こそ異なりますが、読み書きの言葉はまったく同じなのです。また、『比丘たちよ、賢者たちよ、金を焼いて、切って、こすって純金かどうか調べるように、よく分析してから私の言葉を受け入れるべきであり、私への尊敬の気持ちから鵜呑みにしてはならない』という仏陀の助言を思い出してほしいと思います」

神変大祈願祭の満月の日に開かれた法話会で、ダラムサラの法王公邸から説法をされるダライ・ラマ法王。2021年2月27日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

法王は、神変大祈願祭とは、釈尊がチベット暦の正月元旦から15日まで毎日様々な奇跡を起こされたことに因んだ伝統であり、今日は満月にあたる最終日なので、アーリヤシューラが著した釈尊の前世物語である『ジャータカ』(本生譚ほんしょうたん)を今から読んでいきましょう、と述べられた。そして釈尊が、寛大さを主な美徳とするヴィシュヴァンタラという王子であったときの物語を読まれた。
「宮廷人たちは王子の父親である王様に近づき、王子様は寛大さという美徳にあまりにも強く執着しておられるので、王位継承者としてふさわしくありません、としきりに言い寄りました。そして王国の財産がこれ以上施されてしまう前に、王子を追放するよう要求しました。王様が悲しみの涙を流される一方で、王子は美徳を理由に糾弾されたことにただ驚くばかりでした」

今日はここまでにすると法王は述べられ、続いて『宝行王正論』のテキストを手に取られると、著者のナーガールジュナはパーリ語の伝統に従う人々の間ではさほど注目されていないが、サンスクリット語の伝統に従う人々にとっては非常に重要な存在である、と述べられた。ナーガールジュナは『宝行王正論』の中で、仏陀が第二法輪で説かれた『般若心経』に記されている教えについて詳しく説明している。空の見解をまとめた六論書に加えて、『宝行王正論』においても広大なる修行の道について説かれている。法王は、『宝行王正論』の解説の伝授をセルコン・リンポチェから受けられたことを明らかにされた。

第1偈は、三阿僧祗劫という無限に近い長い歳月をかけて功徳を積み、すべての過失を滅し、得るべきすべての智慧を得、一切有情の唯一の友となられた仏陀に対する帰依の偈である。ナーガールジュナは、仏陀のことを「この上なく優れた教義の器」と称している。第3偈では、仏陀の教えを修行するには、来世において人間や天人など善き再生を得る必要があることが指摘されている。善き再生は、10の悪い行ないを断つ「十不善業」を順守することによって得られる。断つべき10の行ないとは、殺生、偸盗ちゅうとう、邪淫、妄語もうご、両舌、悪口あっく、綺語きご、貪欲、瞋恚しんに、邪見であり、これに加えて控えるべき行ないとして、飲酒、誤った方法で生計を立てること、他者を害することがあり、更になすべき3つの行ないとして、敬意を持って施しをすること、称えるべき人を称えること、そして、すべての人に平等な心で慈愛を持つことがある。第14偈では、短命の原因が明らかにされ、続いて第15偈では、嘘・両舌・悪口(乱暴な言葉)が原因となって信頼が失われることが述べられている。

法王はテキストを軽快に読み進められ、第24偈を読み終えられると、「以上で、来世における善き再生についての解説が終わりました」と述べられた。

神変大祈願祭の満月の日に開かれた法話会で、法王公邸からナーガールジュナの『宝行王正論』を読み上げられるダライ・ラマ法王。2021年2月27日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

最後に法王は、ラダックのセムケ協会からのリクエストにより、今から発菩提心の儀式を執り行なわれることを伝えると、次のように述べられた。
「菩提心を生起することができたなら、来世から来世へと善き再生を得るための智慧を得ることができるでしょう。他の人々の目標だけでなく自分の目標も成就し、友人を得て、信頼を得るでしょう」

「人間は社会生活を営んで生きていく動物であり、私たちはみな社会に依存して生きています。それゆえに、私たちは他者に対する思いやりを誠実に示す必要があるのです。これについてはシャーンティデーヴァも次のように明確に述べておられます」


この世のいかなる幸せも
他者の幸せを願うことから生じる
この世のいかなる苦しみも
〔自分だけを大切にして〕自分の幸せを求めることから生じる(第8章129偈)

多くを語る必要がどこにあろう
凡夫は自利を求めて〔望まぬものをすべて得て〕
成就者〔仏陀〕は利他をなして〔すべてのすばらしきものを得る〕
この二者の違いを見よ(第8章130偈)

自分の幸せと他者の苦しみを
完全に入れ替えなければ
仏陀となることはできないし
輪廻においても幸せを得ることはない(第8章131偈)


「これが、一切有情に対して利他的であらねばならないという理由です」

続いて法王は、観想の対象を眼前に維持して祈願の偈頌を復唱するよう受者たちを導かれ、菩薩戒を授けられた。最後に法王は、次のように述べられた。

「菩提心は仏法の心髄です。もちろん私は本尊ヨーガも行なっていますが、修行の核心は菩提心を培うことです。ドムトンパが指摘しておられるように、大切なのは、広大なる行ないと深遠なる智慧という二つの相承の系譜を修行することです。それはつまり、菩提心を培い、空を理解することを意味しています。いわゆる加持の系譜については、私はさほど重要とは考えていません」

神変大祈願祭の満月の日に開かれた法話会の終わりに、モニターに映し出された僧侶たちと共に結びの読経をされるダライ・ラマ法王。2021年2月27日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「以上で、本日の予定をすべて終えました」と、法王は述べられた。

経頭たちの先導により、『仏法繁栄のための祈願文』が読誦され、続いて三宝についての吉祥偈と、最後に『ラムリムの祈願文(廻向)』が唱えられて、法話会の幕が閉じられた。