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新主席大臣ロブサン・センゲ就任式に向けての演説

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(2011年8月7日 ロブサン・センゲ博士(新主席大臣))

明日、私はチベット人が選任した政治指導者であるカロン・ティパ(主席大臣)となるための就任宣誓を行います。私は、ダライ・ラマ法王の支持、および世界30カ国在住の亡命チベット人の民主的プロセスを経た負託により、この責務を担うものであり、チベット人の自由の回復、および、ダライ・ラマ法王のチベット帰還に向けて努力して参ります。私がチベット人のために追及していく価値は、インドで人々が当たり前のように享受しているところの、自由、平等、尊厳、であります。

われわれは、中国人ならびに中国という国に反対しているわけではなく、対話によって平和的にチベット問題を解決したいと考えています。821-822年の唐と吐蕃とのあいだの会盟では「チベット人はチベットで平和に暮らし、中国人は中国で平和に暮らすであろう」と詠われました。中国人はこのことを知り、チベットと中国は歴史的に二つの異なる国であると認める必要があります。

中国は1959年にチベットを侵略し、チベット人に「社会主義の天国」を約束しました。中国−チベット間には道路が敷設され、未採掘だったチベットの豊富な鉱物資源をはじめとする天然資源は中国に運ばれ、森林は伐採されました。かけがえのない無数の仏像や文化遺産が、破壊された僧院・寺院から持ち去られました。一口で言うと、当初チベット人に約束された「社会主義の天国」は植民地主義に堕し、チベットの資源が中国の経済発展を支えるために使われたのです。チベット人は決然としてこれに抵抗しましたが、中国の圧倒的な軍事力によって抵抗運動は潰されました。これが、チベット人による中国の「社会主義の天国」の体験だったのです。

亡命後、私の両親はインド・ダージリンの難民居住地のわずかな土地の上に生活しました。家は貧しく、インド政府によって運営されたチベット難民学校に通うのに、三頭いた牛のうち一頭を売らなければなりませんでした。その後、私はデリー大学に入学し、フルブライト奨学金によってハーバード法律大学校に進みました。ハーバードで16年を過ごした後、インドに戻り、私はチベットの内外で暮らす600万人のチベット人の政治的指導者となることになったのです。

われわれは、過去50年にわたり、チベット人に亡命地を与えてくれたインドの民と政府に限りない感謝の念を抱いています。ここに住むチベット人にとって、インドは第二の故郷です。チベット亡命政権は、チベット人とインド人の特別な関係を継続していく所存です。インド政府に対しては、チベット問題を中印間の最重要課題の一つとして捉え続けていただけるよう、重ね重ねお願いしたく思います。

過去60年の誤った統治の後、チベット人は依然として抑圧されています。チベット本土では、ダライ・ラマ法王の写真を持っているチベット人は逮捕されます。僧侶と尼僧は辛い強制労働にさらされています。世界人権宣言のコピーを持っていることすらが、中国では問題となるのです。

自らの土地で「二級市民」扱いを受けることに耐えがたくなった、「社会主義の天国」で生まれ育ったあらゆる階層のチベット人は、2008年、各地で蜂起して抗議活動を繰り広げました。この世代の本土のチベット人は、ダライ・ラマ法王と会ったことはなく、一方、亡命チベット人も本土に足を踏み入れたことがあるのは僅かです。にもかかわらず、われわれの心は強健でした。年長者は自らの信念とリーダーシップを若い世代に託しました。私は、こうした遺産を引き継ぎ、チベットの自由のための運動を、さらに強力かつ永続的なものにしていくことを誓います。

マハトマ・ガンジーの範に倣い、ダライ・ラマ法王は非暴力を標榜していますが、私もそれに同調します。ダライ・ラマ法王は「中道アプローチ」を採り、中国からチベット人の真の自治を獲得することを目標としていますが、私も平和的な対話の力が変化をもたらすことを信じ、これを支持します。私は過去16年にわたり、ハーバード大学でダライ・ラマ法王と中国人知識層との会合をアレンジし、中国人学生とチベット人学生のあいだの対話の機会を設けてきました。

今後もチベット人の権利のための戦いを継続していく所存ですが、意味のある進展は、双方の協力が欠かせません。平和的な対話とコミュニケーションによって、きっとチベット人と中国人の双方が満足する解決に到達出来ると私は信じております。

チベット問題が公正かつ早急に解決されることはアジア全体の利益にも、つながります。数千年にわたり、チベット人は世界で最も広大で標高の高い平原を護り続けてきました。その高原は十の主要な河川の水源であり20億人以上の人々の命を支えるものです。中国で進行中の、チベットを水源とする河川の破壊はアジアの川下の多くの人々の生活を脅かしています。このことから、チベット人がチベット高原の環境の守護者としての伝統的な地位を回復することは、アジアの多くの人々の利益にもつながることが分かります。これは、政治レベルを超えた話であり、アジア全体の生活と福祉に関わる問題であります。

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(翻訳:吉田明子)