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思いやりのある行動 —リーダーシップについての対話— 1日目

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2024年3月20日
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インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ

ダライ・ラマ法王は今朝、ダライ・ラマ・フェローのプログラムに参加している14人の若いリーダーたち、および彼らに同行する招待客と会見された。ダライ・ラマ・フェローは、社会変革の新進気鋭の指導者を対象としたユニークな1年間のリーダーシップ・プログラムで、瞑想的な活動と意図的な自己変革を、それぞれの地域社会に有益な変化をもたらす取り組みと統合するように企画されている。

ダライ・ラマ法王とダライ・ラマ・フェローのプログラムに参加する若いリーダーや同行する来賓との対談会を開幕するコロラド大学のフィリップ・P・ディステファノ学長。2024年3月20日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

法王が会議室の席に着かれるとすぐに、コロラド大学のフィリップ・P・ディステファノ学長が会議を開始した。彼は、思いやりのあるリーダーシップについて話し合うために、友人や同僚と共にここに来たことを法王に告げた。またディステファノ学長は、2016年にコロラド大学が法王をボルダーにお招きし、2021年10月にはインターネットを介して更なる対談を行ったことを、法王に思い出していただくよう振り返った。

ディステファノ学長は、「法王と、コロラド大学、スタンフォード大学、バージニア大学からのダライ・ラマ・フェローの皆さんとご一緒できることをうれしく思います。これは、明日のリーダーを育成するとてもよい機会です」と述べた。

司会のソナ・ディミジアン氏は、自己紹介の一環として、法王のアドバイスが、心理学や神経科学の彼女の研究と家族への指針となったことを法王に伝えた。

「私たちは再び法王にご指導を仰ぎたいのです。若者たちは、世界に目を向ければ、競争や紛争、戦争や苦しみを目の当たりにし、一方、内面に目を向ければ、苦しみ、悲しみ、絶望と向き合っています」とディミジアン氏は法王に語った。

法王公邸での法王とダライ・ラマ・フェローのプログラムに参加する若いリーダーや来賓との会議において、自己紹介を行う司会者のソナ・ディミジアン氏。2024年3月20日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

さらにディミジアン氏はこのように述べた。
「2004年にダライ・ラマ・フェロープログラムが開始されて以来、50ヵ国から200人以上のフェローがこのプログラムに参加しています。彼らは、法王の教えを実行に移し、外面と内面の両方に向けられている焦点を組み合わせて、世界に変革をもたらしたいと考えています。彼らの心は開かれています」

ディミジアン氏によると、彼女が今朝、法王公邸の門に到着すると、ダライ・ラマ・フェローのグループが入場を待つ間、一緒に歌を歌っているところを見つけたという。ディミジアン氏の到着をきっかけに、彼らは再び歌を歌い始め、「心を開いて、心を開いて、愛で溢れさせてください」と詠唱したことを法王に報告した。そしてディミジアン氏は、思いやりの心をどのようにしたら行動に移すことができるかについて、彼らに一言、助言をいただけないかと法王に尋ねた。

それを受けて法王は、次のように述べられた。
「まず、ここで皆さんとお目にかかれることがどれほど幸せかをお伝えしたいと思います。基本的に私たちは皆、母親から生まれ、最大限の愛情を母親から注がれました。それは自然な反応であり、他の動物にも同様の行動が見られます。このことは、私たちが皆、共通して持っている経験であり、本質的には同じであることを意味しています。私たちは、母親の優しさのおかげで生きのびていくことができるのです。これは、覚えておくべきとても大切なことです」

「幼い頃は、母親から受けた愛情の感覚がまだ私たちの中に鮮明に残っていますが、成長して学校に行くようになるにつれ、その記憶がしだいに薄れていきます。母親の優しさに対する感謝の気持ちを、死ぬまでずっと保ち続けることができれば、どんなにか素晴らしいことでしょう。そのためのひとつの方法は、思いやりと温かい心を育む努力をすることです」

ダライ・ラマ・フェローのプログラムに参加する若いリーダーや同伴する来賓に語りかけるダライ・ラマ法王。2024年3月20日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

続けて法王は、次のように述べられた。
「私はどこへ行っても、どなたにお会いしようとも、笑顔で温かく挨拶をしています。そうすることで、だれもが私の友人になってくれます。大切なのは、他者に対して温かい心で接することです。心の温かさは、私たちの本質の一部だと私は信じています。それは、心に平和をもたらし、友人を引き寄せることになります。母から私たちへの本当の贈り物は、彼女の笑顔と愛情深い心の温かさなのです」

ソナ・ディミジアン氏は、二人一組になって法王に質問を投げかける7人のダライ・ラマ・フェローを紹介できることにワクワク感を覚えると述べた。その7人のフェローは、ベトナムのカン・グエン、ナイジェリア/ルワンダのダミロラ・ファソランティ、ケニアのマンシ・コタック、イギリスのセレーネ・シン、ケニア/アメリカのブリタニー・リチャードソン、インドのシュルティカ・シルスワル、アメリカのアンソニー・デマウロである。彼らは、共有される普遍的な人間の価値の認識を促進するために何ができるかを法王に尋ねた。また、奉仕や他者をケアすることを生き方として選択するよう人々を鼓舞するためにはどのようにしたらよいか、法王に助言を求めた。さらに、怒りや苛立ちを感じている時に、リーダーとしてどのように思いやりの心を働かせることができるかを知りたいと述べ、抑圧者に対しても思いやりの心を保ちながら不正義に抵抗する方法について法王に質問した。

法王公邸での会合で、法王に質問するダライ・ラマ・フェロープログラムに参加する若いリーダーたち。2024年3月20日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「もし、私たちが母親から受けた愛情という基本的な感覚を持ち続けていれば、誰とも争う理由はないでしょう」と法王は答えられた。
「しかし、私たちは他の人々との共通点を考えるのではなく、お互いの違いに目を向けがちです」

「私はどこへ行っても、自分自身を一人の人間だと思い、微笑みかけます。私は、自分がダライ・ラマで、他の別の人間であるとは思っていません。新しい人に会うたびに、彼らは私と同じだと感じます。たとえ名前が違い、肌や髪の色が違っていても、それらは二次的な違いにしかすぎません」

「私はただ、出会う人々を人間として、そして兄弟姉妹として見ています。そして、違いについてあれこれ考えるのではなく、私たちが同じであることについて考えています。チベットの北東部に住んでいた幼い頃、私は近所の子供たちと遊びました。彼らとは同じ子供として接していましたが、彼らの多くはイスラム教徒の家庭の出身で、私の家庭は仏教徒であることに偶然気づいたのは後になってからでした」

「忘れてはならない重要なことは、結局のところ、私たちは皆、同じ人間だということです。私たちは、偏見や否定的な差別心に囚われて、基本的な人間の価値や寛大さ、優しさの感覚を見失いがちです。しかし、どのような宗教、文化、人種であろうとも、根本的なレベルで、私たちは皆、人間であるという点で同じなのです。“ダライ・ラマ” であることを意識しすぎると、他の人たちとの間に一線を画してしまいがちですが、それよりも私は、共通する人間性のほうにより関心をいだいています」

ダライ・ラマ・フェローのプログラムに参加する若いリーダーと同行する来賓たちが、法王と共に会合を行う会場の様子。2024年3月20日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「すでに申し上げたように、幼い子供たちは開かれた心を持ち、友好的です。彼らは、自分と他人を区別しません。成長してはじめて、私たちは他者との違いを意識するようになるのです。これは対立をもたらす危険性をはらんでいます。それに対してバランスをとる方法は、私たちが皆、どのように同じであるかを考えることです。このことを私たちは常に思い出さなければなりません。根本的なレベルで、人類としての一体感を認識し、私たちの顔には皆、二つの目、ひとつの鼻と口があるように、私たちは人間であるという点でお互いに同じであることに気づかなければなりません」

「肌の色や国籍などが異なる人々が子孫を残し、妊娠可能で健康な子供を産むことができるという事実は、私たちが人間として基本的に同じであるということを裏付けています。私たちは、補完的に異なるアイデンティティを持っており、例えば私はチベット人で、僧侶であり、ダライ・ラマという名前がありますが、最も重要な点は、私は人間であるということです」

「私たちは社会的な存在であり、互いに繋がり合っていますが、そのような外面的なことだけでは、対立の芽を摘むのに十分ではないようです。人類としての一体感、つまり、人間として私たちは皆、同じであるということの確信を内面化することが重要であり、その利点のひとつは、私たちをよりリラックスさせてくれることです」

ソナ・ディミジアン氏は、法王がこのグループを歓迎し、叡智を分かち合ってくれたことに感謝した。そして最後に、ヴィジャイ・カトリ氏に閉会の挨拶をするよう求めた。

法王と、ダライ・ラマ・フェローのプログラムに参加する若いリーダーや来賓たちとの会合で、閉会の挨拶を行うヴィジャイ・カトリ氏。2024年3月20日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:ザムリン・ノルブ / 法王庁)

「この一週間は変容に満ちたものでした」とカトリ氏は挨拶を始めた。
「ことわざにあるように、“心とはただの満たされるべき器ではなく、燃やされるべき炎なのです”。私たちは、法王と関わり合い、思いやりと温かい心について法王から学びました。この心のこもった贈り物に感謝いたします」とカトリ氏は挨拶した。

それに対して法王は、次のように応答された。
「先ほども申し上げたように、私たちは幼い頃、互いに何の偏見や疑いも持つことなく、他の子供たちと遊びます。このようにオープンで公平な態度こそ、私たちが守らなければならないものです。私たちはお互いを “私たち”、“彼ら” という観点で見てしまいがちですが、これが衝突につながる可能性を引き起こしてしまいます。だからこそ、私たちにはどれだけ多くの共通点があり、“私たち” ではない “彼ら” と見なしている人たちも、皆、同じ人間であることを常に思い起こすことが役に立つでしょう」

ソナ・ディミジアン氏は、法王の平和で喜びに満ちた一日を祈り、明日もまた、このグループが法王にお目にかかれるのを楽しみにしていると述べた。