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思いやりのある行動 —リーダーシップについての対話— 2日目

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2024年3月21日
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インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ

ダライ・ラマ法王は、ダライ・ラマ・フェローのグループとのリーダーシップについての対話の2日目を、以下の言葉で開始された。
「みなさんに今日もお会いできて嬉しいです」

法王公邸で行われた、法王とダライ・ラマ・フェローのグループとの対話の2日目の開始時に話をするソナ・ディミジアン氏。2024年3月21日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

そこでソナ・ディミジアン氏は以下のように話を始めた。
「私たちは、今日も法王にお目にかかり、法王が対話にご参加くださることに身の引き締まる思いでいます。昨日の法王との対話から示唆を得て、私たちは、人類がひとつであること、人類が共有する人間的な価値観や、奉仕に人生を捧げること、怒りにどう対処するか、危害を加える人々とどう向き合うかについて、長い議論を交わしました。とても有意義な対話ができ、それによって私たちの心が開かれたと感じています。本当にありがとうございました」

フェローたちが再び歌い出し、昨日と同じように「心を開いて、愛で溢れさせてください」と詠唱した。

ブラジルのフラビア・ネヴェス・マイア氏、南アフリカのヴヨ・ヘンダ氏、ケニアのスティーブン・オグウェナ氏が法王に、リーダーシップの実践における愛と思いやりの役割について質問し、法王は以下のように回答された。

対話の2日目に、法王に質問をするブラジルのフラビア・ネヴェス・マイア氏。2024年3月21日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「過去においては、リーダーになるには権力と狡猾さが必要でしたが、そのような時代は終わりました。今のリーダーシップに必要な資質は、一般の人々のことを考慮し、特に共同体の貧困層に目を向けるなど、あたたかい心を持つことです。今日において、利己的な目的だけを追い求めることは、非常に心が狭い行動であると言わざるを得ません」

「民主主義が世界中に広まるにつれて、人々は、何が起こっているのかをよりよく知るようになりました。以前はほとんど注意を向けずにいたこと、全体像を見ることが不可能であったことについての情報が入るようになり、今では一般市民が社会の幸福度について真剣に関心を寄せています」

「民主的な国々では、視野が狭く、偏りのあるリーダーシップではなく、人民による人民のための政治を行う政府を見ることができます。この方がずっと健全であり、権力はもはや少数の人の手の中にあるわけではありません」

そこでソナ・ディミジアン氏が以下のことに言及した。
「昨日法王が、人類がひとつであることについて話されたとき、私は法王とデズモンド・ツツ大主教との間の友情を思い出しました」

法王はこれに対して次のように答えられた。
「私が人間性について語るとき、私たちは皆、お母さんのお腹の中から生まれてきたという、共通の経験をしていることを思います。昔は、神秘的な力や癒しの能力を持った人が存在すると考える人々がいましたが、今はそうではなく、私たちは皆同じであることを知っています。ダライ・ラマには神秘的な力があると信じる人たちもいましたが、私はすべての皆さんと何ら変わるところのない、普通の人間です。私たちには皆、肯定的な感情もあれば否定的な感情もあります」

対話の2日目に質問に回答されるダライ・ラマ法王。2024年3月21日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「人々の心に影響を及ぼすのは教育であり、教育によって視野を広げることが可能なのです。教育がなければ、地位の高い人ほど心が狭くなります。教育の特性のひとつは、人々がより広い視野をもつことを可能にすることです」

「私自身の場合は、チベットでダライ・ラマと認定され、玉座に上げられたことで、他の人々との間に距離ができてしまいました。難民となってからは、私はあらゆる階層のあらゆる人々と接触することができるようになり、そのことによって、人類がひとつであり、すべての人間が本質的に同じであることを教えられました」

「自分を特別な存在だと考え、他の人から切り離すことは古い考え方です。私自身の場合、難民としての生活が役立ち、私を現実に引き戻してくれたと感じています」

次の質問者は、恵まれない人々への教育の提供に尽力している、デリーで働くルチ・ヴァルマ氏とジンバブエのアディ・マヴェンゲレ氏であり、法王は質問の途中で以下のように述べられた。

対話の2日目に、法王に質問をする、恵まれない人々への教育の提供に尽力している、デリーで働くルチ・ヴァルマ氏とジンバブエのアディ・マヴェンゲレ氏。2024年3月21日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「教育は明らかに格差のある分野であり、貧しい人々が教育を受けられる機会はより限られています。重要なのは、すべての人が同じように教育を受ける機会を持てるようにすることです」

ルチ氏とアディ氏は法王に「人類がひとつであることを認識する方法を、私たちや他の人々は、幼い子どもたちから学ぶことができるでしょうか」と尋ねた。

法王は次のように指摘された。
「一般的に、ほとんどの社会では、人々は年長者を尊敬し、年長者の方が物事をよく知っているかのように思い、子どもたちの経験にはあまり耳を傾けません。しかし、子どもたちがどのように考え、お互いにどのように関わっているかを観察してみるならば、そこには学べるものがあると私は信じています。さらに、子どもたちに敬意を持って接することは、子どもたちの自信にもつながります」

ネパールで活動するアメリカのスバム・サプコタ氏とブータンのティム・ファン氏は法王に、より思いやりのあるリーダーの育成に学校がどのように貢献できるかについて質問した。

対話の2日目に、より思いやりのあるリーダーの育成に学校がどのように貢献できるかについて法王に質問をする、ネパールで活動するアメリカのスバム・サプコタ氏とブータンのティム・ファン氏。2024年3月21日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:ザムリン・ノルブ / 法王庁)

法王は以下のように述べられた。
「仏教徒はすべての有情の幸福を祈り、その中にはすべての人間も含まれています。この観点からすると、すべての人間は同じであると認識することは、教育の担うべき重要な側面です。ここで役立つかもしれない一つのシンプルな考察をお話しするならば、すべての人間は幸せになりたいと願っている点において、皆同じであるということです。私たちは皆、お母さんのお腹の中から生まれ、母乳を与えてもらうことによって生き延びていけるのです。もちろん、後にダライ・ラマと認定されても、これは私にも当てはまることです」

「人間は皆同じだということを心に留めておくことができれば、幸せになることができるでしょう。自分を特別な存在だと思い始めたら、そのイメージを守るために努力しなければならなくなります。私は他の人たちに会うとき、“ここいるこの人も、私と同じ人間なのだ” と考えています」

「チベットにいた頃は、形式を遵守する制度のため、私と他の人たちとの間には距離がありました。しかし、いずれにせよ、ダライ・ラマという高い地位にある人がいるという考えは、単に人間が作った概念に過ぎません。今のように普通の人々と接することができる方が、私にとってはずっと幸せなのです」

「私が冬の宮殿であるポタラ宮殿、あるいは夏の宮殿であるノルブリンカ宮殿のいずれかに閉じ込められていたにせよ、形式の遵守には多くの見せかけが伴いました。その点で、インドに亡命したことは私に心の平和をもたらしてくれ、難民として、私はより自由になったと感じています。私がより広範に伝えたいメッセージは、人間であるということに関して、私たちは皆同じであり、対等な立場で他人と関わる方が、ずっと健全なことだということです」

対話の2日目に、法王のお話に耳を傾けるグループのメンバーたち。2024年3月21日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

ソナ・ディミジアン氏は、人間としての基本的な価値観を子どもたちに伝えようとするとき、教師への支援が大変少ないことが課題のひとつであり、生計を立てることに精一杯の親たちについても、しばしば同じことが言えると指摘し、法王に以下のように尋ねた。
「このような困難な状況の中で、彼らはどのようにして動機を維持できるでしょうか。法王は世界の多くの苦しみを前にして、いかにして動機を保たれているのでしょうか」

これに対して法王は次のように答えられた。
「ひとつの問題は、多くの社会に階層構造があることです。自分は他の人々と同じなのだという考えに慣れ親しみ、その考えが心に染み込めば染み込むほど、自信と勇気を持てるようになります。チベットでは、聖なる存在としてラマを特別扱いしてきましたが、それはラマたちを他者から孤立させるだけでした。厳格な階層構造は時代遅れな形態にしか過ぎません」

「すべての人間が本質的に同じであるという考えを広めることはとても重要です。私たちは世話をされ、愛情を注いでもらう必要があるだけでなく、自らも他者を気遣い、世話をする能力を持っているのです」

フランク・バッテン・リーダーシップ・スクールのイアン・H・ソロモン学部長が閉会の辞を述べ、法王のお言葉とお加持に、そして法王庁がこの対話を円滑に進めてくれたことに感謝した。ソロモン学長はまた、法王の多くの友人が滞在するシャーロッツビルとヴァージニア大学からの挨拶文を披露した。そして学長は、ヴァージニア大学、コロラド大学、スタンフォード大学がダライ・ラマ・フェローのリーダーシップ・プログラムを主催していることを誇りに思っていると述べ、次のように続けた。

対話の2日目に、閉会の辞を述べるフランク・バッテン・リーダーシップ・スクールのイアン・H・ソロモン学部長。2024年3月21日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「世界中の人々が、自分たちの間にある分裂を克服するためのリーダーシップを緊急に必要としています。私たちは、協力を通じて人類が共有する人間性を強化する必要があります。法王が、平和と思いやりのための世界の大使でいてくださることに感謝いたします。法王は、私たち全員が見習うべき模範を示してくださっています。リーダーシップは社会を改善することができ、誰でもリーダーシップを発揮することができます。個人やダライ・ラマ・フェローのようなグループ、組織、そして国家でさえもリーダーシップを発揮することができるのです。私たちが迫られている選択は、世界を変え、正義をもたらすために自分自身と他者に責任を持つことです」

「助けを必要とする人々を心あたたかく助ける法王は、私たち皆にとってのリーダーシップのお手本であられます。ダライ・ラマ・フェローたちもまた、人の役に立つために、そのような選択をしています。フェローたちが参加するプログラムは、行動と奉仕についてのものですが、それは競争よりも思いやり、心の狭さよりも心のあたたかさに関連しています。私たちはここ数日、フェローたちの質問や好奇心の中にそれを見てきました」

「私たちは皆、幸せになりたいと願い、苦しみを避けたいと願っているにもかかわらず、“私たち” と “彼ら” という観点からお互いを見ています。ダライ・ラマ・フェローたちは、すべての人間はひとつであることに基づいて、この溝を埋める手助けをすることができます。もう一度フェローたちに歌ってもらいましょう」

2日間にわたる対話の参加者たちとの写真撮影に臨まれるダライ・ラマ法王。2024年3月21日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

フェローたちはハーモニーを奏でながら、体を揺らし、優しく歌ってこの対話を締めくくった。

間違った行いと正しい行いという
観念を超えたところに
野原がある
そこで会いましょう