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対中国世界銀行融資

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1999年7月3日
産経新聞

世界銀行が中国への貧困対策融資を認めた。

米国やドイツなどは、この融資で漢民族がチベット人居住区に移住し、チベット民族の伝統や連帯を弱めると懸念し反対した。これに対し、中国当局は「不当な政治的内政干渉」と非難した。世界銀行は中国国内における複雑な民族問題を重視せずにこの融資援助計画を進めたらしく、内部に政治課題の多い中国への援助のあり方に関し、これからしこりを残すことなった。

今年6月24日の世界銀行理事会で条件つきで認めたのは、中国の貧困対策への総額1億6千万ドルの融資だが、このうち青海省北東地域の貧困農民約5万8千人を同省内西部のチベット自治区に隣接するチベット民族自治県一帯に移住させる費用とされたことから、米国などの反対を招いた。

米国議会などの反対は、「漢民族(中国人)にそもそも不当に支配されているチベット人の独自の居住区にさらに漢民族を移住させることはチベット民族の希薄化につながる」という趣旨を理由としている。

世界銀行理事会では、米国とドイツだけが同融資に反対し、日本などの多数派はこのチベット民族希薄化の懸念について特別に調べる調査委員会を設けるという条件をつけることで賛成に回った。調査は少なくとも2、3ヶ月はかかるとみられる。調査のためには外国人専門家が中国側当局者の同行なしに自由に現地を視察してよいとされた点が中国側の譲歩と見なされている。

今回の融資ではチベット民族希薄化の危険性については、世界銀行では認識がほとんどなく、「インターナショナル・キャンペーン・フォア・チベット」という民間組織の指摘で問題が急浮上した。

中国は国民の平均所得の上昇で世界銀行のこの貧困対策融資の資格を6月末に失うことになっていたため、今回の融資の確定を急いだという事情もある。これらの経緯は、世界銀行の援助が中国のような内部に複雑な政治がらみの多民族問題を抱えた国に供与される場合、その援助が期せずして推進する一定の政治効果を事前に探知することは極めて難しいという点で、対中援助や援助一般の実施上の難題を改めて明示したといえる。

一方、中国側は、官営英字紙のチャイナ・デーリー2日付けに「世界銀行の融資は貧者を利する」という題の論文を掲載し、米国やドイツ、チベット支援国際組織などの主張を「中国の内政への干渉であり、内部分裂を図る試み」と非難した。

同論文は、

移住する予定の5万8千人は漢民族ばかりではない
移住先のチベット民族の人数が移住により減ることはない
移住先の住民の大多数がこの移住計画に賛成している

と主張、反対論は事実に立脚していない、と論じた。中国外務省も報道官を通じて、世界銀行同融資の審議の段階から米国などの反対は政治的な反中行動と断じて反発してきた。

しかし国際社会にこの種の懸念が生まれる背景には中国当局が1950年代にチベットの併合以来、漢民族をチベット民族先住地域に大量に移住させてきた実態がある。