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ロンドン警視庁の職員とオンライン対談

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2020年7月8日
インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ

今朝、ダライ・ラマ法王は目の前のモニターに映し出されたロンドン警視庁の警官や職員たちの顔をご覧になり、朗らかに、「こんにちは!こんにちは!」と手を振って挨拶された。法王は着席されると、私はいつも午前3時30分に起床し朝食を5時30分に取るのだが、ロンドン警視庁の方々はこんな早朝に空腹でいることには慣れていないでしょうね、と述べられた。

司会のブリン・デオル氏が法王に、「良い誕生日を過ごされましたか?」と尋ねると、法王は「はい。でも毎日が誕生日のようです。大切なのは心の持ちようであり、心が平安なら毎朝が誕生日の朝のようになります」と答えられた。

ここで、今回の対談を共催するマインドフルネス高度学習センター(CALM:Centre for the Advanced Learning of Mindfulness)のクマンガ・アンドラヘナディ博士から、今回のイベントには千名の警官、職員、特別ゲストなどが参加して、法王から慈悲の心についてのお話を伺おうとしていると説明があり、彼ら全員がこのような機会を得たことを大変感謝していると述べた。

ダライ・ラマ法王とロンドン警視庁職員とのインターネットを介した対談で開会の辞を述べるサイモン・ローズ刑事局長。2020年7月8日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

次に、ブリン・デオル氏が、最高警察官である現職のサイモン・ローズ刑事局長を、ロンドン警視庁内の “SHINE” プロジェクトの擁護者で、今回のイベント実施の立役者であると紹介した。ローズ局長は警視総監が仕事の都合で欠席せざるを得なかったことを詫び、続けて “SHINE” について、警視庁内で精神の回復や心の安定に関心を持つ人たちのボランティア・グループであると説明した。今回、早朝5時30分に「この不確実な時代における慈悲の心」について学習しようと役員や職員を招集したのはこのグループであった。しかし、マインドフルネス高度学習センターのクマンガ・アンドラヘナディ博士なくしては実現に至らなかったことを付け加えた。

「私たちは大変難しい時代に警備をしています。今ほど心の平安や健全な精神の重要性が求められている時はありません」とローズ刑事局長が法王に説明した。

法王はそれに答えて、「あなた方のような英国人グループの方々とお話しすることができて大変嬉しく名誉に思います。私たちチベット人と英国人は、歴史的に親密なつながりがあります。以前の英国訪問時に、ラサに駐在していた人々とお目にかかったこともあります」と述べられた。

「1904年にヤングハズバンドという名の陸軍将校が率いる英国兵の一団がラサに入りました。もし、こう言っても許されるなら、彼らは後年ラサに入った中国軍兵士に比べれば、規律を守って行動していたと言ってよいでしょう。当時、先代のダライ・ラマはモンゴルに亡命していましたが、摂政が接遇してヤングハズバンドに仏像を贈呈しています。彼の家族はそれを大切に保持し、のちに私はその仏像を見せていただきました。彼はチベット人の精神性に感銘を受け、その後、自身の精神的宗教団体を設立するに至ります」

「英国のインド統治時代に英国はラサ使節団を設立し、英国官吏が一名常駐していました。私が子供のころ、英国の使節団が来訪する時はいつもおもちゃを持ってきてくれました。ですから英国人が来ると聞くと、今度は何を持ってきてくれるかと楽しみでした。そして今日、このように皆さんとお話ができることを大変嬉しく思います」

ロンドン警視庁の職員たちに向けてダラムサラの法王公邸からインターネットを介して話しかけられるダライ・ラマ法王。2020年7月8日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「アジアには非暴力と慈悲の伝統があり、その思想には三千年以上の歴史があります。今日の世界では、このような良き資質の適合性がより増しています」

「私たちはどのようにして心の安らぎを得るかを学習するべきです。そのためには祈りや儀礼、加持に頼るのではなく、自分の心の働きを知り、それによって破壊的な感情(煩悩)を浄化するための対策をとるべきです」

「幼児はよく笑い、優しさにはすぐに反応します。この良き資質を成長しても維持できるような方法を探り、それによっていつも慈悲深く接し、怒りに対処する方法を学ぶべきです。幼稚園や学校の教室においても、心の平安を得るための実現方法と怒りや恐れなどの感情に対処する方法についても時間を費やすべきです」

「心は刻一刻と変化しています。自分の心を検証してみれば、そこには変化せずとどまり続けるものは何もない、ということがわかります。このような分析的瞑想が真理を理解することを助けてくれます。真理の理解がより明確になれば、煩悩はやわらぎ、減少することでしょう。そして私は、このように理由を解明するという方法により、慈悲の心を高めていけるということ自体が希望のしるしだと思っています。良き感情は瞑想を通じて強化できますし、煩悩は対策を講じることによって減少させていくことができます」

法王は、慈悲の心は五感を通して生じる感覚的意識ではなく、それは、純粋な精神的意識作用であると述べられた。そして、今日では科学者たちも瞑想によって慈悲の心を高めることにより、心の平安と内なる強靭さが得られることを受け入れている、と付け加えられた。慈悲の心は正しい根拠と理由によって強化され得るが、一方、怒りや嫉妬のような悪しき感情(煩悩)は一時的に生じるのみで、長期にわたって持続することはない。

法王公邸より、ロンドン警視庁職員とのオンライン対談に臨まれるダライ・ラマ法王。2020年7月8日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「今日では、この世界に生きる70億の人類はみな、同じひとりの人間であることを大部分の人が認めています。私たちはグローバルな社会に生きています。例えば、地球温暖化の問題に国境はありません。私たちはこのような挑戦に対応するために、人類はみなひとつの人間家族であるという認識を強化しなければなりません。紛争に対しては、相互に同意可能な解決策を探るべきであり、21世紀を対話の世紀とすべきです」

「それには教育が重要な役割を果たします。西欧の教育は物質的な目標達成を重視していますから、それに付け加えるべきものは、内なる世界に対する教育と、どのように心の平安を達成するかの学習です。私の話は以上です。ありがとうございました」

ここでブリン・デオル氏が法王への謝辞を述べた後、今日の質問者を紹介した。最初の質問は、日常的な犯罪や紛争に接するなかで安らぎを維持する方法についてであった。

「私たちは内なる世界や内なる平安という考えをずっと無視し続けてきました。その結果、現在の社会には犯罪が存在しています。しかし、相手が武器を振りかざしている時、ただ「慈悲の心、慈悲の心」と自分に言い聞かせているだけでは十分ではなく、何か有効な対策を取らねばなりません。長い目で見るならば、一般的には教育を通して、人々に内なる価値の有用性を知らせるべきです」

法王公邸より、ロンドン警視庁の職員たちとインターネットを介した対談に臨まれるダライ・ラマ法王。2020年7月8日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

次にひとりの女性警官が、男性中心の組織で働く女性たちに法王のアドバイスと励ましの言葉を求めた。法王は、女性は愛の象徴であり、母は愛情と慈悲の心の体現であると述べられた。

「私は時々、もっと多くの女性が国家の指導者であったなら、世界はもう少し平和であったかもしれないと思うことがあります。実際、現フィンランド首相は最近宣誓をし、内閣の重要ポストに複数の女性を任命しました。そこで私は彼女に祝辞を送りました」

「女性は他者の感情に対して男性より敏感である、という科学的証拠も発見されています。歴史的に見れば、戦闘者の大多数は男性であり、肉屋の多くも男性です。それに対して、女性はより優しい方法を取ります。ですから、女性は職場において他者との関係を構築するために、愛情や慈悲の心においてより積極的な役割を果たしてほしいと願っています」

続いてロンドンの巡査部長が自殺についての対処法を尋ねた。英国において自殺は45歳以下の男性の死因第1位となっている。法王は物質的な成功を目的とした過剰な競争と、忍耐の不足が欲求不満につながり、自殺という形をとるのかもしれないと述べられて、これもまた、教育を通して解決できるだろうと表明された。

「余りにも多くの満たされない願望と、欲求不満が自殺という結果を生み出してしまいます。私はこの人生において多くの問題に直面してきましたが、心に関する教育と学習のお陰で、私は心の平安を得て、それとは異なるよい結果を得ることができました」

ダライ・ラマ法王とのオンライン対談で質問をするロンドン警視庁の職員。2020年7月8日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

次に、現職の警官に役に立つ瞑想法を推薦してほしいとの要望に応え、法王は、まず自分の意識にもっと注目する必要があると強調された。

「私たちが持っている様々な感情も、純粋な精神的意識作用の一部であり、それらの感情への対処法もまた、純粋な精神的意識作用に依っています。睡眠中、夢を見ている間は、五感を通して生じる感覚的な意識は機能を停止しています。もし、その状態に習熟していけば、それを瞑想に利用することができます。覚醒時でも、瞑想中でも、あなたは感覚的な意識に邪魔されることなく、自分の純粋な精神的意識にアクセスすることができます。感覚的な意識を無視すれば、心は空性を感じます。その状態に集中するならば、何かが欠けているという感覚を覚え、心は思考を反映する鏡のように現れてきます。その状態に集中して、まず数秒間とどまり、それを、数分間、数時間、と延ばしていくという実践をするとよいでしょう」

最後の質問はチベット人の警官からで、この困難な時代に希望を持ち続けるにはどうしたらよいかというものだった。法王は、身体的行為も、口から出る言葉も、その源は心から派生すると告げられた。ゆえに良い心の動機を持ち、他者の安寧を気遣っている限り、どのような行為も有益であると答えられた。

ここで、ブリン・デオル氏は主催者を代表して、質問に回答してくださった法王に謝辞を述べた。そして、今日法王のためにバースデーケーキを焼いてきてくれた職員を紹介した。85歳になられた法王を祝して、ケーキには85枚の花弁があしらわれていた。法王がもう一度よく見たいと言われたので、彼女がケーキを掲げてお見せすると、法王は笑顔を見せて、ケーキを食べる真似をして楽しまれた。

「私はあなた方兄弟姉妹の深い気持ちを大変嬉しく思います。私たちは皆、等しく大きな可能性を持っています。それを良い方向に向けてさらに発展させていくための注意を向けましょう。どうもありがとうございました」

ブリン・デオル氏が、今回のイベントの実現に尽力してくれたすべての人々に感謝し、最後に法王に向かって、再びお目にかかれる機会があるかどうかを尋ねた。法王は覚えておきましょう、と答えられた。なぜなら年齢的制約により長時間の飛行機での移動は困難であるが、もしもう一度会えたら嬉しいし、古くからの友人との再会も果たしたいので、まずはスイスあたりへ飛び、それから英国へ足を延ばすことも考えられる、と述べ、次のように締めくくられた。

「私たちは今、物理的に距離は離れていますが、心の中ではいつも共にいます。ありがとうございました」