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ニューヨークの仏教徒 平和のメッセージを伝えることが困難になると認識

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2002年2月12日
ニューヨーク(by バーバラ・クロセット)

反テロリスト戦争という状況の中で、ニューヨークの仏教徒たちはその影響を被っている。

かつてはニューヨーカーを魅了したかに見えた平和と憐れみのメッセージも、今ではそんなことをいったら嫌われてしまうとのことだ。仏教徒たちは、今週開かれるロサというチベット仏教の新年祝いの催しに向けて何日も前から準備をし、東海岸やカナダのチベット人コミュニティから来たチベット人が街を埋め尽くしてきたが、悲しみや嘆きの声が聞かれるようになった。

ほぼ半年前、仏教—チベット仏教と禅—はニューヨークで盛り上がりを見せ、地方の僧院や近郊の瞑想センターに熱心な人たちがやってきていた。そしてあのテロがアメリカで起き、アメリカの戦争がアフガニスタンで始まった。非暴力はもはや流行ではない。特に心の傷が奥く、事件の痛手がまだ生々しいワールドトレードセンター崩壊後のニューヨークではそうである。

「我々は、ただレーダー画面から消えつつある」とウイリアム・K・マクキーバーは語った。マクキーバーは、仏教学校−そこでは信者が仏教を宗教というより哲学として捉えている−全てに関する情報収集と研究を行うブルックリン情報センター「ディアパーク・イニシアチブ」の代表を務めている。

昨年アジア・ソサエティを辞め、高まる世間の関心に応えて自分のグループを発足させたマクキーバーにとって、真剣な仏教徒と遊び半分の者との境界ははっきりしたものとなっている。

「仏教、そしてダライ・ラマの流行がどれほど浸透していたか知るのは困難なことだ」とマクキーバーは語った。

しかし、「自分のグループとニューヨークにある他のセンターは『不適切な反動』を感じてきた」とマクキーバーは述べた。心ある人は、こうした状況で寄付を求めて寄進者に近づかない方がいいとマクキーバーに警告してきたという。仏教徒は、教会のような階層や正式な会員制度、集会の組織もなく、ほとんどを寄付と謝礼に頼っている。

仏教僧で仏教学者でもあるコロンビア大学のロバート・サーマン教授は、テロの恐怖は、平和運動や非暴力の表現でさえも麻痺させ、あるいは妨害さえもしてきたと語った。これには、西洋で急速に広がりつつある仏教の流派、チベット仏教の先導者ダライ・ラマ14世が昨年9月の虐殺に対し慎重に応えた嘆願も含まれている。トレードセンターへのテロ攻撃から数日以内にダライ・ラマ法王—1959年チベットから避難し中国軍から逃れた−はブッシュ大統領に親書を送り話し合いによる解決を薦めた。しかし、この親書はほとんど注目されなかった。

10月20日、マディソンスクエアガーデンではポール・マッカートニーや、ミック・ジャガー、その他大勢が9月のテロ攻撃の犠牲者に対するチャリティーとしてロックコンサートを行ったが、仏教徒達がショックを受ける出来事が起きる。熱心な仏教信徒としてハリウッドでも有名なリチャード・ギアがやじられステージを退場するはめになったのだ。ギアがテロ攻撃に対し憐れみを唱えたからである。

ニューヨークの多数の仏教徒達にとって最も問題だったのは、4月に予定されていたダライ・ラマ法王の訪問に対して意外なほど反応が冷たかったことだ。法王はトレードセンタ−跡を訪れ、ヨーロッパ、カナダ、アメリカツアーの一環として仏教についての講義を行うつもりであった。
その後、インドのダラムサラにある亡命政府からの提案により、ツアーはキャンセルされた。

1999年8月、ダライ・ラマ法王の説法を聞くため、20万人がセントラルパーク内のイースト・メドウを埋め尽くした。法王は訪問期間の最後に、ビーコンシアターにて3日間にわたる一連の哲学的な法話を行った。
「他の人たちはこのイベントを新聞で読んだりテレビで見たりした」ギアとキョンラ・ラトーはこの訪問に基づいて後に本を出版した。タイトルは「開かれた心:日常生活での慈悲の実践」(Little, Brown & Company出版2001年)。「そしてセントラルパークのあの朝の結果、何百万もの人に素晴らしい思想が生まれた」

何十万もの人々がダライ・ラマの説法を聞きにやってくるだろうか?
「今日では起こりえないと思う」とマクキーバーは語った。ダライ・ラマがラジオシティミュージックホールで行う3日間の講演が準備され前売り券が発売されていたが、訪問はキャンセルとなってしまった。

このイベントは、チベットハウスがスポンサーとなり、当地の仏教徒たちにとっては重要なものであった。訪問中止には多くの理由があり、66歳のダライ・ラマ法王の健康状態が悪いというのも少なからずそれに含まれている。1月、ダライ・ラマは激しい腹痛のために治療を受けた。急性腸炎が原因だと言われている。ダライ・ラマの事務所の話では、回復したものの疲労があり、残りのツアーをキャンセルしたという。

亡命チベット人にとって、彼らのカリスマ的リーダーの損失は、彼らの運動にとって大激変となるだろう。中国がアメリカ主導のテロ戦争に参加した今ではなおさらのことだ。これがチベット−1950年代に中国軍が侵略しダライ・ラマを亡命へと押しやった−の弾圧をさらに進めていくのではないかとチベット人は恐れている。ニューヨークは、親チベット運動の中心でありインターナショナル・キャンペーン・フォー・チベットや傘下のグループへの主な資金源となってきた。

インターナショナル・キャンペーン・フォー・チベットキャンの理事、プチュン・ツェリンによれば、「中国がうまくチベット人をテロリスト扱いしてしまう」という最も恐れている事態は知識人の間では現実化していないものの、彼自身仏教が排斥されているのを目にしてきたという。

「もし、教訓となるものがあるとすれば、それは国連と国際社会が我々のような非暴力運動に注意を払う必要があるということだ。その一方で我々にはダライ・ラマのような可能性のある指導者が存在している。そうでなければ、他の選択肢は明らかだ」とツェリンは語った。

ツェリンは2月上旬ニューヨークに滞在し、近日中に国連にて行われる「開発に関する世界会議」からチベット亡命政権関係者を締め出そうとする中国側の動きを封じ込めようとした。しかし、中国がインターナショナル・キャンペーン・フォー・チベット関係者を会議に参加させないことに成功している。しかし昨年、中国は「人種偏見に関する会議」にチベット人を参加させない試みに失敗している。

しかしながら、全ての仏教徒が落胆しているわけではない。合衆国の仏教徒数の計算はあいまいで(予測範囲は300から600万人)、移民が増えていくことによって仏教徒の力も強くなっていくだろう。

チベットハウスの特別プロジェクト総監督でありロバート・サーマンの息子であるガーデン・サーマンによれば、仏教に目覚め暴力は常に最後の砦であるという考えを理解しているニューヨーカーの間では、支持者の数に落ち込みは見られないという。彼らにとっては仏教哲学が今現在、これまで以上に必要とされているとガーデン・サーマンは述べた。
「仮に現在の状況が他の『何とか主義』に対抗する終わりなき戦争であるなら、人々は何らかの慰めを求めていくことになるだろう」とガーデン・サーマンは語った。

仏教徒の中には、すでに救済の方法を模索している者もいる。ニューヨークのウッドストックにあるカーマ・トリヤナ・ダーマチャクラ寺院とそのスタディセンターで秘書を務めるルイス・デピエスが語った。
「グラウンドゼロ周辺に住んでいた人々が、短時間の安らぎを求めて大勢やってきている。彼らはニューヨークを忘れる時間を必要とし、恐怖心を克服し自分の生を再評価するために静寂な場所を探しているのである」