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チベット亡命政権代表 アイルランド議会外務委員会でチベットの現状を訴える

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(2003年12月20日 チベット亡命政権発表)

以下の声明は、ダライ・ラマ法王ロンドン代表部事務所代表のケルサン・タクラ女史がアイルランド全党議会外務委員会でチベット問題を発言した際のものである。

アイルランド議会外務委員会において、チベット問題、ならびに苦しみに喘ぐチベット人の現状を報告できる機会を頂き、深く感謝いたします。この威厳ある委員会で報告させて頂きながら、貴国が長年にわたり、国連総会でチベット問題のイニシアティブをとられてきたことを思い起こさずにはいられません。1959年、フランク・アイキン外務大臣が国連総会のチベット論争でこうおっしゃいました。
「この総会を見渡してご覧なさい。そして我々の代表団を見てご覧なさい。大国の力に押さえ付けられたか弱い一国とその民が、今まで発言する機会を得られなかったことを皆さんが心を留めていれば、この会場にこれほど多くの空席があったでしょうか。 かつて属国であった国は、属国のままなのでしょうか。チベットはここ2、3年で中華人民共和国の手に陥りました。この総会に集う国家のように、チベットは何千年もの間、自らの管理で国事を成し遂げ、ここに集う国以上に自由の統治国であったのです」
アイキン氏はさらにこう述べました。
「アイルランドの民の、帝国主義の犠牲者への同情は、何も新しいものではありません。私たちの思いは過去と同様、現在も苦しみにあえぐチベットの人々に向けられているのです」
また、アイキン氏は、非暴力闘争を貫いたテレンス・マックスワイニー氏の言葉を引用されました。
「真の勝利を勝ち取るのは、多くの危害を与える者ではなく、多くの苦しみを乗り越えてきた者である」

この思い出とともに、1973年のダライ・ラマ法王の貴国訪問の際に開かれた感慨深いレセプションが思い出されます。アイルランドは、法王が1959年にインドに亡命後、初めて欧米を訪れた際に訪問した国のひとつであります。当時の訪問の目的は、政府をはじめ、貴国の民が国連総会でチベット問題を取り上げ、信念深く心強い役割を担って下さったことに感謝の意をお伝えすることでした。

また、この壇上で、元アイルランド大統領であるとともに元国連人権高等弁務官として、言動をもってチベット人の苦境に共鳴し、中国の人権侵害に画期的な改正を図るために勇気ある行動をとられたメアリ−・ロビンソン女史に深く感謝の意を表明します。ダライ・ラマ法王とチベット亡命政権に代わり、貴国がチベット人の悲劇を国際社会に表面化されるなど多大なご尽力に対して心からお礼を申し上げるために、この貴重な機会を使わせて頂きたく存じます。それと同時に、今もなお続くチベット人の惨状をご説明する時間を割いて頂いたことに深く感謝申し上げます。

1950年代、チベット人の悲劇がまだ国際社会の意識には目新しいものであった頃、ダライ・ラマ法王は国連をはじめとする国際機関において、世界各国の国益のためにも、中国にチベット問題の平和的解決を説得するよう求めました。ダライ・ラマ法王の信念あるアプローチでありました。以来、法王は、チベット問題の解決策を2つの重要な文書に基づいた見解を明確にしました。ひとつは、1987に米国下院人権問題小委員会で提案した「和平五項目プラン」、もうひとつが、1988年にフランス・ストラスブールの欧州議会で発表した「ストラスブール提案」です。この二つの文書をあわせたものが法王自ら考案された「中道アプローチ」といわれるものです。

中道アプローチという考えは、チベットが全面的に中国の政治枠内に留意することを前提にしたものです。このアプローチは、中国にチベット外交上の防衛における取り締まりと監視を求め、その見返りとして中国は600万ものチベット人を一つの行政単位としてみなすことが許されています。この行政においてチベット人は内政における決断と決定の自由が認められるというものです。

法王の中道アプローチはまた、「チベットの復権」として、チベット全域をアヒンサー(非暴力)地帯とし、環境保護と推進の聖域化を提案しています。チベットの非武装化は、チベットを世界中で最も人口を抱えているインドと中国の緩衝地帯としての役割を担い、それが結果としてアジア地域に安定と平和、繁栄をもたらすのです。

中国はこの提案をチベット独立の訴えになんら変わりないと拒否しながらも、2002年9月以降、中国が法王の使節の訪中を2度も受け入れてきました。中国の受け入れは前途ある展開であると認識しております。法王は常日頃、定期的なアプローチと互いに顔を合わせた会見が相互に信頼と理解、尊敬を高めるものと信じていたからです。今後も引き続き、チベット亡命政権は法王の使節による3度目の訪中を中国に申請し、中国側から返答を待っている次第であります。

しかしながら、チベットの現状は未だに厳しいままです。チベットの現状に対する懸念は、大きくして2つ挙げられます。ひとつは現在進行中のチベット高原への中国人の人口移動、もうひとつがチベット内で繰り広げられている大規模な開発プロジェクトです。私達はこの両政策が、チベット人を自らの地でさらに隅に追いやられ、開発利益の全てを奪われてしまうだろうと懸念しています。

中国当局が率先するチベットの開発プロジェクトは、チベット人に悪影響を及ぼすのは必至です。ラサと中国国内を結ぶ鉄道建設計画を含む開発プロジェクトは、チベットの天然資源の開発に拍車をかけ、すでに中国沿岸地帯にエネルギーと水、鉱物資源を輸送し続けています。開発プロジェクトはチベット人の従来の生活の変化を余儀無くさせるどころか、開発ブームや中国人入植者を優先的に雇用する国営の行政的傾向に目をつけた中国人を惹き付けて入植者数を膨大に増加しているのです。

これらの懸念に対して中国政府に圧力をかけるには、欧州連合(以下、EU)の協力が絶対不可欠です。とくにEUは、中国の人権問題の監督責任を継続すべきだと感じています。市民として、人間としての自由の追求というEUの誓約—人間としての威厳と個人の選択の自由という原則—は、中国も同様に守るべきであるといった強力なメッセージになって中国政府に伝わるものと信じています。

チベットの人権問題に対するEUの立場は確たるものであり、その立場はEUがチベット問題の特別代表(以下、チベット特別担当官)を任命したことでより明確に反映されたと感じています。チベット特別担当官という存在は、チベット問題の解決を前提とした交渉を促進するために真剣に取り組むEUの真摯な気持ちの現れとして、中国政府の指導者層に解釈されると信じています。チベット問題の友好的解決が、チベットの人権侵害の終焉を導くと思っています。

チベット特別担当官の任命は、ダライ・ラマ法王と中国政府の指導者層間のダイアログとなり、何度も暗礁に乗り上げられたチベット問題の交渉を促進すると思われます。この任命は、非暴力による自由獲得を支持するEUの明確で確固としたシグナルとなるでしょう。国際社会がテロリズムを撲滅する効果的な方法は、非暴力闘争を政治的に支持することであると信じています。人間の論理と近代の過酷な政治的現実は、権利と自由を失われながらも非暴力を唱えている人々を無視して国際的テロリズムの撲滅に励むのは浅はかであると訴えているのです。国際社会に支えられた非暴力闘争の成功は、他と同様の窮地に侵されている人達の良き手本なのです。

この見解において、チベット外交におけるEUのチベット問題特別担当官の任命は、チベット亡命政権と中国政府間の対話に大きな一歩を踏み出すことでしょう。チベット問題の平和的解決に向けての長い道のりを歩んでいくのです。

すでに御存じかとは思いますが、中国が過去2年間に3人の政治囚、タナク・ジグメ・サンポ、ンガワン・ チョぺル、 ンガワン・サンドルを釈放したことを心から喜んでご報告いたします。現在、タナク・ジグメ・サンポはスイスで治療を受け、ンガワン・チョぺルとンガワン・サンドルはアメリカに在住しております。

彼らの釈放を大変嬉しく思うと同時に、世界の各国政府がチベットのすべての政治囚をただちに釈放するよう中国に強く要求することをお願いしたいと存じます。政治囚には、1995年にダライ・ラマ法王よりパンチェン・ラマ10世の生まれ変わりと認定されたゲンドゥン・チュ−キ・ニマ少年(当時6歳)も含まれ、ニマ少年の両親の所在も明らかにされていないのです。もうひとつ、中国四川省で連続爆発事件主犯の容疑をかけられたテンジン・デレク・リンポチェ(トゥルク・テンジン・デレク) とその付き人、ロプサン・トントゥプの運命も懸念されております。国際社会の幾度のアピールもむなしく、テンジン・デレク・リンポチェは2年間の執行猶予付きの死刑を言い渡され、ロプサン・トントゥプは昨年の1月26日に処刑されました。この2人のチベット人に対する判決は、政治的な背景が色濃いものであると確信しています。テンジン・デレク・リンポチェは、チベット東部で著名な宗教指導者であり、両者ともに法王に忠誠を誓う者であるのは周知の事実です。とくにテンジン・デレク・リンポチェは、閉ざされたチベット人在住地域に寺院や学校、診療所を建設するなど、社会福祉活動に従事し、チベット東部で尊敬を集めた人物です。現在も中国当局は、テンジン・デレク・リンポチェが爆発事件に関与しているという確かな証拠を追求せず、法律の規定に基づいた裁判を避けているのです。2003年1月18日、チベットから密かに一つのテープが送られてきました。そのテープには、「中国当局がどんな行動や発言をしようと、私は無実です」とテンジン・デレク・リンポチェの肉声が入っていました。私たちは、世界各国の政府、とくに西側の政府に、テンジン・デレク・リンポチェの処刑の中止を求めるよう影響力を駆使して頂き、中国政府に拘束されている良心の囚人を釈放するよう訴えて頂きたいのです。

この機会にチベット問題とチベット人の苦境を報告する機会を与えて下さったことに今一度感謝いたします。貴委員会がアイルランド政府においても次期のEUにおいても、(EUの)チベット特別担当官の存続を説き、公務にご尽力下さいますようお願い申し上げます。

ご静聴、誠にありがとうございました。