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チベットを採掘することは中国を汚染すること

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(2013年8月17日 CTA

 

ケリー・ブラウンによる書評
『チベット破壊:世界の屋根における中国の資源ナショナリズム』 ガブリエル・ラフィット著

2013年8月11日 —

数年前、私はオックスフォード大学の地質学の教授と隣合わせたことがある。中国の資源の話題になると彼が「中国には採掘が容易な資源が非常に少ないのです」と言ったので、私は新疆・内モンゴル自治区のエネルギー資源について尋ねた。彼はうなずき、少し考えてから言った−−「ええ、でもそうした資源は採取は難しいですし、現在の中国に良い採掘技術がありません。チベットも同様で、多くの人がチベットは貴金属などがあふれていると考えていますが、そうした場所には近づくことが困難なのです」。

ガブリエル・ラフィットの著書『チベット破壊』 はこの話を裏付けるものである。だが本書の結論は、機能不全に陥っている中央政府と地方政府の関係と採掘業者の貪欲さによって、中国の国土のほぼ4分の1を占めるチベット高原が環境破壊をもたらしかねない盛んな採掘と採取計画の標的にされようとしている、というものである。

ラフィットは明確な主張を打ち出しており、この壮大な計画から最も深刻な悪影響を受けるであろうチベット人から多くの率直な意見を聞き出している。チベット人にとって海抜4,000〜5,000メートルの地にあるチベット高原は独自の精神的、文化的つながりを持つ場所であり、チベット人はまるで生物の体内に住んでいるようなものだと彼は主張する。数千年にわたり続いてきた遊牧生活は、この地域の繊細な生態系に適合したものである。場所を移動することで資源を慎重に用いて枯渇しないようにしてきたのである。

土着のチベット人社会は独自のやり方で現代性を実践してきたのであり、自分の住む土地を一度も利用しようとしたことのなかった犠牲者ではないという点をラフィットは強調し、鉱物の採掘や金をはじめとする貴金属の加工物の生産は何世紀にもわたってチベット文化の一部だったと示している。概ね先進国のあり方を模倣して自国に適用するという方法論に基づいた、中央集権国家中国による現代性のビジョンは地域ごとの状況に単純に適用できるものではないのである。また、特に1989年と2008年の暴動以降、中国政府は地元の環境活動家に対して不快感を顕わにした対応を取っており、彼らに分離主義者のレッテルを貼ろうとしているかもしれないが、不適切な資源搾取でチベットを破壊することは実際には中国自身の災厄につながるだろうと著者は主張している。中国にとって致命的に重要で、現在、大規模な濫用の対象となっている水資源は全てチベット高原を水源としている。こうした水資源を水源や水源付近で汚染することは中国の他の地域の汚染にもつながるだろう。

チベット問題が持つ論争を呼び易い高度の政治性に触れないおかげで、本書は少なくとも環境問題を幾分かうまく取り扱われている。ラフィットは、チベットの主権や、いつどのようにしてチベットが過去の中央集権的な中国の王朝の支配下に入ったかを理解するために古文書を紐解くことはせず、鉱業がどのようにチベットに計り知れない脅威を与えるかという点に焦点を合わせている。鉄道、道路などの交通インフラが大規模に導入された今、リスクを取りたい採掘業者にとっての誘因はこれまでにも増して大きくなっている。非合法であることが多いこうした業者がいかに環境に損害を与えており、中国の国内法をほとんど順守しないか全く無視しているかについてラフィットは叙述している。

私が数年前にオックスフォード大学で出会った地質学者もまた正しかった。チベットにおける主な鉱物、金属の鉱山に関する調査はどれもそこに世界のトップ20に入る鉱脈があることを示していない。だからこそ中国の国営資源企業はチリ、内陸アジア、アフリカなどの鉱山に大規模投資をしている。そうした地域は、地質、鉱山へのアクセス、サプライチェーンのいずれでもチベットほど難しい状況にはない。それに比べ、チベットでは最良とされる鉱脈に到達するためには莫大な量の岩を爆破して土を取り除く必要がある。

そうしたことが現代の技術で実現可能だと考えるのは、未だに残る毛沢東主義が持つ自然に対する尊大さの遺物でしかない。ところが、こうした尊大さがいかに中央政府の思考に浸透しているかを2010年に北京で行われたチベット自治区運営についてのハイレベルの実務者会議の様子を通じてラフィットは描写している。これらの人々にとって、チベットは大規模な道路・鉄道建設計画によって飼い馴らすべき地域であり、似たような大規模都市化プロジェクトが中国の国土を席巻している。

本書は時宜にかなった好著であり、簡潔なだけでなく、多くの事例を使った説明がなされている。将来に対して先見の明のある中国政府の高官、そしてチベット自身も、本書で提示されている問題について認識すべきであり、政治の問題は勿論のこととして、この地域における誤った環境運営が中国に、そしてラフェットが明らかにしたように世界にも悲惨な状況をもたらしかねないという現実の可能性を十分に認識すべきである。

本書により、今なすべき課題について、より開明的で、政治問題を抜きにした議論が起こることを願う。悪しき事態はまだ制御可能な状況にあり、方向性を逆転させることも可能だとラフィットは力説する。しかしながら、もし対策が打たれなければ、本書で示唆される隠な陰鬱なシナリオが遅かれ速かれ起きる可能性は十分にある。

ケリー・ブラウンはシドニー大学は中国研究センター所長、中国政治の専門家にしてヨーロッパ−中国研究助言ネットワークチームのリーダー。近著は「胡錦濤:中国の静かなる支配者」。その他の著作についてはwww.kerry-brown.co.ukを参照。


(翻訳:嘉村)