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ダライ・ラマ法王 観音菩薩の灌頂伝授会 初日

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2020年5月29日
インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ
法王公邸で、観音菩薩の灌頂伝授に必要な準備の儀式を執り行われるダライ・ラマ法王。2020年5月29日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)
本日、ダライ・ラマ法王は、ネット中継による観音菩薩の灌頂伝授会を行うにあたり、法王付きの助手の僧侶たちの補佐を得て、前行修法(準備の儀式)の式次第を静かに始められた。法王の右側にはマンダラが納められた厨子、背後には千手千眼観音像が安置され、さらに今回は、法王が世界各地のラマや友人たちの様子が見られるようにと、法王の前のビデオカメラの両側には二つの大型モニターが設置された。

灌頂授与の準備が整うと、法王は次のように説明された。
「関心を寄せる多くの方々が、この時期に観音菩薩の灌頂を授与してほしいと要望されたので、ネット中継を介してオンライン灌頂を実施することにしました。昨年、私がネット中継という方法で灌頂を授与した際も、チベット本土にいるチベット人たちも視聴することができたと聞きました。また、私がブッダガヤで始め、南インドのムンゴッドで伝授を終えた “文殊を巡る一連の法” も、その前行として金剛怖畏(ヤマーンタカ)独尊の灌頂を伝授し、視聴者の皆さんはインターネットを介して灌頂を授かることができました」

「このようなネット中継という方法であっても、皆さんが灌頂を授かりたいという明確な意思を持ち、私が灌頂を授けようという固い意志を持つ限り、灌頂を授かることは可能だと私は確信しています。観音菩薩は慈悲の顕現であられる菩薩です。観音菩薩に祈願し、観音菩薩に心を集中して修行に励むなら、慈悲の心を高めていくことができます。観音菩薩は悟りを目的とした智慧と、有情に対して起こす慈悲の心を顕現されているのです」

 

観音菩薩の灌頂伝授会で、前行修法の始めに、今日行われているネット中継について説明されるダライ・ラマ法王。2020年5月29日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「この世界には70億の人間がいますが、そのすべての人々が幸せを望み、苦しみを得たくないと望んでいる点において、皆同じ立場にあります。しかし、テレビ等では、人種差別に関する報道や、他者を殺すことに喜びを見出しているかのように見える人々のニュースを見聞きします。最近でも米国ミネアポリスで黒人男性が白人警官に暴行され死亡するという人種差別があらわになった事件がありました。また、宗教間の諍いも時にして報道されています」

「科学者たちは、人間の本質は思いやりの心であると断言していますが、思いやりの心に頼って生きているのは、人間だけでなく虫けらでも同じです。喜びや苦しみの感情を経験するすべての生きとし生けるものは、愛と慈悲の心がなければ生きていけません。人間が慈悲の心を持って互いに役目を果たし、助け合うならば、私たちは皆、幸せになりますが、怒りや嫉妬などの煩悩に支配されてしまうと、私たちは惨めな状態に陥ってしまいます」

ここで法王は、ご自身に課された4つの使命について説明された。そして、第1の使命は人々が幸せになるための手助けをすることであるとされ、温かく思いやりを持った人は幸せになれるが、常に怒りや嫉妬に支配されていれば幸せにはなれないと繰り返された。それゆえに、法王は愛と慈悲の心と菩提心を高めていくよう人々に奨励されるのである。法王は、愛と慈悲の心は、すべての人々、すべての生きとし生けるものに役立つものだと語られた。

「物質的な発展と近代教育の結果として、人々は外面的な物質に幸せを求める一方で、内面の心の持ちようを軽視する傾向にあります。しかし、心をかき乱す怒りや執着などの悪しき感情を克服しない限り、本当の幸せを得ることはできないのです。思いやりの心を育むことに対して、知的発達はあまり関係がありません。私たち人間に優しさと思いやりの心が溢れていれば、他者を助けるとともに自分自身をも助けることになるのです」

法王公邸で2日間にわたって行われた観音菩薩の灌頂伝授会の情景。2020年5月29日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

法王は、観音菩薩の灌頂を授与する真の理由は、慈悲の心をますます高めていくべきことを奨励したいからだと語られた。

続いて法王は他の宗教について言及され、次のように話された。
「どのような宗教であっても、愛と慈悲の心、忍耐、自制心といった良き資質を高めていくことを信徒たちに求めているという点はすべての宗教に共通しているのですから、異なる宗教間の調和と敬意は自ずと生まれてくるはずです。しかし、愛と慈悲を説きながら、他者との対立を煽るという矛盾した状態も見受けられます。そういった状態をなくすために、私は異なる宗教間の調和を図ることが私の第2の使命であると考えています。様々な土着の宗教を生み出したインドでは、世界の他の地域で生じた宗教も含め、宗教を信じるすべての人々が調和して平和裡に共存しており、異なる宗教間の調和が可能であることを示しています」

「次に、私はひとりのチベット人です。チベット人たちは私を信頼し、私に希望を託しています。ある時、私はアッサムで風雨の中を小さな飛行機に乗っており、身の危険を感じたとき、“もし私が死んでしまったら6、7百万人ものチベット人はどうなってしまうのか” と考えました。彼らは敬意を持って私に希望を託しているので、私には彼らのためにできる限りのことをする責任があるのです」

 

法王公邸で2日間にわたって行われた観音菩薩の灌頂伝授会の初日、世界各地から参加したラマや友人たちの様子を大型モニターを通してご覧になるダライ・ラマ法王。2020年5月29日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「チベット人は祖国を失い、その多くが難民として生きざるを得ませんでした。しかし、私たちチベット人とってインドの地で亡命生活を送るということは “災い転じて福となす” といわれる諺のようなものでした。私たちは、釈尊が生きて教えを説かれ、ナーガールジュナ(龍樹)とその弟子たちがそれに続いたこの聖地インドで、亡命生活を送っています。インドは私たちのすべての知識の源です。また、インドは民主主義を唱えている国でもあります。この地で、私はインド初代首相の故パンディット・ネルー氏との知己を得て、その後も多くのインドの指導者の方々と友人になることができました」

「今、私の前に置かれた大型モニターにガンデン僧院座主のロブサン・テンジン・リンポチェが映っていますが、この亡命の地において、南インドに再建された僧院で暮らす方々も多くおられます。すべての僧侶、尼僧の皆さんはナーランダー僧院の伝統を守り伝える役目を担っています。科学者たちとの対話や意見交換の場では、私たちの知識をもって世界に貢献することができました。皆さん自身の学びと修行を通して、チベットの文化や人々に対してのみならず、人類に対して皆さんは貢献しているのです」

「シャーンタラクシタ(寂護)がチベットにナーランダー僧院の伝統をもたらされてから、千年以上の年月にわたって、私たちはこのかけがえのない文化遺産を守り継承してきました。宗教に関心のない人々にとってもこの伝統が持つ知識は有益なものです。私たちが初めて亡命の地に来たとき、私たちの伝統宗教を “ラマ教” と呼ぶ人々もいました。(法王の前に置かれた大型モニターの画面に向かって手を振られながら)そこにおられるロバート・A・F・サーマン氏とアレキサンダー・ベルズィン氏がそのことをよく知っています。“ラマ教” という呼び方は、ラマとその帽子だけが重要であるかのような間違った見方でした。しかし現在では、私たちの維持してきた伝統が、古代インドの伝統に深く根差したナーランダー僧院の伝統であることが広く知られています」

法王公邸から世界各地の聴衆に向けたネット中継のなかで、観音菩薩の灌頂伝授会のため、前行修法の式次第を読誦されるダライ・ラマ法王。2020年5月29日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「インドの現代教育では、内なる智慧を軽視し、物質的な向上を図ることに焦点を当てる傾向がありますが、最近では古代インドの智慧と、その中で説かれている心と感情の働きを理解することへの関心が高まってきています」

「現在の世界には慈悲の心が何よりも必要とされているため、慈悲の顕現である観音菩薩の灌頂を授与しようと思います」

法王は実際の灌頂授与に先立って、弟子の動機を正し、弟子が本尊に生起するなどの儀軌次第を始められた。法王は、普通まず始めに、儀式に障りをもたらす魔の力を遠ざけるため、トルマ(チベット人の主食のツァンパとバターで作った儀式用の菓子)を供養するのが慣習となっているが、私はすでにこの式次第には従わないことにしている、と述べられた。何故ならば、私が毎朝唱えている発菩提心の偈には、「最勝なる菩提心を生起したならば、一切有情を私の客人として〔招待いたします〕」と述べられているので、魔の力を退散させることはこの偈と矛盾することに気がついたため、この次第は行わず、邪悪なものはその日の後で退散させると述べられた。

続いて、法王の前に設置した大型モニターに映し出されたガンデン僧院座主がマンダラ供養と仏陀の身・口・意の象徴を法王に捧げた。

「歴史的に考えてみれば、私たちチベット人は観音菩薩と深いご縁がある民族であることがわかります。古代チベットの仏教王ソンツェン・ガンポやティソン・デツェンの時代から、チベットには非常に偉大なラマたちが出現され、観音菩薩とのご縁を深められて来ました。ですから観音菩薩はチベットの守護尊なのです」

観音菩薩の灌頂伝授会に先立つ前行修法のなかで、ネット中継を通して参加する世界各地の聴衆に向かって微笑まれるダライ・ラマ法王。2020年5月29日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「かつて偉大なるダライ・ラマ5世がリトリート(隠遁修行)に赴かれた時、三兄弟の観音菩薩と呼ばれる三つの像を持っていかれました。その中のワティ・サンポ、またの名をキーロン・ジョヲとして知られる像はゾンカル・チョーデ僧院の僧侶たちが大切にお世話をしていましたが、チベット騒乱を経て、僧侶たちはチベットからネパール、そして後にダラムサラの私の元へと、この仏像を担いで運んでくれたのです」

「後にゾンカル・チョーデ僧院が南インドに再建されたとき、私はこのワティ・サンポ像をその僧院へ移すべきか、それとも私の元に留めるべきかについての神託を仰ぎました。その結果、その像は私の傍に留まられることになったのです。私はこの仏像のお顔の表情が状況に応じて変わっていくことに気付きました。また、ある時、私は夢の中に現れたワティ・サンポに話しかけ、“あなたは空を直観で理解しておられますか?” とお尋ねすると、“理解している” と答えられたのです」

「私が千手千眼観音菩薩の灌頂を授与する際、最も大切なことは、純粋な動機を持って臨むことです」

法王は在家信者戒と菩薩戒を授けられてから、聴衆に向かって灌頂の様々な観想方法を示された。前行修法の終わりに、法王は「明日は実際の灌頂を授与します」と述べられた。また、ロバート・サーマン博士から観音菩薩の獅子の声の許可灌頂を授けてほしいとの要望を受けたので、明日はそれも授与する意向であると述べられた。