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ダライ・ラマを中傷する仏教徒を世界的に支援する中国

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2015年12月21日
記者名:デビッド・ラグ、ポール・ムーニー、ベンジャミン・カン・リム

ドルジェ・シュクデン運動は、中国共産党から秘密裏に支援を得ている。チベットの精神的指導者の信頼を失墜させようとするその合同の活動は、特にイギリスで効果をあげている。

イングランド、アルダーショット:6月29日、イギリス全土から数千人の仏教徒がロンドン南西部にあるアルダーショット・サッカースタジアムに集結し、夏の太陽の下でダライ・ラマを一目見ようと静かに待っていた。入口のすぐ外では、別の仏教徒団体が、チベットの精神的指導者を待っていた。

「偽のダライ・ラマ、嘘をつくのをやめろ!偽のダライ・ラマ、嘘をつくのをやめろ!」彼らはドラムのリズムにあわせてメガホンで繰り返し唱える。ダライ・ラマの言葉は、そうした騒ぎの音でかき消され、断片しか聞こえない。

「中国はこの状況に歓喜しているはずです」ダライ・ラマの話を聞こうとマンチェスターから訪れた英国人チベット仏教徒ゲイリー・ビーズリー氏は語った。「中国は大歓迎でしょうね」

このアルダーショットでのデモは、一連のデモのひとつだ。騒々しい抗議者たちは、世界中を飛び回るノーベル平和賞受賞者ダライ・ラマがどこへ行こうが追いかけ、中国共産党が悪意に満ちた言葉でダライ・ラマを言及するように、抗議者たちもダライ・ラマを非難している。

表面上、この騒動はチベット仏教で何世紀にもわたって続く不可解な分裂から生じているように見える。しかし、ロイターの調査によると、抗議の背後にあるこの宗派は中国共産党の支援を受けていることがわかった。ダライ・ラマは中国人数百万人より支持され、チベットの中国からの離脱を企てていると中国政府から非難されている政治的亡命者であるが、そのダライ・ラマへの支持を低下させようとする中国政府の長期にわたる運動の道具として、この宗派が現れたのだ。

抗議者たちはドルジェ・シュクデンを崇拝する宗派のメンバーだ。ドルジェ・シュクデンとは、その信者たちの護法尊である。ダライ・ラマは、その信者たちにドルジェ・シュクデンは怨霊であるとし崇拝を禁止した。そのためシュクデン崇拝者たちは、チベットの精神的指導者ダライ・ラマが信仰を迫害したと非難している。

この衝突はかつて、インドの辺境の地チベット高原と亡命チベット人たちの寺院や僧院のみで起こっていた。しかし今では、北米、ヨーロッパ、オーストラリアの路上やスタジアムにまでその舞台を拡大している。

チベットや他国の抗議者たちは、デモが国際シュクデンコミュニティと呼ばれる統括団体が組織するものだと話す。このコミュニティはアメリカではカリフォルニア州に慈善団体として登録された団体だ。このグループのメンバーは、自分たちは純粋に宗教の自由のために戦っていると主張し、そのデモへの中国の関与を否定している。

「ドルジェ・シュクデンと中国共産党との関係はまったくない」抗議活動に頻繁に現れる、香港を拠点とする国際シュクデンコミュニティのスポークスマンであるニコラス・ピッツは話す。

しかし、漏洩された共産党の内部文書からは、中国がこの紛争に介入していることがわかる。共産党内で発行された部内文書に、シュクデン問題は「ダライ派との闘争における重要な前線である」と書かれている。

インドとネパールを拠点としていた僧侶でありシュクデン運動の元メンバーであるラマ・ツェタは、自分も含めてシュクデン崇拝者たちが国外の崇拝者たちの活動を計画し調整する活動に対し中国より資金提供を受けたことをロイターに語った。共産党の強力な政治特殊作戦部隊である統一戦線部の幹部たちがこの活動を管理し資金を配分しているという。その幹部たちは、シュクデン派の精神的指導者である、中国や、インドや欧米の亡命チベット人たちのシュクデン派の高僧たちを通じて抗議活動を指揮しているというのだ。

「中国がシュクデン派を利用する目的は、ダライ・ラマを偽者であるように見せること、中国の目的を達成すること、チベット仏教を弱体化させること、チベット社会を分断することだ」とツェタはインタビューで語った。

目撃者の証言や中国の国営メディアの報道、ドルジェ・シュクデンのウェブサイトの投稿によると、シュクデン派の高僧たちは、ダライ・ラマへの支持を分断しようとする中国政府の活動における中国の愛国者として公式な場で名誉ゲストとして扱われている。

その高僧たちに従う国外に暮らすチベット人たちの中核グループがデモの先頭に立っている。彼らは世界中をダライ・ラマを非難して渡っている。中国政府の行事に出席し、北京の大使館や領事館で中国の外交官と接触する者もいる。しかし、彼らは中国が抗議行動に何らかの役割を担っていることは否定する。純粋に宗教の自由のためにデモ活動を展開し、自ら資金を調達していると主張する。

「深刻な潜在的脅威」

しかし、抗議者たちの大半はピッツのような外国人であり、ほとんどが西洋人だ。ラマ・ツェタは、中国当局がシュクデン派高僧たちに外国人にデモ参加を指示したと語る。ロイターは、抗議に対する直接的な中国の資金提供の独自の証拠は持っていない。しかし、あるインド内務省高官は、インド当局はシュクデン派が中国から資金を受けていることを認識していると述べた。

「彼らはネパール経由で中国から資金を得ているので注目している」と、インドの国内治安機関である情報局の活動を監督するこの当局者は、匿名を条件に語った。

ダライ・ラマの「宗教的な専制政治」

この記事についてロイターに対する中国政府の反応:
「中国の憲法は、国民には信仰の自由があると定めている。中央政府とチベット自治区政府は、国民の信仰の自由の権利を尊重している。チベットでは、すべての宗教と宗派が同等の尊重と保護を受けており、通常の宗教活動と信仰は法律によって保護されている。

民主改革の後、チベットは神権制度を廃止し、封建制度によって損なわれたものを捨て去り、信仰の自由の真の姿を回復し、異宗教間、異宗派間の真の信仰の自由と宗教的寛容を獲得した。

ドルジェ・シュクデンは、チベット仏教のいくつかの宗派によって歴史的に崇拝されてきた護法尊であり、特別な宗教的慣習、礼拝の形式、および降霊会が受け継がれている。ダライ・ラマ第5世の時代に始まり、歴代ダライ・ラマとパンチェン・ラマは歴史的にドルジェ・シュクデンを崇拝してきた。護法尊ドルジェ・シュクデンを信仰するかしないかは、信者の自由であり個人的な問題である。

ダライ・ラマ第14世は近年、暴力的なテロ活動を含むあらゆる手段を利用して、特定の人々に信仰を放棄させ、国際的なチベット仏教徒社会およびに特定の宗教団体に強い不満を引き起こしている。信者の信仰を迫害するこうした活動は、ダライ・ラマ第14世の行う偽善と宗教的な専制政治という真の顔を露呈するものである」

中国外務省

シュクデン派への中国共産党の支援に関するロイターからの質問に対し、中国外務省は、ダライ・ラマが「宗教的な専制」を実践していると述べた。

「ダライ・ラマ第14世は近年、特定の人々に信仰を放棄させるために暴力的なテロ手法を含むあらゆる手段を利用した」と同省は述べた。

インドのダラムサラにあるダライ・ラマ事務所は、ダライ・ラマは南インドでの法話会で忙しく、この記事の質問に答えることができないと述べた。

抗議活動がダライ・ラマの名声をどれほど損なうかは不明だが、シュクデン派の抗議者たちは一定の影響を及ぼしている。ダライ・ラマが米国、ヨーロッパ、オーストラリアに訪問するときの報道には、最近では毎回、シュクデン派の広報担当者による、ダライ・ラマはチベットを代表して語る権利のない宗教的偏執者であるという主張が伴う。ロイターがレビューした文書によると、シュクデン派の抗議は非常に激しくなり、米国、インド、その他の情報機関からダライ・ラマはその身の安全に対する深刻な潜在的脅威があると警告されている。

この分析が掲載されているのは、今年のダライ・ラマのイギリスへの二度の渡航に先立ち、在イギリスのダライ・ラマ公式代表部であるチベット・オフィスのために用意された18ページの文書だ。イギリス外務省に提供されたこの文書は、米国、オランダ、スイスの政府がダライ・ラマの最近の訪問中にセキュリティを強化したことも報告されている。この文書はセキュリティの脅威に中国政府が関与していると主張するものではない。

アメリカの元当局者は、国務省の外交安全局がドルジェ・シュクデン派グループを認識しており、注意が必要だったと述べた。

「これにはシュクデン崇拝者たちの強い思いがあり、中国はこのシュクデン崇拝を、チベット人を分裂させる手段として育ててきました」と、2007年から2009年までアジアとチベットに関する国務省上級顧問であるケリー・カリー氏は語った。カリー氏はチベット人の人権擁護団体であるチベットのための国際キャンペーンで活動した経験がある。

国務省のスポークスマンは、ダライ・ラマが米国への訪問中に国務省が保護したが、その詳細についてはコメントを控えた。

中国がダライ・ラマを無力化しようとする動きは、中国に対する諸外国からの批判を鎮め、世界を中国と同じ見解に導くための体系的な、そして世界でひそかに行われる活動の一部である。

ロイターの今年の調査は、中国が看板役を利用して秘密の国際ラジオネットワークで親中国政府のニュースを放送していることを明らかにした。2番目の記事では、中国がNGOになりすました政府支援グループを利用して国連人権理事会で中国に対する批判者を威圧していることを報告している。

チベットの精神的指導者ダライ・ラマの場合、中国政府は反ダライ・ラマ活動のために仏教団体を選択しただけではない。中国の経済的および外交的影響力を西側諸政府に対して駆使して、チベットの名声を陥れた。

西洋の政府でも沈黙を守るものもある。世界的指導者の中では英国の首相デイビッド・キャメロン、元オーストラリア首相のトニー・アボット、ノルウェーの首相エルナ・ソルベルグが、過去1年半の間にダライ・ラマとの会談をしない選択している。

アボットとソルバーグは、ロイターからの質問に回答しなかった。

ロンドンでの尾行

中国政府の戦略はイギリスで特に効果を発揮している。イギリスは他の西側政府とは異なり、ダライ・ラマの訪問中の護衛をしない。ダライ・ラマの今年の2回の訪問に先立ち、ダライ・ラマ側の担当者はダライ・ラマの安全に対する懸念から18ページにわたる文書で公式に保護を要求した。

訪問の担当者によると、キャメロン政府はその要請を拒否した。

ダライ・ラマの2回目の訪問が終わって出国しようとする途中、抗議者たちはロンドンの路上でダライ・ラマを追った。

ダライ・ラマが9月21日にロンドン中心部のホテルを発つとき、側近のメンバーたちは車列を尾行しているような車を見たという。ロンドンのチベット事務所の第一秘書であるワンデュ・ツェリンは、ダライ・ラマの車に続く車の一台に乗っていた。「急に現れて赤信号を走り去った車に気付きました」と彼は言う。「その時点から、その車が私たちを追いかけているのではないかと疑っていました」

ツェリンは、ダライ・ラマの警備チームが警察を呼んだという。10分以内にパトカーが追跡した車を止めたところ、チベットの警備チームが車内の2人のうちの1人がシュクデンの抗議者であると確認したという。「私たちは彼が何者か知っています」とツェリン語った。

ロンドン警察の広報担当者は、この事件の記録はないと述べた。

政府がダライ・ラマの警護を拒否した理由を求められると、キャメロンの与党保守党の親チベット議員であるティム・ロートンは、「私はわからないが、中国への媚びを売っているのだろう」と述べた。

イギリス内務省は、セキュリティ問題についてコメントしていないと述べた。

「ダライ・ラマは重要な宗教的人物だと考えており、彼は多くの場合イギリスで歓迎されています」と、キャメロンの事務所はロイターからの質問に答えて語った。「我々は、中国政府に人権問題を提起する姿勢を一貫して保っています」

9月のダライ・ラマのイギリス訪問の1か月後、キャメロンは中国の習近平国家主席の訪英にレッドカーペットを敷いた。イギリス政府によると、イギリスはその訪問中に中国と約400億ポンド(600億ドル)の契約を締結したという。

3つの目と剣

50年以上前、ダライ・ラマは中国の支配に対して蜂起して失敗に終わった後、インドに亡命した。今日、80歳になったこの宗教指導者は、中国国内で600万人以上のチベット人に強力な影響力を保持している。ダライ・ラマはチベット人のためのより高度な自治のメッセージを伝えようと世界中を訪問している。

中国政府はダライ・ラマがチベットを中国から分裂させようとしていると非難している。そして今、無神論者である共産党は、ドルジェ・シュクデン崇拝に役割を託した。ドルジェ・シュクデンとは、剣を振りかざしてライオンにまたがった怒れる3つ目の人物として寺院や僧院に描かれている霊である。

中国の究極の目標は、広大で資源が豊富であり戦略的に重要とする地域にその権威を定着させることだ。2009年初頭以来、140人以上のチベット人が焼身抗議を行っている。

ダライ・ラマの有力な支持者には、ダライ・ラマの世界的な地位は何も変わらないという者もいる。ダライ・ラマは今も大衆を惹きつける。2月には、バラク・オバマ大統領とダライ・ラマがワシントンでの祈りの朝食に出席し、大統領はチベット人を「良き友人」と言及した。

「それは残念なことですが、彼らがしていることは高貴なものではありません」と、ワシントンに拠点を置く親ダライ・ラマのチベット国際キャンペーン会長リチャード・ギア氏は語った。「子供っぽい批判です。中国が法王を非難する方法と同じです」

シュクデン崇拝に関する中国政府の戦略は、紛争の対処方法に関するチベット本土の共産党当局者のためのガイドラインを定めた共産党内部文書に記載されている。チベット自治区の共産党委員会によって昨年2月20日に発行されたこの文書は、今年、チベット国際キャンペーンが入手している。

当局はシュクデン崇拝をめぐる紛争を公表することを避けるべきであるが、ダライ・ラマ側は分裂を口実に使って祖国を分裂させ、不和をまき散らしていることを認識すべきである、共産党はこのプロットを決定的に破壊しなければならない、と文書は続けている。

中国当局は、尊敬をあつめ愛国心の強い宗教指導者たちに地方を訪問させ、ダライ・ラマによるシュクデン礼拝の禁止は非難すべきであると文書で述べた。そして、中国の問題をめぐって混乱を引き起こそうとしたシュクデンに対するダライ・ラマの見解の支持者たちは、シュクデン崇拝者たちを「法律に従って厳しく罰せられなければならない」と主張している。

「この文書で、中国政府がシュクデン問題を支持している証拠であるとは言えない」と香港を拠点とする国際シュクデンコミュニティのニコラス・ピッツは述べた。彼は、シュクデン問題を使用して「公の集会と騒動」を引き起こした者は信者であるか否かによらず誰に対しても罰するという当局の文書の箇所を示した。

ラマ・ツェタの主張

文書をレビューしたコロンビア大学のロバート・バーネットとインディアナ大学のエリオット・スパーリングの二人のチベット仏教の権威は、それが本物だと確信していると述べた。

「これはシュクデンではなく、政治の話です」とシュクデンの元メンバーであるツェタ氏は語った。

42歳のツェタ氏は、以前はシュクデン派の上級メンバーの一人であり、1997年から2006年に中国当局者への対応の責任者だったという。彼は2008年に運動を辞めた。中国政府の統一戦線の部局はインドと欧米のシュクデン運動を通じてダライ・ラマを弱体化させようとするものだと語る。

統一戦線は、国内外の有力な非共産主義者からの党への支援を求める強力な機関だ。紛争を研究する他のチベット僧侶や学者たちは、統一戦線がチベット支配を強化する中国の活動における主要機関として認識している。

ツェタ氏によると、近年のシュクデン派の反ダライ・ラマ運動を指揮している統一戦線の鍵となる人物の一人にジュー・ウェイグン氏がいる。

元当局者であるジュー氏(68)は、ツェタ氏がシュクデン運動に従事していたときに、統一戦線の副代表を務めた。現在は中国の議会に対し民族宗教問題の助言を行う起案の責任者だ。ジュー氏はチベット問題を扱う政府の一人者として公式メディアで頻繁に取り上げられており、スピーチやインタビューのなかでダライ・ラマを嘲笑している。ジュー氏は州知事に相当する地位にある。ロイターのインタビューの要請には応じなかった。

ツェタ氏は、他のシュクデン派の僧侶たちとともにこれまで何度もネパールや、チベットを含む中国を訪問し、ジュー氏や他の中国当局者と会ったと語った。ロイターとのインタビューで、ツェタ氏は中国のパスポートを提示した。15回にわたる中国への入国スタンプが押されている。ツェタ氏が最後にチベットを訪れたのは2006年だという。

ジュー氏はダライ・ラマを中傷する一方で、別のチベット僧侶であるラマ・ガンチェンを中国メディアで賞賛している。ツェタ氏や西洋のチベット仏教学者によると、ミラノに本拠を置くガンチェン氏は、中国以外で最も影響力のあるシュクデン派の指導者である。ツェタ氏はロイターにガンチェン氏と自分の写真を見せた。

「ガンチェンはシュクデン運動の指導者だ」とフランスのチベット仏教学者であり、ウェブサイトTibetInfoNetのディレクターであるティエリー・ドディンはいう。「彼は共産党と中国当局に最も献身的な人物だ」

ツェタ氏は、ガンチェン氏が1997年にインドのシュクデン派指導者と中国当局者の間で最初の会議を開催したと述べた。

VIP扱いの僧侶

ラマ・ガンチェンの個人のウェブサイトであるラマ・ガンチェン平和出版によると、ガンチェンは1941年に生まれ、1963年にインドに亡命する前は僧院の大学で学んだ。その後ヨーロッパに移り、イタリア市民になった。

ガンチェンは中国に定期的に訪問してトップリーダーと会い、政府の認可を受けた宗教的な集会に出席している。中国の国営メディアは、10月に無錫市で開催されたフォーラムに他の仏教の権威者たちと到着する写真を公開した。インディアナ大学のスパーリングとチベットの学者であるロンドンのウェストミンスター大学のディビエシュ・アナンドは、中国の政府や統一戦線でガンチェンがVIPとして扱われているのを見たと語る。

ガンチェンの広報担当者は、ガンチェンは本記事のインタビューには応じないと述べた。「ラマ・ガンチェンはシュクデン運動に役割はありません。シュクデン派の献身的な僧侶にすぎません」

ツェタは、シュクデン運動における自身の役割について不安を抱き始め、2006年までには中国からの疑念が高まったと述べた。彼はチベットの首都ラサで25日間拘留されたが、自分が献身的なシュクデン派の僧侶であると当局を説得し、釈放された。ロイターは、ツェタの拘束について独自の確認ができていない。

2006年後半の米国への旅行で、彼は亡命を申請した。ツェタは、2007年に政治亡命を認められたことを示す文書をロイターに見せた。彼は、ダライ・ラマに対する抗議がチベット人を分裂させているので、今はシュクデン運動における自身の役割について話しているのだと述べた。

抗議の報道、写真、テレビのニュース映像、オンラインビデオの投稿、シュクデンの広報資料から、ロイターはオーストラリア、イギリス、アメリカ、ヨーロッパでのデモに関与する主要なチベット人を特定することができた。

ソナム・リンチェン氏は最も目立つ人物の一人だ。マサチューセッツ州サウスディアフィールドに住む石工のリンチェン氏(53)は、抗議活動を率いるグループである国際シュクデンコミュニティのチベット人のスポークスマンだ。

彼は電話のインタビューに応じ、最近ではダライ・ラマがボストンを訪れていた2012年に自宅でダライ・ラマに対するセキュリティの脅威について連邦捜査局のエージェントから2度の質問を受けたそうだ。「彼らは、中国人によって雇われた人物がダライ・ラマを殺害する意思があるか知りたかった」と語った。これらは、亡命チベット政府である中央チベット政権がシュクデン抗議活動者たちを中傷するためにFBIに訴えたばかげた主張だとリンチェン氏は述べた。

FBIはコメントを控えた。

「費用負担が大きい」

中国はデモンストレーションに関与していない、とリンチェン氏は言った。リンチェン氏は米国に30年近く住んでいる。「中国は喜んでいると思うが、中国を喜ばせるために抗議しているのではない」と彼は言った。「宗教の自由を取り戻すことが目的です」

今年、リンチェン氏はダライ・ラマの9月の訪問中に英国での抗議に参加した。彼は、デモ参加者たちは自身の航空運賃とホテル代を自分で負担したが、国際シュクデンコミュニティは現地の交通費と食費を負担した。

「経費の部分は難しい問題です」と彼は言う。「とてもお金がかかります」

だが、誰もがそうではない。2014年12月、国際シュクデンコミュニティのウェブサイトに掲載された通知によると、ダライ・ラマがイタリアの首都でノーベル賞受賞者の会議に出席するとき、国際シュクデンコミュニティがマンチェスターからローマへの40名分の無料往復航空券を提供した。抗議者のための食事と宿泊も提供される。

企業記録によれば、国際シュクデンコミュニティは2014年にカリフォルニアで慈善団体として設立されている。2014年の提出書類には27,471ドルの資産と69,235ドルの収入が記載されていた。

一般の抗議者の大半は、新カダンパ仏教(NKT)を信仰する西洋人だ。メンバーは、グループが抗議活動に関与していないと主張する。信者の数は明らかにしていないが、元メンバーの推測によると世界中に約6,000人いるという。

NKTのリーダーおよび創設者は、1977年に英国に移住したチベット人僧侶であるケルサン・ギャツオだ。登録された英国慈善信託であるNKTは、40か国に1,200のセンターと支部を有する。英国の慈善委員会のファイリングによると、2014年末の会計帳簿には2180万ポンドの資産がある。

ネガティブな報道

英国のNKTの元メンバーであるキャロル・マクワイアは、抗議者の多くは中国政府をよく知らない代理人であると述べた。「無知な西洋人が抗議を無料で行うことに、中国は非常に喜んでいるはずだ」と、マクワイヤ氏は言う。自身は9年前に幻滅して運動を去っている。

抗議は注目を集めている。ダライ・ラマの2015年の米国ツアーでは、多くのメディア(ロイターを含む)がデモ参加者とその不満をカバーするレポートを掲載した。シドニーのモーニングヘラルドとメルボルンのTheAgeは、6月の12日間のオーストラリア訪問中に、NKTメンバーでもある国際シュクデンコミュニティのピッツの意見を発表した。

「彼は何十年もチベット人の政治指導者でしたが、世界の他のほぼすべての政治指導者とは異なり、彼が言うことと自分の行動が一致するかどうかを説明したり確認したりする人は誰もいません」とピッツは記している。

ダライ・ラマの9月の英国訪問で、BBCとITVは騒々しいシュクデン抗議者の中でのピッツの関与を取り上げ、両方がピッツにインタビューした。

ダライ・ラマの支持者と批判者の両方をカバーするITVのレポートは、抗議がチベットの精神的指導者ダライ・ラマのイメージを損なうかを伝えた。「ここ西側では、ダライ・ラマが非常に人気のある尊敬される人物として描かれているのを見るのに慣れています」と記者のマシュー・ハドソンは言う。「しかし、このデモンストレーションと私が両側から聞いた強い敵意は、地政学的および宗教的な問題が複雑な世界では、批判は免れられません」

北京はこの変化を大歓迎している。3月の中国の年次総会のときに、宗教関係を担当するZhu Weiqunは、国際メディアに「ダライ・ラマにあまり関心がなくなっている」と述べた。

それでも、人気があり権威があるダライ・ラマがシュクデン神を否定したことで、シュクデン崇拝者がチベット本土や亡命先でも激減したとチベット学者は言う。

チベットのシュクデン信者の中には、ダライ・ラマの支持者からの差別により、チベットおよび海外に追放され、不満をもつ者もいる。仕事を失い、商店でサービスを受けられず、精神的に弾圧された暮らしを余儀なくされたと主張する。

一部のダライ・ラマ支持者は、差別の事例があったことを認めている。しかし、彼らはそれが体系的ではなく、ダライ・ラマが奨励するものではないと言う。

目を引くビルボード

1996年にシュクデン派の抗議行動が始まったとき、彼らは控えめで、時には敬意を示していた。今では非常に辛辣になった。訪問先の各地で、シュクデンの抗議者は待ち伏せている。

過去2年間で、抗議者たちはダライ・ラマの警戒線を突破し、本人と対面した。英国政府に提供されたセキュリティ報告書によると、昨年5月、シュクデン崇拝者たちはダライ・ラマがオランダで滞在していたホテルにチェックインしようとしたが、ホテルの警備スタッフが彼らを追い出した、と行事主催者は語った。

7月9日から2日間のニューヨーク訪問の数日前に、「ニセのダライ・ラマはうそをやめろ」と書かれた巨大な看板が、ダライ・ラマの講演会場予定地から2ブロック先に掲示された。隣接する看板には、ドルジェ・シュクデン神が描かれていた。

ダライ・ラマの支持者たちによると、アメリカ在住のチベット人が広告会社に抗議し、7月8日に両方とも取り外された。同会社は、掲示板の代金を誰が支払ったかの回答を拒否した。

ダライ・ラマは、マンハッタンの広大なジェイコブK.ジャビッツ・コンベンションセンターの満席の会場で講演会を行った。約100人の抗議者が通りの向こう側に集まった。軍用ブーツをはいたダライ・ラマの似顔絵を掲げた。イラストの彼の目は怒り、手は拳を握り、無力なシュクデン僧侶たちの山の上に立っているというものだ。

同じポスターが6月にアルダーショットのサッカースタジアムの外に展示された。シュクデン派抗議者たちがダライ・ラマの40分間の演説をかき消した場所だ。

チベットの有毒な宗教的分裂の政治

デビッド・ラグ、ポール・ムーニー、ベンジャミン・カン・リム

香港:中国共産党がダライ・ラマを失墜させるために利用している教義的分裂は、ダライ・ラマ自身のチベット仏教の宗派内に内在する政治のなかでずいぶん以前に起こったものだ。

歴代ダライ・ラマは、チベットの4つの主要な仏教の伝統の1つであり多数を占めるゲルク派に受け継がれたものだ。

フランスのチベット学者ティエリー・ドディンによると、17世紀にダライ・ラマ第5世がチベットを統合したとき、他の宗派を受け入れて政治的統一を強化することを試みた。

この動きは、権力と特権の共有に反対したゲルク派の他の高僧たちを怒らせた。彼らは、当時はあまり知られていない「守護神」だったドルジェ・シュクデンの崇拝をめぐって学派内のグループを結成した。

何世紀にもわたって、シュクデン崇拝者たちは、ゲルク派とチベットの宗教政治を支配するようになった。1949年に中国共産党が政権を握った後、シュクデン崇拝者たちは、インドとネパールの亡命チベット人コミュニティに影響力を持つようになった。最初は、特に文化大革命の間にチベットの僧院や文化遺物が破壊された後、彼らは中国政府に対して敵対的だった。

それが現在のダライ・ラマ14世の代で変化した。ダライ・ラマ14世もシュクデン崇拝者の高僧の下で教育を受けていた。しかし、1970年代半ばから、より包括的な教義を形成し始めた。ドディンや他のチベット学者によると、これは一部には、中国政府からの圧力にあってチベット仏教のさまざまな伝統を統一することを目的とした政治的な動きだった。

そうした模索の時期に、ダライ・ラマは、シュクデン崇拝は有害ではないかと疑問を呈し始めた。1996年、ダライ・ラマはその信者たちにシュクデン崇拝を避けるように助言した。それ以来、シュクデン運動が徐々に中国政府側に向かっていったと学者たちは見ている。この動きは過去10年間で加速した。

中国はシュクデン戦略に対する明白な公の言及を注意深く避けている。しかし、中国政府がシュクデン崇拝者を支持している証拠は多く存在する。

中国当局は、チベット自治区および周辺地域のシュクデン派の僧院の再建と維持に資金を投入した。国営メディアの報道によると、中国政府が雲南省のガンデン・ソンツェリン僧院と、インドとチベットの国境近くにあるトンガ僧院での大規模な修復に資金を提供したという。

「現存のシュグデン崇拝者たちを維持するために共産党から多くの支援を受ける大規模な運動がある」と、ウェブサイトTibetInfoNetのディレクターであるドディン氏はいう。「他の僧院が貧しいという意味ではないが、貧しいシュクデン僧院は存在しない」

人権団体および亡命チベット人たちによると、ダライ・ラマの教えを公然と守る仏教徒は中国当局による迫害に遭っている。シュクデン崇拝を止めさせようとすることは今や犯罪であるというのだ。

中国政府はまた、シュクデン派僧侶たちが外国にわたって仏教徒や亡命チベット人に布教することや共に学ぶことも許可している。

シュクデン派に関するニュースや解説を掲載しているウェブサイトの1つである dorjeshugden.com によると、2012年12月、中国政府はラマ・ジャンパ・ンゴドゥプ・ワンチュク・リンポチェのスイス訪問のスポンサーになった。政府が布教のために外国に派遣した初めてのチベットのラマである。

「彼を公式に普及者に指名して国外に派遣することは、中国政府が仏教、中国の古代遺産、ドルジェ・シュクデン派の布教を公然と奨励していることを意味する」とウェブサイトの記事は述べた。

中国政府の好みが明確に表れているものがもう一つある。チベット仏教でダライ・ラマの次の位であるパンチェン・ラマを教育する中国の試みの中心となっているのがシュクデン派の高僧たちだ。

1995年、ダライ・ラマはパンチェン・ラマ第10世の生まれ変わりとして、6歳のチベット人の少年ゲンドゥン・チューキ・ニマを認定した。ところが少年とその家族はすぐに姿を消した。中国当局者は、少年は保護拘留中であると述べた。ダライ・ラマの認定を回避するため、中国政府は別のチベット人の少年ギャルツェン・ノルブをパンチェン・ラマに認定した。ダライ・ラマの支援者たちやチベット仏教専門家たちによると、パンチェン・ラマはダライ・ラマの転生の認定において重要な役割を担うため、中国がチベット仏教をコントロールする計画のなかで重要な戦略だったのだ。

チベット仏教専門家たちによると、中国が選んだパンチェン・ラマの教育を担当する上級教師の多くはシュクデン崇拝者たちだ。国外で最も影響力のあるシュクデン派僧侶であるラマ・ガンチェンも、このパンチェン・ラマと一緒にいるところを写真に撮られている。

6月に習近平国家主席は、北京で共産党が認定したパンチェン・ラマに会った。パンチェン・ラマは習氏に「祖国とその人々の団結を断固として支持する」と述べたことを国営テレビが報じた。

中国当局者たちは無神論者の立場を脇に置いて、次期ダライ・ラマの選出を吟味すると主張している。

これは、チベットおよび国境地域の600万人以上のチベット民族の将来の精神的指導者が共産党に忠実な人物であることを確実にする計画の一部だ。これを受けて、ダライ・ラマは、次は中国国外で転生するかもしれない、あるいはおそらく全く転生しないかもしれないと述べている。

その考えに、ダライ・ラマを無力化しようとする中国の計画の要人であるジュー・ウェイグン氏は激怒した。国営新華社通信での3月11日の報道によると、「ダライ・ラマの生まれ変わりは、中央政府が認定した者でなければならない。ダライ・ラマ自身を含む他のいかなる人物もできない」と述べた。