中道のアプローチ(UMAYLAM)― チベット民族の真の自治

よくある質問

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  1. 中道のアプローチとは何ですか?
  2. なぜ自治を求めるのですか?
  3. チベットの真の自治とはどのような形になりますか?
  4. 中道のアプローチはチベット人から広く支持されていますか?チベット人はそれをどのように表現していますか?
  5. チベット内部のチベット人は中道のアプローチへの支持をどのように表明しましたか?
  6. 中道のアプローチは文化的な自治だけを提唱しているのですか?
  7. チベット民族の真の自治のもとでは、チベット自治区や近隣のチベット人居住区で暮らす非チベット人の将来はどうなるのですか?
  8. チベット民族の真の自治はチベットの環境保護に有益なものになりますか?
  9. 中央チベット政権が中道のアプローチを進める理由と、これまで達成したことは何ですか?
  10. チベット人は中国政府の訴えのような「大チベット」や「高度な自治」を求めているのですか?
  11. チベット民族の真の自治を求める中道のアプローチは、中国の憲法と矛盾していますか?

1. 中道のアプローチとは何ですか?

チベット民族の真の自治(チベット語「Umaylam」)のための中道のアプローチは、ダライ・ラマ法王が提唱された政策です。1967年、1968年以降、ダライ・ラマ法王は、世界的に起こっている状況、特に中国での状況を考慮し、当時の意思決定機関と多岐に亘る協議を行われました。その結果、中国政府との対話に臨み、チベット独自の文化と民族意識を守るための平和的手段として、チベットにとって意義のある自治を確保する政策提唱され、1974年に内部決議に至りました。この政策は中央チベット政権とチベット人民により何十年にもわたる議論を経て民主的に採択されたものです。双方にとって有益な政策であり、中国政府によるチベット人民に対する現状の抑圧的な植民地政策を明確に拒絶しながら中国からの分離を求めない、現状と独立の中道を求めるものです。

このアプローチは、チベット側にとってはチベット民族の民族意識と尊厳の保護と保全、中国側にとっては主権と領土保全という、双方が重要とする利益を保護する実用的な政策です。これにより、1979年にダライ・ラマ法王の特使団と中国政府の接触が実現し、亡命政権の調査団が4回にわたってチベットを広範囲に視察でき、1982年と1984年に予備会議が行われました。2002年から2010年にかけて、ダライ・ラマ法王特使団と中国指導部代表団の正式な協議9回と非公式会議1回が行われました。

2. なぜ自治を求めるのですか?

チベット指導部は、真の自治こそがチベットと中国の双方にとって現実的で有益な解決策であると考えているからです。今日の相互依存の世界では、他国に依存せず孤立して成り立つ国は存在しません。多くの国は現在、欧州連合(EU)などの連合に参加して、個々の主権の一部を放棄しています。

3. チベットの真の自治とはどのような形になりますか?

チベット民族が求めているのは、チベット民族の基本的な必要事項を満たすことができる自己統治の形であり、中国の統一と安定性を脅かすものではありません。チベット民族は、チベット民族の習慣、同じ価値観、言語、生活様式、土地を共有する自治権を求めています。これらを一つの単位として管理することで、チベット民族がチベット自治区とその近隣の人口の大多数を中国人が占める青海省、四川省、甘粛省、雲南省に分かれる現状の構造よりもより効率的かつ効果的な形になります。

中国当局は、チベット指導部の意図はチベット地域からすべての中国人を排除することであると主張しています。実際には、チベット民族の真の自治に関する草案には、これが事実ではないことが明記されています。「我々の目的は、チベット人以外を排除することではない。我々の懸念は、主に漢族をはじめ、他の民族のチベットの多くの地域への大規模な移住により、地元のチベット人が少数派となることである」草案ではチベットの地域はチベット独自の民族意識を守り振興するためにチベット人が多数になることを求めています。中国におけるチベット人の人口は620万人とされています(第6回中国国勢調査より)。これは中国全体の人口の0.47%にあたります。

チベットの地方行政は、次のチベット人の11項目の基本的な要求事項の保護と振興を管理することになります。言語、文化、宗教、教育、環境保護、天然資源の活用、経済発展と商取引、公衆衛生、治安、移民および諸外国との文化、教育、宗教的交流の規制です。

これは、中国の区域民族自治に関する法律ならびに憲法の両方を遵守するものです。

4. 中道のアプローチはチベット人から広く支持されていますか?チベット人はそれをどのように表現していますか?

中道のアプローチは、1988年から2010年の間に開催された一連の会議や世論調査の過半数の承認の結果に基づいて、中央チベット政権が採択した公式な政策です。チベットの国民を代表する代議員に直接問いかける民主的なプロセスを通して決定されたものです。さらに1995年、1996年に実施された世論調査では、寄せられた全ての意見の64%が民族全体の投票の必要がないことと、ダライ・ラマ法王が提唱される政策を全面的に支持するという結果になりました。チベット亡命政権は1997年9月18日に中道のアプローチを是認する満場一致の決議を採択しました。また同様に、2008年11月に6日間にわたって行われた第1回特別総会で寄せられた意見の80%以上が中道のアプローチを支持しました。最後に2010年3月には議会決議としてこの政策は満場一致の支持を得ました。こうして中道のアプローチはチベット人民の圧倒的大半の支持を得ています。

5. チベット内部のチベット人は中道のアプローチへの支持をどのように表明しましたか?

公然とチベット内の意見を収集することは不可能ですが、ダライ・ラマ法王と中央チベット政権は、意思決定プロセスでチベット内のチベット人の意見を取り入れるためにあらゆる可能な努力をしました。例えば、チベットから到着したばかりのチベット人たちを1988年6月の特別政策会議に招待しました。同様に、チベット内からの意見は1995年から1996年の世論調査で集めました。チベット内のチベット人から収集した書面や口頭の提案は2008年11月の第1回特別総会に提出されました。これらの意見の大半は中道のアプローチを支持していました。

また、中道のアプローチは最高位のチベットの指導者たちやチベット内の有識者にも支持されてきました。故パンチェン・ラマは公に中道のアプローチへの支持を表明し、故ンガポ・ンガワン・ジメ氏、ババ・プンツォク・ワンギャル氏、ドルジェ・ツェテン氏、サンギェ・イェシ氏(ティアン・バオ氏)、タシ・ツェリン氏、ヤングリン・ドルジェ氏も同様に支持しました。

6. 中道のアプローチは文化的な自治だけを提唱しているのですか?

いいえ、中道のアプローチは、自己統治を提唱しています。それは文化的な自治に限定されるものではありません。チベット民族の真の自治に関する草案では、「チベット民族の基本的な要求事項」の項目で、中国内でのチベット民族のための単一自治が適用する11種類の分野を記しています。

「チベット人の基本的な要求事項」は、以下のとおりです。

    1. 言語
    2. 文化
    3. 宗教
    4. 教育
    5. 環境保護
    6. 天然資源域の利用
    7. 経済発展と商取引
    8. 公衆衛生
    9. 治安保全
    10. 移民制限の条令の制定
    11. 諸外国との文化、教育、宗教の交流

7. チベット民族の真の自治のもとでは、チベット自治区や近隣のチベット人居住区で暮らす非チベット人の将来はどうなるのですか?

チベット民族の真の自治に関する草案の覚書に、次のように述べられています。「チベットに永住、または長期にわたってチベットで暮らし育った非チベット人を追放しようとする意図はない。」 チベット人が懸念しているのは、主には漢民族ですが、他の民族がチベット民族の多くの地域に大規模な移民が誘導されていることです。これによりもともとのチベット民族が追いやられ、チベットの脆弱な環境が脅かされています。移民制限の提案は中国の憲法と地方自治に関する法律の43条に次のように述べられています。「法律の定めに従い、自治体の統治機構は移民を制御する施策を打ち出すものとする。」

8. チベット民族の真の自治はチベットの環境保護に有益なものになりますか?

脆弱な生態系を持つチベットには、アジアの大河の主要な水源があります。今日、チベットの伝統的な環境は、取り返しのつかない被害を受けています。「環境保護」と「天然資源の利用」は、チベット民族の真の自治に関する草案のチベット民族の基本的な要求事項の第5項目ならびに第6項目に挙げられています。急速な文化的同化、環境破壊、天然資源の過剰搾取は、中央チベット政権がチベット民族の真の自治を推し進める大きな理由です。中国による環境・開発政策は持続不可能であり、長期的な環境破壊を引き起こすという証拠が年々増加しています。インド、パキスタン、ミャンマー、ベトナム、カンボジア、ラオス、中国本土などに到達する河川系にダムを建設することもその一部で、世界の人口のほぼ半分に影響を与えることになります。

9. 中央チベット政権が中道のアプローチを進める理由と、これまで達成したことは何ですか?

中道のアプローチは、チベットに暮らすチベット民族との接触や、中国指導部との複数回の対話など、多様な達成を遂げています。これは主に、チベット問題が国際社会からだけでなく、中国人からも圧倒的な支持を得続けているからです。

中道のアプローチにより、1979年にチベット指導部と中国政府との直接的な接触が実現しました。これが亡命チベット人による4回の調査団派遣につながり、チベット内を広範囲に調査できました。調査団は、ウー・ツァンのラサ、シガツェ、ローカ、コンポ・ニントリ、サキャ、ルツェ、ツォナ、ツェサン、ギャンツェ、チョコーギャル、サンガチョーリン、ヤルトク・ナカルツェ、アムドのカンホ、シリン、ゴロク、マルホ、ンガバ、ゾーゲ、カムのナグチュ、チャムド、デーゲ、カルゼ、ニャロン、ギャルタン、マーカムを訪問しました。1982年と1984年に、中国指導部が北京でダラムサラからの代表団と会談しました。 2002年から2010年にかけて、正式な協議9回と非公式会議1回がダライ・ラマ法王特使団と中国指導部の代表者との間で行われました。現在までに、何千人もの学生、僧侶、尼僧が亡命して勉学に励むことができ、チベットの文化や宗教の保護に貢献しています。

中道のアプローチにより、多くの国の政府が紛争解決をはかるチベットの政策を支持し、中国との対話の中で重大かつ緊急のチベット問題を提起しています。 2011年7月、オバマ大統領とダライ・ラマ法王の会談後、ホワイトハウスはダライ・ラマ法王の非暴力と中国との対話、中道のアプローチの提唱を称賛し、長期にわたる問題を解決するべく直接対話に臨むように関係者に指示しました。中道のアプローチは、チベット内の現在の状況に取り組む最も現実的な手段として国際的な力強い支持を得ています。米国、インド、英国、フランス、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドを含む多くの国の政府は、中道のアプローチへの支持を公式表明しています。過去2年間だけでも、中道のアプローチを支持する宣言、決議、動議が、米国、欧州連合、フランス、イタリア、日本、オーストラリア、ブラジル、ルクセンブルクを含む多くの議会でなされてきました。

中道のアプローチは、中国社会の有識者や芸術家たちからの支持も年々増えています。その中には、ダライ・ラマ法王の米和的なイニシアティブを支持する2008年の公開書簡の共同執筆者の一人であり、ノーベル賞受賞者である、投獄された劉暁波氏も含まれます。それ以来、中国人の学者や作家たちが書いたチベット問題の解決のために対話を支持する記事や意見書1000件以上が書かれています。北京に拠点を置く司法NGOの公盟法律研究中心による報告もそのひとつで、チベット人の不満や政策の見直しを求める声が記載されています。

2012年には、15カ国に拠点をおく82の中国のNGO団体は、国際連合、欧州連合、様々な議会や政府に対し、一日も早く交渉を開始するよう中国政府を促してほしいと嘆願書を送りました。中道のアプローチは、有名作家の王力雄(Wang Lixiong)氏、中国社会科学院の憲法の専門家である張房州(Zhang Boshu)氏、四川省定期文学誌の冉雲飛(Ran Yunfei)氏、共産党幹部で北京に拠点を置く法律の専門家である于浩成(Yu Haocheng)氏、中国社会科学院の元経済学者である蘇紹智(Su Shaozhi)氏、旧共産党書記趙紫陽(Zhao Ziyang)氏の側近の嚴家其(Yan Jiaqi)氏など、中国でも有数の有識者からも支持されています。

中道のアプローチを実行するために、世界の指導者たちは対話を呼びかけました。バラク・オバマ米大統領、ジョージ・ブッシュ元米大統領、ナビ・ピレイ国連人権高等弁務官、キャサリン・アシュトン欧州連合外務・安全保障政策上級代表、ゴードン・ブラウン元英国首相、ニコラ・サルコジ元仏大統領、アンゲラ・メルケル独首相、スティーブン・ハーパーカナダ首相、トニー・アボット現オーストラリア首相、ケビン・ラッド元オーストラリア首相、馬英九中華民国総統などです。2011年7月16日にバラク・オバマ大統領がダライ・ラマ法王と面会した後、ホワイトハウスはダライ・ラマ法王の非暴力と中国との対話を求める姿勢、中道のアプローチを大いに称賛し、中国とチベット人たちにとって前向きな結果となるとして、長期化する問題の解決をはかる直接対話を促しました。

中道のアプローチは、大勢のノーベル平和賞受賞者からの支持を得ています。南アフリカのデズモンド・ツツ大司教、米国のエリー・ヴィーゼル氏、ジョディ・ウィリアムズ氏、リベリアのレイマ・ボウィ氏、ポーランドのレフ・ワレサ氏、イランのシーリーン・エバーディー氏、グアテマラのリゴベルタ・メンチュウタム氏、東ティモールのジョゼ・ラモスホルタ氏、アルゼンチンのアドルフォ・ペレス・エスキベル氏、アイルランドのメイリード・コリガン・マグワイア氏、英国のベティ・ウィリアムズ氏などです。

2012年にノーベル平和受賞者12名からなるグループが中国の胡錦涛国家主席へ発した公開書簡の中で、次のように記しています。「チベット人民はその声が届くことを望んでいます。彼らは長期にわたって意義のある自治を求めてきました。その手段として交渉と支援者たちの協力を選んだのです。中国政府は彼らの声に耳を傾け、その訴えを理解し、非暴力的な解決策を見つける必要があります。その解決策として、分離主義を提唱した事実のない、私たちの友人であり兄弟であるダライ・ラマ法王が平和的な道を選択してこられました。法王が差し伸べる意義のある対話の糸口を掴むよう、中国政府に求めます。一旦この道が開かれれば、それを開き続け、活発に生産的な対話を持つべきです。その対話により、チベット民族の尊厳と中国の統一を尊重しながら、緊張の高まる現在の問題の解決に取り組むべきです。」

10. チベット人は中国政府の訴えのような「大チベット」や「高度な自治」を求めているのですか?

真の自治を追求する私たちの目的は、中国政府だけでなく国際社会にも書面で明らかにしてきました。チベット民族の真の自治に関する草案とその覚書は公有のものです。中国政府の主張の真偽を誰でも確認することができます。中央チベット政権は中道のアプローチに取り組んでいますが、これは「大チベット」や「高度な自治」を求めるものではなく、単一行政の下でのすべてのチベット人の真の自治です。これは民族地域自治法ならびに中華人民共和国憲法の両方に合致するものです。

中華人民共和国は、意図的に「大チベット」という文言を利用して国際社会にチベット民族がチベット地域の分離を求めているとの誤解を扇動してきました。中央チベット政権は「大チベット」という文言を使用していません。ウー・ツァン、カム、アムドの伝統的な3つの州はチベット高原全体を覆う伝統的なチベットの大事な地域です。これらの地域では土地を同じくするだけでなく、文化、言語、宗教を共有しています。チベットを中国の複数の省に分割することは少数民族が集居する地域における区域自治の実施と自治機関を設置して自治権を行使する権利を認めた中国の法律や憲法第4条に明らかに違反するものです。中国内のウイグル人の99%は新疆ウイグル自治区に居住し、チワン族の95%は広西チワン族自治区に居住しています。一つの地域に暮らすチベット民族は複数の地域に分かれ、チベット自治区で居住するチベット民族は全体の50%以下、大半は自治州や自治郡として近隣の中国の省に組み込まれています。

チベットの土地は中国の4分の1を占めていますが、これは最近になって政治的に作られたものではなく、チベット人がチベット高原に何千年も暮らした自然な結果です。チベットが中国の4分の1を占める事実は中国政府が懸念すべきものではありません。中国の6分の1はすでに新疆ウイグル自治区、8分の1は内モンゴル自治区です。さらにすべてのチベット民族のための真の自治はチベットの地理的な現実の理に適うだけでなく、行政的な需要も満たすのです。そしてそのすべてがこの地域でチベット人が自らの問題に対処するという中国の法を施行することなのです。

同じ文化、同じ水準の経済発展、さらにはチベット高原の同じ環境を持つすべてのチベット民族が一つの行政単位の下に生活することは、チベット自治区と、住民の大半が中国人である青海省、四川省、甘粛省と雲南省の中国の4つの省に分けるよりも、統治には効率的、効果的になります。

同様に、中国政府はチベット人が「高度な自治」を求めているとする大規模なプロパガンダを展開しています。実際には私たちが中国政府に対して求めているのは中国の憲法に謳われている通りの地域の自治の法律を施行することです。これよりも高度な自治も低度な自治も、私たちは議論した事実はありません。

11. チベット民族の真の自治を求める中道のアプローチは、中国の憲法と矛盾していますか?

いいえ、中国の憲法と矛盾しません。単一行政下でのチベット民族の真の自治を求める中道のアプローチは、憲法第4条に含まれる原則に完全に従うもので、区域民族自治法(第2条)にも次のように記されています。「少数民族の集居している地域では、区域自治を実施し、自治機関を設置し、自治権を行使する」

民族自治地域に関する法律には地域の民族自治は「中国内の民族問題の解決のために中国共産党による基本的な政策である」と記載されており、その意味と意図は前文に次のように書かれています。

「少数民族は、統一された国家統治のもと、その集居している地域の区域自治を実施し、自治機関を設置して自治権を行使する。民族地域自治は国家の十分な尊重を受け、少数民族はその内政を管理する権限が保証され、全国諸民族の平等、統一、共同の繁栄の遵守原則に従う。」

したがって、これらの主張は根拠がありません。事実は、中国政府はその憲法に書かれた少数民族に与えられた権利を執行することも受け入れることも望んでいないということです。

中国政府は、チベットが真の自治を追求することが中国憲法に反すると確信しているならば、ただ申し立てをするのではなく、なぜ、どのように憲法に反するのかを説明できなければならないでしょう。

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亡命チベット人憲章

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