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「資源の大移動」 チベット鉄道とガス・パイプライン

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2001年3月23日
TINニュース速報

中国は、第10回5ヵ年計画のなかで、チベットと青海を結ぶ鉄道と、議論の的となっている新疆と上海を結ぶガス・パイプラインを、優先事項として取り扱っている。この鉄道とパイプラインは、中国政府の2001年度予算に組み込まれており、地方政府や個人投資に頼らず中央政府から直接の資金を受けることになっているという以前の報道が確かなものであることを証明した。英国のブリティッシュ・ペトロリアム社(British Petroleum)が少数株主の筆頭となっている中国の石油会社ペトロ・チャイナ(PetroChina)が、新疆のタリム盆地と上海を結ぶ天然ガス・パイプラインの建設にあたる予定である。5ヵ年計画期間(2001年〜2005年)の他の主要な計画としては、中国西部から東部への電気の送信、揚子江から黄河へ川の水を引くことなどがあげられるが、これらの川の源流は両方ともチベット高原にある。人民日報は、これらの大規模なインフラ計画は「勤勉かつ勇敢な中国国民の英雄的精神」の反映であり、「前例のない大規模な資源の移動」がおこるであろうと述べている。

ラサへ鉄道が通ることにより、チベット地区へ移動する中国人労働者や請負業者の数が大幅に増えることになると予想される。この計画の公表により、すでに相当な数の移民労働者たちが集まってきている。2月16日付けの人民日報によると、地方の労働者たちは、鉄道建設についての情報を聞き、仕事を見つけようと希望を持ち、チベット行きのチケットを買うために成都の長距離バスの駅で長蛇の列を作ったという。鉄道建設の実地調査活動は3月1日に開始され、10月に完了する予定であると新華社は伝えている。「ピーク時」には、1600名以上の調査員が、鉄道路線予定ルートで仕事をすることになる。

昨日(3月22日)の人民日報の記事に、鉄道建設における特殊な地理上の問題点について概略が述べられている。第一の問題点は、通過しなければならない土地の大部分が恒久的に凍結していることである。人民日報で「極寒地プロジェクトの著名な専門家」であると紹介されているウー・ツィワン(Wu Ziwang)によると、鉄道省は、「熱遮断層や、高さを上げた部分をより多く作る」などの方法によって、このような凍結した地面の上に鉄道を敷く方法を発見したということである。さらに困難を極めるのは高度の問題で、鉄道の5分の4以上は高度4千メートル以上の高さに建設され、通常の機関車はこのような高さでは、通常の出力全開時の60%しか出力できないと人民日報は伝えている。人民日報ではこの問題がどのように克服されるのかについては詳しく説明されていないが、機関車の専門家であるウー・シンミンによると、専門家たちは将来鉄道の電気化や、「補完的に、地域の豊富な太陽光や風力エネルギーを利用すること」を検討するだろうことを明らかにしている。

「国際鉄道ジャーナル」の記者はTINに、「この鉄道建設の技術的な問題を克服するのは困難を極めるが可能だろう」と語った。

高地環境での酸素不足と低気圧の問題の解決策についても、記事のなかで概説されている。中国の機関車専門家の一人は、専門家たちが現在、航空機のような気密性のある車両を使用することを検討していると述べている。また別の専門家たちは、青海・チベット間鉄道路線に、世界初の酸素供給設備をもち高山病専門医が乗車している列車が現れるだろうと予測している。

この鉄道建設の経済的・環境的コストについて、中国国内でも若干批判があがっている。CNN中国支局特派員は、「(鉄道建設の)短期的な経済効果は何百億人民元の投資に釣り合うものではない」とした広東省の新聞「サザン・ウィークエンド」の記事を紹介している。その記事はまた、建設工事により植生が一旦被った損害は回復するのが非常に難しいであろうと述べている。

さらに前述のCNN中国支局特派員は、ほとんどの中国の学識者や政府関係者は、鉄道についての懸念を表明していないといわれているが、これは江沢民首席と朱鎔基首相が鉄道成功について個人的関心を示したことによるものだと付け加えている。

チベット鉄道は、宗教信仰に何の脅威ももたらさないであろう

計画中の鉄道建設についての批判をかわすため、中国はすでに損害制限や情報管理の対策を講じている。中国日報によると、ラサ市長のロプサン・ギャルツェンは次のように語っている。

「鉄道は現代的概念や生活様式をチベットにもたらすだろう。しかしこれは人々の宗教信仰に何の脅威ももたらすものではない。発展した科学・技術・運輸システムをもっている欧米諸国でも、宗教は今もなお栄えているではないか」

しかし、中国当局はしばしばチベットの宗教信仰は発展の妨げになるものだという態度を示しており、仏教習慣は、しばしば政府系メディアで「遅れている」「迷信的」であると描かれている。少数民族の文化や宗教は、中国国家の対処すべき「問題」として見なされており、中国政府の官僚組織は長い間、「民族の特殊性」は経済の発展をもってして侵すことができると信じている。

鉄道によって起こりうる環境への影響については、ほとんどの公式発表で取り扱われている。中国政府環境保護事務局は、中国の専門家たちがプロジェクトの第一段階における環境への影響に関する報告書を発表し、地域環境への損害が最小限となるようにあらゆる努力が払われるだろうと述べている。同日の人民日報の記事では、「鉄道建設も含めたいかなる人類の活動も地球に根本的な影響を与えるであろう」、なぜなら凍結した地面は、強い太陽光や頻繁におこる高原の地殻変動による大気の温度変化に敏感だからである。また、鉄道路線は自然保護区の野生動物の移動ルートを「避けて」建設されることになるだろうと述べている。ただし、どの動物が対象であるか具体的には述べていない。

人民日報は、自然保護地区内の鉄道各所に動物用の沢山の橋や道が作られ、建設によってはがされた地面の表面部分は「だいたい修復される」だろうと伝えている。また前述の中国政府環境保護事務局は「珍種の極寒地域の植物」を保護するために建設現場を「厳しく制限する」と言っている。建設現場を限られた通路に制限するという同様の制限を中国は過去にも行ってきた。しかし、鉄道がもたらす移民の増加や資源の開拓が環境に与えうる影響については何も述べられていない。

アムド地方(現在は青海省と甘粛州に併合されている伝統的にチベット人が居住する地域)を広範囲にわたって旅行してきた西洋人環境保護主義者は、「鉄道路線そのものの環境に与える影響は、路線上にどのような開発があるか、どの程度殖民が行われるか、町が作られるか、これらがどの程度成長するかによって決まるだろう」と語っている。さらに、こう述べている。

「もし必要最低限のサービス設備のみのまっすぐな路線であれば、環境に与える影響は限られるだろう。しかし、路線上に現れる建物のひとつひとつがジャンタン(北方高原・中国語ではチャンタン)の環境にとって脅威となる恐れがある。鉄道による環境への最大の脅威は資源搾取である」

「鉄道は鉱石開発の経済を変える。現在、鉱石開発は、破砕された鉱床、永久凍結層、過酷な環境、市場からの距離などの諸要因によって制限されている。水や温度の制限があるために鉱床の近くに加工工場を建設することができず、工場は都市近郊になければならないのだ。それが鉄道建設により、鉱石は以前より簡単かつ安く輸送できるようになる。こういったことが起きるだろう」

中国政府環境保護事務局(前述)は、「チベット鉄道の第一段階は、ゴルムドからワンクンまでの138キロに渡るもので、この第一段階の建設計画の青写真は今年の6月までに出来上がるだろう」と語った(新華社今年3月)。当局筋の情報によると、鉄道は5〜6年ほどで完成し、第10回5ヵ年計画期間中(2001年〜2005年)中国政府は2百億元の資金を出すという。建設が一旦完了したら、鉄道はチベット自治区のシガツェやニンティへ延長され、さらには雲南省まで延長されるらしい。これにより、人口の移動、資源開発の可能性はさらに大きくなる。ラサから雲南省への路線は、当初チベット自治区へ提出された4つの鉄道案のうちの一つだが、青海路線よりもはるかに建設費がかかる。1997年の統計に基づくと合計630億元以上の投資が必要になるだろうし、2000年12月12日付けのチベット・デイリーによると建設に約十年を要するという。

第10回5ヵ年計画(2001年〜2005年) 4大主要プロジェクト

北京で終わったばかりの第9回中国全国人民大会の第4会期で、第10回5ヵ年計画(2001年〜2005年)の概要が述べられた。開発がこれから5年間の「主な課題」であると述べたうえで、5ヵ年計画は経済再建、改革の「原動力」、開放、科学・技術の発展に焦点をあてている。これから先五年間の主要な目標は、国内需要を満たすため自然資源の開発を強化すること、環境問題を処理すること、「優先プロジェクト」に焦点をあてて、中国西部地方の開発を「精力的に推し進める」ことである。他の改革計画によって、都市と地方間または地方間の労働力の移動が整然と行われるようになり、中国国内の人口移動の増加が可能になるだろう。

2001年の予算報告書では、鉄道、西部から東部へのガス・パイプライン、西部から東部への電気配信、北から南への引水計画は、5ヵ年計画の「主要」プロジェクトとして挙げられており、中央政府の予算に組み込まれている。今年、政府は、500億元の国債を発行し、中国西部のインフラや資源に関わるプロジェクトに充てることになる。これらのプロジェクトは、揚子江の三渓谷ダム計画などを含む中国政府の過去の「威信」プロジェクトに、概念と計画のうえで相似している。

青海・チベット間鉄道とは、現在の青海省の西寧・ゴルムド線をラサまで延長し、チベット自治区の首都を中国の鉄道ネットワークに連結させるものだ。ラサへの鉄道の完成により、チベット自治区の内外の物資の供給、自然資源開発、観光産業の発展が容易になるだろう。しかし、資金をそれ自体で賄うことは不可能であろうし、おそらく中央政府からの補助金を受け続けなければならないだろう。プロジェクトは純粋に経済的見地から見ると可能なものとは思いがたいが、「安定した」国内環境の実現や国家防衛には欠くことができないものと見なされている。ラサ市長のロプサン・ギャルツェンは、青海・チベット鉄道は、「異民族間の交流を深め、資源開発を助長し、中国西部地域の経済発展を強化し、国家の保安を強固なものにするだろう」と述べている。チベットに交通のインフラが無いことと「孤立した生活」によって「特に遅れた思考」が、チベットの経済が後進的な原因の一部になっていると人民日報は述べている。

五ヵ年計画のもうひとつの主要なプロジェクトは、新疆ウイグル自治区のタリム盆地から中国東海岸の上海市へ天然ガスを運ぶことである。これは、中国の「パイプライン輸送ネットワーク」開発計画の主要な構成要素として挙げられている。青海省の西寧から甘粛省の蘭州まで天然ガスを運ぶ第2パイプライン・プロジェクトは、このネットワークに連結されるかもしれない。しかし現在のところ第2プロジェクトは、西寧や蘭州地方の都市にガスを供給するのが目的だと理解されている。これらガス・パイプラインは両方とも国営の中国石油公社の子会社であるペトロ・チャイナによって建設されている。英国のBP社はペトロ・チャイナに5億8千ドルの投資をしており、英国の「フリーチベットキャンペーン」などの人権保護団体や環境保護団体は、チベットの資源問題は現地の人々との協議や開発の影響についての調査なしに中国政府によって利用されているとして、ペトロ・チャイナへの投資を止めるよう訴えている。

新疆・上海間のガス・パイプラインや、もうひとつの中国西部から東部に電気を配信するプロジェクトも5ヵ年計画に挙げられているが、これらは比較的裕福で発展した中国東部地域のエネルギー需要を満たすために設計されている。これらのプロジェクトは、資源の存在するチベットなどの西部地域の人々にはあまり恩恵がないように思われる。人民日報は、西から東へガスをパイプで運ぶプロジェクトと、電気を西から東へ運ぶプロジェクトが完成すれば、西部地方を「強力なエネルギー基地」とする一方、東部地方を「製造基地」とすることになると述べている。

4つ目の主要プロジェクトは揚子江の水を黄河へ導くプロジェクトである。このプロジェクトでは、下流、中流、上流流域の3つのルートが可能性として計画されている。上流でのプロジェクトはチベット高原にある二つの川の源流に近いところで水の流れを変える作業を要する。この計画が実行されるかどうかはまだ確認されていない。3つのルートの中では、上流のルートが最も実行が困難であるが、もしもこれが実行されれば、チベット高原の生態系に深刻な危険を与えることになるだろう。