四国・新居浜にて法話、講演

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穏やかな秋晴れの一日。法王は終日基本的な仏教の概念について熱心に語られた。午前中は般若心経についての法話が行われた。開演20分前、法王は力強い足取りでホールに入場された。会場のおよそ400名の人々と共に般若心経を唱えられた後、法王は般若心経の神髄を語り始めた。

法王はまず三つのレベルの苦しみ(三苦)について解説された。第一に最も解り易い感覚的な苦しみ(苦苦)。そして楽事が去ることによって生ずる苦しみ(壊苦)。最後は更なる苦しみをもたらす偏在する苦しみ(行苦)。行苦は生まれながらに私たちの中に備わっており、壊苦との識別が困難な場合もある。

「思いやりの心や愛、寛容を通じて苦しみを断つことはできない。智慧、つまり思い込みを断ち切る能力が必要だ」と法王はおっしゃった。仏陀が教えた苦を断つための実践方法は基本的に3つに別けられる。一つ目は道徳に関するもの。二つ目は瞑想に関するもの。そして三つ目は智慧に関するもの。般若心経はその三つ目に入る。法話を終えた法王はホテルの最上階で昼食をとられた。新居浜を囲む丘が見渡せる窓からは11月の明るい陽射しが差し込んでいた。

午後は同じ会場で空に関する講演が行われた。午後も数分早くお話を始められたダライ・ラマ法王は、間もなく話題を複雑な哲学的内容に掘り下げていかれた。他人を目の前にして、その人を敵と見るか味方と見るか、私たちはそういう『相対的事実』に囚われることがあるが、大切なのはそのものの本質に目を向けることだ、と法王はチベット語で説明された。「空というのは何もないこととは違う。私たちが『私』という時、その私はいったいどこにいるのだろう?『私は具合が悪い』とか『私は元気だ』とかいう時、私たちは一体どの『私』を指しているのだろう?」

同様に、私たちが花を見る時、私たちは花びらや根といったその一部分だけに目を向ける。仏陀の像を目の前にしても同じことだ。起きたばかりの意識がはっきりしている時を選んで『自我』と『意識』の違いを自分自身で観察してみなさい。空に関しては誰もが知りたいと思っているわけではないが、錯覚でしかない自我を取り除くのには大変役に立つ概念だ。そして空を理解すれば転生という流転からの離脱を目指すことも可能になる。

講演を終えられた法王はご自身の観察を極めるために、輝く夕日の中滞在先のホテルへとお帰りになった。

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