2003年12月 月刊大和路ならら(地域情報誌)より一部抜粋
興福寺でも東大寺でも、すぐに人垣ができた。
「だれが来てるの?」「ええっ。ダライ・ラマ!」とみんな少し興奮気味。ダライ・ラマ14世も「古い寺院に参拝できて幸せだ。われわれはみな同じ釈迦牟尼(釈尊)の弟子」と、始終笑顔で応え、参拝者らに自ら握手の手を差し伸べた。
東大寺参拝でダライ・ラマ14世は、「仏教の教えによって人々の幸せが実現されますように」と記帳し、全身を地につけて礼拝する五体投地を行って大仏に礼拝した。その後、大仏の周りを一周し、参拝客や修学旅行生らに「自分たちの宗教を大切にし、心を充実させてください。皆様の心がより深くなり幸せになること、多くの学生がより多くの勉強ができることを願っています」と呼びかけた。
座談会や講演の折には打って変わって厳しい顔をした。「いま話さなければならない」という表情だった。しかし、興福寺と東大寺の参拝を含め、ダライ・ラマ14世が政治的な発言をする場面は一切なかった。ひたすら口にしたのは「慈悲のこころ」と「対話の大切さ」である。
今回の訪問で政治的な発言がないのが不思議に感じられるだろう。しかし、ダライ・ラマ14世には「いま政治的な発言以上にしておかなくてはならない発言がある」という使命感があるのは確かである。
深く考えれば亡命したチベット人について思いを馳せていることだろう。彼らの多くは、日本人と同じように西欧ナイズした生活を送りつつあり、思考パターンも西欧ナイズした生活を送りつつあり、思考パターンも西欧化の度を速めている。現在、世界中に約13万4千人の亡命チベット人が暮らしている。その数も年々増加の一途をたどっているという。
チベット仏教の教えである「慈悲のこころ」と「対話」によってひょっとすると国のありかたさえも変えられる可能性があるのだ。くわしくは奈良での講演内容などを参考にしてほしい。北里研究所の漢方医・櫻井氏はDNA(遺伝子)の研究の結果「サムシング・グレート」の存在を認めざるを得ないという結論に達して、「祈りとDNAの変化」の研究に取り組んでいる筑波大学の村上和雄名誉教授と共同研究している。
ダライ・ラマ14世の訴える「慈悲のこころ」「対話の大切さ」、さらに使命感には科学的な裏打ちがあるのである。
我々の遺伝子の働き自体を変えることのできる貴重な提言なのだ。遺伝子の働きを変えることによって、非暴力の世界をたぐり寄せることができるというわけである。
ダライ・ラマ14世の訪日には、私たちひとりひとりがぜひとも考えてみなければならない深い意義があるのである。