2025年8月19日
米国務省が発表した2024年版「国別人権報告書」は、チベットの人権状況について厳しい見通しを示した。報告書は、強制失踪、恣意的拘束、宗教の自由の制限、さらには国外に暮らすチベット人への越境弾圧に至るまで、広範な人権侵害が横行していると指摘している。2025年8月13日に公表された同報告書は、全体的な状況として「前年から大きな改善は見られなかった」と結論づけた。信頼できる証言によれば、拷問や尊厳を傷つける扱い、検閲、表現・宗教・集会の自由に対する深刻な制限が確認されているという。中国政府は加害者の責任追及に向けた実効的な措置を講じなかったと報告書は明記している。
表現の自由の抑圧
報告書は、特にチベット文化や宗教的アイデンティティの表現に関して、言論が厳しく統制されている現状を強調した。ダライ・ラマ法王やパンチェン・ラマ、チベット語教育をめぐる中国政府の同化政策に批判的な言動をとったチベット人は、嫌がらせや監視、拘束の対象となっている。例えば、26歳のチベット人僧侶は、郡当局を批判する内容が含まれたとされる投稿に「いいね」を押しただけで、令状なく拘束された。その後、彼の所属する僧院では約100人の僧侶が10日間にわたる政治的「教育キャンペーン」に強制参加させられた。
さらに、中国当局は国内外のメディアへのアクセスを厳しく制限している。記者は特別な許可を得る必要があるが、許可は稀であり、許可を得た場合でも取材中に常時監視や威嚇を受けるとされる。チベット人作家やブロガーは、執筆活動が政治的に繊細と見なされれば、逮捕、職を失う危険、あるいは行政上の便宜を受けられなくなる可能性が高いと報告書は警告している。
チベット活動家と宗教実践者への弾圧
環境活動家ツォゴン・ツェリンは、中国の建設会社による違法採掘を公に告発したことを理由に、8か月の禁錮刑を言い渡された。報告書はまた、僧侶ロセルが拘束中に非人道的な拷問を受け、医療を受けられなかった結果、獄中で死亡した事例を記録している。中国当局はダライ・ラマ法王の肖像所持の禁止を一層強化し、オンライン上での宗教的表現にも制限を課した。祈祷会や宗教集会の開催も制限され、旅行者に対する監視も強まった。宗教指導者の写真を携帯したり、宗教に関する通信を行ったりした者は、取り調べの対象となった。
検閲と情報統制
報告書によれば、中国当局は引き続き、チベットにおける言論の自由を徹底的に制限し、メディア、教育、文化的表現を厳しく統制している。報告書は「政府は学校のカリキュラムや教科書、その他の教材を完全に掌握し、歴史的または政治的に繊細とされる学術書の出版も統制した」と記している。
ラジオ・フリー・アジア(RFA)は7月、当局がラサとシガツェの間を移動する旅行者を検問し、ダライ・ラマ法王の写真を所持していないか確認したほか、法王の誕生日には域外との通信を禁止したと報じた。報告書によれば、「チベット自治区(TAR)インターネット・情報局」はソーシャルメディアを厳格に監視し、当局はチベット地域においてRFAのチベット語・中国語放送や、ノルウェーに拠点を置く独立系ラジオ局「ヴォイス・オブ・チベット」の放送を妨害した。
さらに2023年、中国当局はチベット人の宗教的表現を一層制限した。新たに施行された規則により、僧侶や作家がオンライン上で宗教関連の情報を発信することは事実上禁止され、無許可での宗教活動や配信も認められなくなった。僧衣を着たチベット人は、検問所や空港を含む交通の要所で警察による厳しい監視を受けるようになった。
強制失踪、拉致、恣意的拘束
報告書は、中国当局がチベット人に対して強制失踪や恣意的拘束を続け、基本的人権を踏みにじっていると指摘した。チベット人権民主センター(The Tibetan Centre for Human Rights and Democracy, TCHRD)は過去4年間で63件の強制失踪を確認。しかし、報復を恐れて報告させない事例が多く、実数はさらに多い可能性が高いと警告している。注目された事例のひとつは、アムド地方のキルティ僧院の僧侶、ペマのケースである。ペマは2024年4月、ダライ・ラマ法王の肖像を掲げて単独抗議を行った後に逮捕されたが、当局は拘束を認めず、所在も明らかにしていない。同年9月には、キルティ僧院の僧侶2人を含む4人のチベット人が一切の情報が遮断された状態で拘束され、現在に至るまでその安否は確認されていない。さらに、中国当局は1995年に拉致されて以降、30年にわたり第11世パンチェン・ラマ、ゲンドゥン・チョーキ・ニマに関する信頼できる情報を一切公開していない。また、国連人権擁護者特別報告者および国連の専門家は、2013年から2018年にかけて逮捕されたアニャ・センドラやドルジェ・ダクタルら環境活動家9人について、裁判や判決の透明性、さらには法的支援や医療支援へのアクセスの欠如に強い懸念を示した。
チベット人への拷問と非人道的待遇
法律で禁止されているにもかかわらず、中国当局は拘束中や服役中のチベット人に対し、拷問や尊厳を傷つける扱い、強制労働を続けている。報告書は、長期にわたる独房監禁、食糧・睡眠・日光の剥奪、さらには強制的な再教育といった心理的虐待が行われていると指摘した。11月には「チベット・タイムズ」が、セラ・テクチェン・リン僧院の僧侶ロセルが、激しい暴行を受け、医療提供を拒まれた末に獄死したと報じた。釈放された元囚人の中には、過酷な拘禁環境によって永続的な障害や深刻な健康被害を抱えた者も少なくない。不法な殺害や過去の人権侵害に対して、当局が責任を問われることはほとんどなく、不処罰が蔓延している。
報告書によれば、中国当局はインドやネパールに住む約15万人を含む在外チベット人を標的に、広範な越境弾圧を展開している。嫌がらせや監視、強要が繰り返され、チベット人組織へのサイバー攻撃、中国領事館での家族情報の強制開示、本国に残る親族への威嚇などによって、海外での活動を封じ込めているという。
チベット人権民主センター(TCHRD)は、2022年半ばから2023年末にかけてこれらの手法が激化したと指摘。家族を分断させる圧力、在外チベット社会への潜入、偽情報の拡散などが確認された。当局はパスポートの発給を遅延・拒否し、すでに有効なものを没収するなどして移動の自由を制限。さらに海外で発言すれば家族に危害が及ぶと脅し、圧力を強めている。
強制労働と経済的搾取
報告書はまた、中国が「貧困削減」を名目に農村部のチベット人を労働プログラムへ移送している実態にも懸念を示した。2024年7月にヒューマン・ライツ・ファウンデーションが公表した調査は、特に鉱業分野における強制労働のリスクを指摘し、国際社会に広がる懸念を裏付けた。
結論
宗教や文化、言語を通じてアイデンティティを示しただけで、不当に逮捕・投獄される事例が増加するなど、チベットの人権状況は年々悪化している。こうした自由は国際人権法、さらには中国の憲法でも保障されているが、当局は同化政策の一環として体系的に否定している。新たな政策や指令は、チベット人の自己表現を事実上犯罪化し、存在そのものを処罰する口実となっている。
2024年版報告書は超法規的な殺害を記録し、不処罰と責任追及の欠如が続いていると指摘した。米国務省は最終的に、チベットの人権状況は依然として苛烈な抑圧下にあり、改善の兆しは見えないと結論づけた。
(翻訳:YK)