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ダライ・ラマ法王の73歳の誕生日によせて  チベット亡命政権外務省(情報・国際関係省)大臣ケサン・ヤンキ・タクラ女史の挨拶

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(2008年7月5日)

以下は、東京・ホテルオークラで行われたダライ・ラマ法王誕生パーティーの席上で述べられたチベット亡命政権外務大臣、ケサン・ヤンキ・タクラ女史による挨拶である。

この度はダライ・ラマ法王日本代表部事務所から法王の73歳誕生日祝賀パーティーへの招待を受け、こうして皆様にご挨拶させていただけますことを大変嬉しく思っております。ダライ・ラマ法王ご自身は誕生日を祝うことはございませんが、この場をお借りして心よりのお祝いを申し上げたいと思います。困難に直面する我々チベット人のそして世界中の人々の指導者として、これからもお元気でご活躍されますことをお祈りいたしております。

それと同時に、今晩私たちと共に偉大な世界的指導者の誕生日を祝うために貴重な時間を割いてお集まりくださった皆様方に深くお礼を申し上げます。今チベットは歴史上重要な局面を迎えておりますが、この時期に皆様が私たちを支援してくださることに改めて感謝の意を述べさせていただきたいと思います。日本の皆様が私たちを応援し、そしてダライ・ラマ法王を支持してくださることで、チベット人がどれだけ励まされてきたことでしょう。チベット問題が中国とチベット民族双方の納得のいくかたちで収束されるその日まで変わらぬサポートをお願い申し上げる次第です。

ダライ・ラマ法王はご自身の人生に三つの使命を課されました。その一つ目は普遍的、基本的な人間の本質にスポットライトをあてることです。これに関して法王は、「人間にとって宗教は絶対に必要なものではありません。人間になくてはならないもの、それは慈悲と思いやりの心です」と繰り返しおっしゃっておられます。「それが証拠に、生まれたばかりの赤ん坊には宗教は無用です。赤ん坊は100%母の愛を頼りに心も体も成長していくのです」、と説かれています。このように誰にでも備わっている人間の本質、慈悲と思いやりの心に注目することが世界平和と人類の幸福に多いに貢献すると法王は説いておられます。

法王の第二の使命は宗教間の相互理解と調和を図ることにあります。そのために、皆様もご存知のように法王は数々の国際宗教会議に出席されています。そこでは世界の主要な宗教の伝統について、共通点および相違点が探られ、あらゆる異なった宗教を理解し尊重することが試みられています。ダライ・ラマ法王は、人類の向上を求めて止まないという点において世界の主たる宗教の基本哲学は共通していると主張されています。

第三の使命はチベット問題に関わるものです。ダライ・ラマ法王に絶大なる尊敬と信頼、信仰を寄せるチベットの人々のために、法王は精神的支えとして出来る限りのことをなさるおつもりでいらっしゃいます。ダライ・ラマ法王はご自身を「チベット人のフリースポークスマン」とお呼びになり、苦境にある彼らのために、代弁者として常に発言してこられました。そのご姿勢と、チベットの独立を求めない中道のアプローチは中国の学識者や著作家を含む多くの人々の支持を得ています。

このように全人類のために日々努力しておられるダライ・ラマ法王は、世界的な評価を受け、1989年のノーベル平和賞をはじめ、アメリカ議会黄金勲章など数々の国際的な賞を受賞されてきました。

ダライ・ラマ法王をリーダーに私たち亡命チベット人は、全てのチベット人亡命者を支援する民主的共同体を作り上げてまいりました。ダラムサラをベースにする中央チベット政権(CTA)は、インド、ネパール、ブータンにあるチベット人社会に様々なサービスを提供しています。ダライ・ラマ法王のご指導のもと、確かな教育システムも整備することができました。これにより亡命チベット人の子どもたちがこれから先何世代にもわたってきちんとした教育を受けられるようになったのです。

現在文部省はインド、ネパール、およびブータンにある80校の学校を管理しています。そこでおよそ3万人の子どもたちが学んでいます。これは亡命中の就学児童・生徒数の70%に当たります。就学児童・生徒の15〜20%はチベット人学校以外の教育機関に通っています。

亡命チベット人社会にある80校の学校のうち、28校はインド政府が管轄する中央チベット学校管理局(CTSA)が直接管理運営するもので、16校はチベッ亡命行政府管轄のサンボータチベット学校管理局(STSA)が運営しています。

このほかに文部省の指導を受けながら独立して子どもたちの教育にあたっている団体に、ダラムサラにあるチベット子ども村(TCV) 、ムスーリーのチベット家庭基金(Tibetan Homes Foundation) およびネパールのスノー・ライオン基金(SLF)があります。チベット子ども村は17校でおよそ1万1千人の子どもたちを、チベット家庭基金は2校でおよそ2千人の子どもたちを、そしてスノー・ライオン基金は13校でおよそ3千人の子どもたちを教育しています。それに加えてチベット人コミュニティーが独自に運営している学校が、シュリーナガルとデリーに各1校、デヘラードゥーンに2校あります。

チベットの子どもたちの教育環境を整えるために、私たちは多くの方々から多大な協力を得てまいりました。日本からも様々な団体、そして個人の方々がチベットの子どもたちの教育と福祉のために財政的、物質的援助をしてくださっています。この機会をお借りして中央チベット政権を代表して皆様に心からお礼申し上げます。

亡命チベット人コミュニティーにおいて教育システムの確立と並んで成功を収めているのが、祖国チベットで組織的に破壊されてきた文化の再建・保存のプロジェクトです。チベットで破壊された僧院の多くが、ダライ・ラマ法王の指揮の下に再建されました。それに加えて新たな教育・文化施設も建設されました。亡命社会にあって私たちは、それらの施設を通じてチベット人以外の人々ともチベット文化をシェアできるまでに我々の文化を取り戻したのです。モンゴル、ロシア連邦のカルムイク共和国、ブリヤット共和国、トゥウ゛ァ共和国、ブータン、インドはラダックからアルナーチャル・プラデーシュ州まで、本当に多くの国から人々が訪れてチベットの言語・仏教・医学・タンカ絵などについて勉強をされています。チベット文化を保存し宗教的文化遺産を守るプロジェクトに対しても日本の皆様からは惜しみない援助をいただいています。チベット仏教やチベット語を学ぶためにインドにいらっしゃる日本人の数が年々増えていることも大変喜ばしいことです。

私たちチベット人は日本に対して大いなる敬服の念を抱いております。チベットと日本の親交の歴史は遠く遡り、ダライ・ラマ13世の御代にはチベット政府が日本の軍人を軍事顧問として迎え部隊の訓練を依頼しています。その他にも多くの日本人学識者や冒険家がチベットを訪れ言語や仏教を学んでいかれました。彼らが残した著述のお陰でチベットの歴史や文化は日本でも広く知られることになったのです。それ以来日本のチベットに対する理解はますます深まっています。

今年3月10日、平和的抗議行動がチベットで起きたことによって、チベットが今大変な危機的状況にあることが世界中の人々の知るところとなりました。更に中国政府がその抗議行動を徹底的に弾圧したことに対して世界各地で自然発生的に抗議活動が起こり、その結果中国には以前にも増して大きな圧力がかけられることになったのです。これに反応し中国政府はダライ・ラマ法王の代表と対話を再開する意向のあることを発表しました。その後5月4日、深センで、ダライ・ラマ法王の特使二人と中国側の代表との間に非公式な協議がもたれました。一日限りの協議ではありましたがチベットで起きた抗議活動を巡って意見が交換され、7回目の公式協議をできるだけ早期にもつべきであるとの提案がなされました。また、このミーティングでチベット側特使は、ダライ・ラマ法王が抗議活動に一切関与していなかったこと、原因はチベット内のチベット人が中国の政策に対して強い憤りを抱いてきたことにあると主張しました。ダライ・ラマ法王がチベット問題において非暴力な方法による平和的解決を訴えてきたことは世界中が知るところであり、中国側は法王を非難するべきではないと訴えました。

皆様もご存知のように、2002年から始まった法王特使と中国政府代表との対話はこれまでに6回開かれています。その中でチベットの代表は私たちが望んでいるものが「独立」ではないことを中国側に理解してもらえるようあらゆる努力をして参りました。私たちが望んでいるのは中華人民共和国の法のもとに全チベット人地域において「高度な自治」を実現させることです。それが実現できれば中国に外務と防衛を任せ、チベット民族は私たちのアイデンティティ、言語、文化、宗教、そして環境を守っていけると信じています。

チベット問題の早急な解決が求められるなか、第7回目の中国側との協議を控えて、私たちは世界各国の政府とともに中国側からより具体的な実りのある提案がなされることを期待しています。私たちは中国、チベット双方の納得いく解決策を見つけるべく、できる限りのことをしてきたのです。この協議を機に中国側も問題解決に向けて誠意を見せてくれるよう期待しようではありませんか。

チベット仏教は、インド北部のヒマラヤ山麓に位置するネパール、ブータン、内モンゴル、独立モンゴル、ロシア連邦の3つの共和国において信仰されています。中国にも数百万人のチベット仏教徒がおり、その数は増え続けています。つきましては、仏教は、昨今の物質社会に暮らす何百万人もの中国の人々に、こころのあたたかさをはじめとする人間本来の価値を伝えていく役割を担っていくのではないかと思っております。

科学的見地から見ましても、仏教はこころの平和を得るのに非常に役立つことがわかります。

環境:支援団体が、中国をはじめとするアジアを流れる大河の源流があるチベット高原の環境に目を向け、環境問題を喚起すべくあらたな努力をはじめたことは正しく適切なことです。飲み水の不足が深刻化している今、中国がチベットを流れている川になにをし、なにをしないか、という問題は、チベットの下流に暮らす何百万人もの人々のいのちに直接的な影響をおよぼします。

政治:中国とインドの関係を重視することは極めて重要です。しかし、現在の状況からするに、中国とインドが相互的な信頼のうえに友好関係を築くのは非常に困難であると思われます。すでに双方は根深い疑念を抱えています。もしチベットの問題が解決されるなら、さらなる進歩と友好につながる平和の道が、より安定的、永続的に開かれることになります。加えて、このふたつの大国のみならず隣接するほかの国々も多大な恩恵を得ることになり、結果的にアジアだけでなく世界の平和にもつながるのです。

ダライ・ラマ法王日本代表事務所は、チベット問題について皆様にご理解いただくために努力をして参りました。これまでの皆様からのご支援に重ねがさねお礼を申し上げるとともに、これからも引き続きサポートしてくださいますようお願いいたします。本日はお忙しい中お集まりいただきまして本当にありがとうございました。

チベット亡命政権外務大臣ケサン・ヤンキ・タクラ女史