2017年12月13日
インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ
2007年に中国政府が悪名高き国家宗教事務局令第5号「チベット仏教活仏転生管理弁法」を発表してから10年になる。この局令は、チベット仏教におけるすべての化身または輪廻転生者に対し、中国政府の承認を得なければ違法または無効と定めるものである。
中国政府は、こうした措置は中国がチベットの化身認定制度を運営管理することによって不正行為を抑制するためのものであるとして、これを正当化してきた。
無神論国家を名乗る中国が、“信ずべき活仏”のリストを国家宗教事務局のオフィシャルサイトで公開するという異例の措置を取ったのである。
当然ながら、こうした動きは宗教的信仰に干渉しているとして、チベット人から広く批判されてきた。チベット人は、これはチベット占領を合法化しようとする中国の新たな試みであり、チベット人をひとつの政治的実体としてまとめてきた接着剤ともいえるチベット仏教を取り込むためのものと見なしているのである。
チベット亡命政権情報・国際関係省(外務省)のソナム・ノルブ・ダクポ次官は次のように語る。
「政治的利益という目的のためにチベット人の宗教的信仰に介入するやり方は、中国政府が長年にわたり行なってきた政治ゲームのひとつです。文化大革命の時代には、中国は現代化の名の下にチベットの僧院や文化財を破壊し、僧侶や尼僧を還俗させて、チベット人を社会主義者のプロパガンダによって思想改造しようとしたのです」
「現在、中国政府は輪廻転生という千年以上にわたるチベットの伝統に介入することで、チベット人仏教徒の信仰心を操作し、チベットを支配しようとしています。チベットのダライ・ラマ制度を横取りし、これを政治道具とすることで、中国の最終目的である侵略の合法化を図ろうとしていることは明らかです」
「しかしながら、中国政府は輪廻転生が千年にわたってチベット人の生活に深く根差してきた伝統であることを理解すべきです。10年におよぶ中国の活仏転生管理政策も、千年にわたるチベットの伝統に取って代わることはできないのですから」
1951年以来、中国はチベットの宗教や文化に対して強引なやり方でチベットを支配してきた。この威圧的な試みが支持者の獲得に繋がることはほとんどなく、大半のチベット人の反感を買う結果となり、ときには蜂起を招いてきた。
こうしたアプローチが無益であることがわかると、中国政府はアメとムチのさまざまな政策によってチベット人の心をつかもうとしたが、すべて失敗に終わった。そして今、中国政府はダライ・ラマの影響力を用いなければチベット人を永遠に支配できないことに気づいており、それが、確実に次のダライ・ラマが中国に協力する戦略へと中国を駆り立てているのである。
言い換えれば、中国政府は、中国のさらなる政治的野望にきわめて親密に寄り添う次のダライ・ラマを迎えることができるように、ダライ・ラマ選びを支配したいのである。
しかしながら、いかなる努力と金銭をもってしても、中国の戦略は輪廻転生物語において滑稽に浮かび上がるにすぎず、中国はみずから嘲笑を招く原因を作ってきた。
チベット亡命政権の主席大臣としてチベット人の政治的トップを務めるロブサン・センゲ首相は、中国による干渉は次のローマ法王をキューバのフィデル・カストロ議長が指名するようなものだと例えている。
またセンゲ首相は、中国の政策の矛盾を指摘し、「中国は、ダライ・ラマ制度を前例のないほど重く受け止めて世界に知らしめてきたダライ・ラマ14世法王を拒絶している一方で、ダライ・ラマ制度という伝統遺産をハイジャックしようと躍起になっている」と述べている。
つまりこれが、中国の活仏転生管理政策によるチベット支配には「問題」と「不審」があると考えられている理由である。中国の活仏転生管理政策については、当初より国際社会からも同様の指摘がなされている。
(翻訳:小池美和)
【参考】中国政府高官をインタビューした記事2017年12月13日付 規制を通じ、中国政府は活仏転生者の認定に対する決定的な権利を持つ中国政府がチベットの活仏を認定する規制をつくってから10年がたつ。この度、新たに60人以上の活仏転生者が中国政府によって任命された。この規制により、宗派間および活仏転生者の候補者の家族間の争いや騙し合いを抑えることができている。 中国国家宗教事務局は、10年前、活仏転生者の管理を標準化するための規制を導入した。国家宗教事務局のサイトによると、この規制により、中国国民の宗教の自由は守られ、チベット仏教の秩序は保たれ、社会の調和も保たれているという。 規制では、活仏転生者の認定は、中国仏教協会などの指導の下で行われ、仏教の儀式、歴史的慣習を守らなければならないとされている。活仏転生者の認定をめぐり争いが起きた際は、国家宗教事務局に報告しなければならない。そして、活仏転生者は国家宗教事務局あるいは市レベルより上の役所から承認されなければならない。 tibet.cn によると、2016年時点で、中国国内で1,300人の活仏が認定されているという。 先月の中国通信社の報道によると、60人以上の活仏が新たに認定され、チベット自治区人民政府は16歳以下の7人の活仏に対する訓練と教育を終えたという。 「この10年間、規制に基づいて、すべての活仏が発見され、承認されました。これはチベット仏教徒の望みに沿ったものです。」 ダワ・ツェリンは、規制はチベット仏教の健全な発展を保証するもので、チベット仏教徒の基本的な要求を満たしていると語った。 宗教面の必要性は満たされている2016年、中国政府は活仏転生者の照会システムを開始した。透明性を高め、活仏転生者の認定に関する問題を抑えるためだ。新華社通信によると、このシステムは、国家宗教事務局、中国仏教協会、tibet.cn のサイトに掲載されており、認定された活仏転生者に関する詳細な情報(写真、法律上の氏名、所属僧院、宗派)が確認できる。 現在の規制は、1949年の中華人民共和国建国以来、初の規制だ。中国人民政治協商会議宗教事務委員会議長の朱维群は、この規制より、活仏転生者の管理が組織化され、中国政府は活仏転生者の認定問題に対する決定的な権利を持つことができていると述べた。 活仏転生者の認定は宗教的・政治的問題であり、チベットの社会・政治に影響を及ぼすもので、中国政府はこの問題に関し決定的な発言力を持たなければならないと朱は述べた。伝統的に、活仏転生者がこの世を去った場合、遺言、予言、あるいは、夢、占い、前兆、天体観測などの手掛かりをもとに、霊童探しが行われる。 時に、活仏の地位をめぐって多くの候補者が現れ、家族間の争いや騙し合いが起きることもある。 「この規制により、チベット仏教と中国国家の統一を脅かす活動を行う活仏の認定をダライ・ラマが行うのを防ぐことができます。異なる地域の複数の僧院が、自らの利益のために活仏を認定することがしばしばあります。活仏のふりをして、支持者を騙す人々もいます。」 (翻訳:亀田浩史) |