(2014年2月26日 CTA)

米国サンノゼ2014年2月24日:ダライ・ラマ法王は革新の発信地、シリコンバレーにあるイエズス会系大学で人道、公正、持続可能な世界を目指すサンタクララ大学(SCU)で一日を過ごされた。
法王がSCUの慈悲と道徳実践のマルクラセンターと、スタンフォード大学の利他主義の研究と教育センターのゲストとして招かれた日、カリフォルニアは晴天の朝を迎え、SCU代表のマイケル・エング牧師とCCARE代表のジェームス・ドッティ医師が法王を出迎えた。
ギュト僧侶による読誦の後、リービーセンターにてエング牧師のビジネス、道徳、慈悲についてのオープニングに続き、ドッティ医師が法王とディグニティヘルスのCEOであるロイド・ディーン氏を紹介した。ドッティ医師は法王が脳科学の先端に関わるのをよく思わない人もいるでしょうと続けた。ダイアローグの開始に先駆けて、リビングウィズダムスクール の子供たちが美しい歌声で3300人の観客を魅了した。
「兄弟姉妹の皆さん、今日この場に来られて心から嬉しく思います」と法王のオープニングが始まった。「私がいつもお話するのは、個人、家族、地域、大きく人類として幸せになる方法です。今日世界に生きる70億人すべての人に幸せになる権利があります。それでも私たちは、物理的な快楽ばかりを求めて、内なる価値を忘れがちです。」
「皆さんの素晴らしい歌をありがとうございました。皆さんを見ていて自分の幼少期を思い出しました。私はごく一般的な農家に生まれました。金銭的な豊かさはありませんでしたが、母の愛情が何よりも豊かでした。おかげで私たち家族は喜びに満ちていました。下の兄弟が生まれるまでは、母は自然と私の面倒を見ました。畑に向かう母の肩にのせてもらったのを思い出します。親愛なる兄弟姉妹の皆さん、私は母が怒りを露にしたところを一度も見たことがありません。母の元で育つことができて、本当に幸せだったと思っています。その後私は慈悲を育む訓練をしていますが、その種は母からもらったものです。」
法王は愛情の価値が高いことを強調され、人はなぜこのような内なる価値に目を向けず、知識を増やすことや自己中心主義や物質ばかりを追いかけてしまうのか、私たちにできることは何かと問われ、人はもっとやさしい生き物であると提言された。私たちは自然と共存する社会的な生き物である。各個人は協力し合ってこそ生きられる。嫌悪や不信がたくさんあるならそれはできない。私たちには内なる慈悲の種があり、それは若いときは新鮮でこれから十分育むことができると法王は説かれた。

California on February 24, 2014. Photo/Jeremy Russell/OHHDL
今、経済社会では汚職が蔓延り、貧富の差、愛情の欠如、他者への配慮が欠けている。だからこそ暖かい心が重要であり、幼稚園から大学まで慈悲を育む訓練を教育に盛り込むべきだと説く法王は、さらにこの問題は私たち皆にとって重要なことだと続けた。
医療研究者によると、より慈悲深い態度が精神を安定させ、それが自信と強い精神力につながり、よりよい健康に結びつくことがわかっている。強い精神力があれば、慈悲は増し不安やストレスは減る。不安や怒りは私たちの健康を害し、家族関係を引き裂いてしまう。慈悲は私たちの行動に深くポジティブな影響を及ぼすという。
「現代医療はまるでビジネスのようです。しかしビジネスにも道徳が必要です。私たちは肉体と心を持った生き物なので、慈悲を起こすには、心が安定していることと体が快適であることが大切です。必要なのは「他者の」幸福への関心を増やす教育です。私たちは自分への関心は自然と持っているものです。自己への関心はあっても、必要なのは他者への関心を持ち、自己中心的態度に陥らないことです。」そして法王は「どうもありがとう」の言葉で締めくくられた。
ディグニティヘルスのCEOであるロイド・ディーン氏は、これを慈悲を育もうとする組織として説明した。この起源は、19世紀に貧困者救済のためサンフランシスコに来て利他的行動をとった8人のシスターたちにあると述べる。ディグニティでは基本となる3つの原理があると言う。第1に、大きな決断をするときは、その決断の影響を受ける人たちから話を聞くようにすること。第2に、一人で死ぬ人がいないようにすること。第3に、慈悲は義務であり、ただのしきたりではないこと。
「慈悲と思いやりに費用はかかりませんが、その見返りは莫大です。」というディーン氏に法王はただ「それは素晴らしい」とお答えになった。

in Santa Clara, California on February 24, 2014. Photo/Charles Barry
思いやりや慈悲などの内なる価値の高め方についての談話で、法王は宗教に興味が無いという10億の人もこれに巻き込むことの重要性を説かれた。そのために宗教色を排した道徳への取り組み、例えばインドのようにどんな宗教でもまた無宗教でもそれら全てを大切にするモデルを支持すると話された。
その違いがどう起こるのかという問いに対してロイド・ディーン氏は
「健康に関するプロの方には、しっかりと私の目を見た上で、私の名前を言ってほしい。」と答えた。法王も同意され、医者や看護師が笑顔で向き合ってくれないと安心できないとおっしゃった。
「心を開いて、正直で誠実であれば、成功します。興味のある分野で他者を助ける方が、他者を無視して傷つけるよりずっといいです。」
法王はプレジデントランチの際も他のゲストからも歓待され、午後にリービーセンターに戻られ、「道徳と慈悲をビジネスライフで実践する」ディスカッションに参加された。450人の観衆を前に、マルクラセンター道徳実践代表のカーク・ハンソン氏は他のパネリストを紹介した。アドビーの共同創始者チャーリー・ゲシェック氏、インテル会長のジェーン・ショー氏、ミシガン大学コンパッションラボ研究員のモニカ・ウォーリン氏。
チャーリー・ゲシェック氏は、アドビー設立にあたって決めた3つの基本事項について話した。第1に最も優れた人材を雇うこと、さらに前進したければ自分よりも頭のいい人を雇うこと。第2に、従業員の権利を個人レベルで認識してサポートすること。優秀だが不誠実な人は第1カテゴリーに含まれるのか問うた法王に対して、ゲシェック氏はそれは雇う対象にならないと答えた。第3に会社にはお客様、従業員や株主のように支援者で成り立っているので、彼ら全員に誠実であること。法王はこの3事項に潜在する思いやりに感銘を受けられた。

ジェーン・ショー氏は、今回の参加にあたって自分の人生を振り返る機会となったと話した。法王の母親についてのコメントに、自身の幼少期のしつけを思い出したという。第二次大戦後のイングランド、ウォーセスターの村で育った彼女は、遊び道具は皆で使うこと、誰にも手を上げないこと、目上の人を敬うこと、相手の気持ちを理解し、慈悲を育むこと等、家族から与えられた価値観は大変大きいと言う。彼女が24年間働いた会社は、創始者が慈悲を実践する人だった。自分の会社を起こしてからは、従業員に信頼を寄せ、彼らも忠誠心を示し、絆を生んだ。そしてついにインテルが賄賂が蔓延るベトナムで組立工場を設立することになったとき、賄賂による解決はないことが同意された。また別のケースでは、コンゴ共和国の紛争激化に伴い採掘物があると判明したとき、インテルは、社と製品がこのような「紛争の産物」を利用しないよう対策を取ったという。彼女はこれをビジネスにおける仕事上の慈悲であると感じ、従業員も客も彼女の意見に賛成だったという。
モニカ・ウォーリン氏は組織内での慈悲の必要性を認識するのは、私たちが考えているよりも困難であるとの研究成果を明らかにした。
法王は慈悲には2種類あるとおっしゃった。友人や家族の他者への本能的な思いやりで、分析的思考の結果生まれる包み込むような慈悲。さらに自らが責任を持って行動を起こしたいと願う他者への慈悲。競争心についての問いには、 成功やトップに立つことを目指す競争心と他者を蹴落としたいという競争心の2つがあると説かれた。
毎日の生活で精神を鍛える時間をどのようにつくればいいかという質問に対して、未来とは未確定なものだが、ジェーン・ショー氏は時間をつくるには優先順位をつけることだと言う。法王は女性の役割を考えると、社会におけるリーダーの必要性はさほどないと続けられた。農耕が確立されたことで所有概念とリーダーの必要性が生まれたが、それは身体的な能力の基準であり、男性優位のものである。 その後教育の場で身体の強さだけが求められることがなくなった今こそ、慈悲を育むときであり、この分野に優れた女性のリーダーシップが必要だと法王は説かれた。さらに、女性のリーダーが増えれば、暴力や紛争は減るだろうと話された。
法王はこう締めくくられた。「私たちには生まれ持った慈悲の心がありますが、それを育てる必要があります。他者への関心は、人権に関わることであり、全ての人に幸せになる権利があるので、この人権は守られなければなりません。」

California on February 24, 2014. Photo/Charles Barry
(翻訳:高島 美奈)