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欧州中国首脳会談でチベット問題を取り上げよ  ーダライ・ラマ法王特使 ケルサン・ギャルツェン

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(2009年5月15日 Tibet.Net )

ダライ・ラマ法王特使ケルサン・ギャルツェン氏

2009年5月20日、チェコのプラハで欧州中国首脳会談が行われることをダライ・ラマ法王は歓迎している。法王はかねてより中国を孤立させたり牽制したりすることには反対しており、むしろ中国を国際社会、特に民主主義社会の表舞台に立たせることの必要性を訴えてこられた。

今回の首脳会談は欧州連合(以下EU)が中国政府とチベット問題に取り組む絶好の機会である。チベット内の情勢は切迫しており一刻の猶予も許されない状況である。現在チベット内のチベット人は文化大革命以来の厳しい抑圧に耐え忍んでいるのである。この数ヶ月間で死刑判決を受けたチベット人の数も増えているが、これはチベットが緊迫した由々しい状況におかれていることを物語っている。

2008年10月31日、ダライ・ラマ法王の特使らによって「全チベット民族が名実共に自治を享受するための草案」が中華人民共和国政府に提出された。この草案は真の自治に関するチベット側の立場を明らかにし、チベット民族が必要とする自治が中華人民共和国憲法に掲げられた自治の原則の枠組みの中で実現可能であることを示すものである。

残念ながら中国政府は中国側の見解を示すこともなくこのチベット側の提案を却下した。

これまでダライ・ラマ法王は一貫して中道のアプローチを掲げてこられた。チベットおよび中国双方にとって有益で受け入れ可能な解決策を、和解と歩み寄りの精神をもって対話によって模索していこうという政策である。ダライ・ラマ法王はご自身が発案されたこの政策を、1987年の「五項目和平プラン」および1988年の「ストラスブール提案」を発表された頃から発展させてこられた。法王は中国政府のもつ懸念や要求、利益を考慮し、その内容の変化に合わせてご自身の見解を吟味し修正してこられたのである。ダライ・ラマ法王がいかに柔軟で広い心をもってチベット問題を捉え、実用的にその解決策をお考えになられているかが分かるだろう。

「全チベット民族が名実共に自治を享受するための草案」は、チベット問題の解決策についての現在のダライ・ラマ法王の見解を代弁するものといえよう。それ以前の提案や声明と内容を異にしている部分もあるが、ダライ・ラマ法王が提唱される中道政策の原則に基づいているという点では一貫している。

中国側はこの草案を全面的に却下したが、チベット側は2008年11月、インドのダラムサラで亡命チベット人による特別総会を開き、引き続きダライ・ラマ法王が提唱する中道のアプローチを支持し、中国政府との対話による問題解決を目指すことを再確認した。この結果、亡命チベット政権の指導部は対話プロセスを進めるためにさらに尽力していくことになった。チベット民族の自治について、誠実かつ率直な討論をするため、我々チベット側はいつどこにでも出向いて行ける準備を整えている。今こそ中国政府は誠意をもってチベット内のチベット民族が抱える真の問題に取り組むべきだ。

中国の容赦ない強硬政策に対するほんのわずかな反発からチベット高原一帯が深刻な人権侵害に苦しむ状況が生じているのに対し、ダライ・ラマ法王は非暴力を貫き和解と歩み寄りの精神で対話による解決を目指す一貫した姿勢を示しておられる。この状況の中でEUはチベット問題の平和的解決を進める主導的役割を果たすのに相応しいと思われる。現代の密に相互依存し合う世の中で、世界の評価や外界の影響を受けない国や政府は今や存在しない。ダライ・ラマ法王と中国指導部との間の真剣な対話を実現させるために、EUは主導権をとり建設的な役割を果たしていけるはずだ。

今私たちチベット民族は未だかつてないほど国際社会の助けを必要としている。最優先課題は中国当局と治安部隊がチベットで裁量権を乱用しないようチベットを外の世界に開くことだ。国際社会の目が光っていれば中国当局も治安部隊も行動を自重し、それがチベット内で身柄を拘束されているチベット人に対してもある程度の安全保障として機能するだろう。政府や議会の代表をチベットに派遣することも同様の効果がある。さらに、国際的な報道機関や支援団体、他のNGOや観光産業をチベットから閉め出さないように中国政府に対し働きかけていただきたい。最近チベット人に対して下された死刑判決についてはそれが撤回されるよう早急に直接介入してくださるようお願いしたい。

さらに、中国政府が対チベット強硬政策によってダライ・ラマ法王を異端とし、チベット問題を黙殺しようとしているが、そのような政策が上手く進められるはずがないということを明確にすることが大切だ。チベット問題は、それが真剣に討議されチベットおよび中国双方が納得できるかたちで解決をみるまでは、EUと中国の関係においても重要な議題として存在し続けるのだということを、EUは中国指導部に明示していただきたい。ヨーロッパ中の各国で大勢の人々がチベット民族とダライ・ラマ法王を支持している現実を考えれば、欧州中国首脳会談でチベット問題を回避することは、かえって中国側に疑心や不信感を抱かせる結果を招くことになるだろう。

中国にとってチベット問題は政治的に敏感(センシティブ)だという理由からそれを必要以上に慎重に扱えば、中国指導部内の強硬派を付け上がらせるだけである。チベット問題は普遍的に国際社会で認められた原則や規範に基づいて審判され、それに応じて解決されるべきだというのが私たちチベット民族の立場であり訴えである。中国政府の政治的センシティビティが優先され、それが主たる基準となれば、チベット民族の抱える問題もまたその基準で判断されることになる。チベット内でチベット民族の人権が侵害され彼らが抑圧に苦しんでいることの重大さが問われなくなってしまう。それを容認することではないし、そのようなことが認められるようでは国際社会が認める原則や法に基づく国際社会秩序は蝕まれることになる。実際チベットはどこよりも厳しい制圧のもと、ほとんど自由のない場所になってしまった。 そこでチベット民族は世界でも最も抑圧に苦しめられ脅かされた存在になってしまっているのである。

最終的に私たちチベット民族が対話をするためには誠実なパートナー、つまり対話の相手が必要だ。昨年チベット高原一帯に抗議運動が広がった後の 2008年3月29日、EUの対外関係担当委員らは「チベットの言語、文化、宗教、伝統の保護といった重要な課題に取り組むための実質的かつ建設的な対話」が必要だと訴えた。チベット側はそれに応え「全チベット民族が名実共に自治を享受するための草案」を提出した。それを中国側が全面的に却下し、中国チベット間の対話プロセスは行き詰まってしまったのである。もし今回の欧州中国首脳会談でチベット問題が採り上げられなければ、チベット問題および中国内の人権問題一般に対するEUの姿勢が問われることになるだろう。
チベット問題と私たちチベット民族は今非常に重要な局面を迎えている。多くのチベット人、そして中国人民が今回の欧州中国首脳会談を見守っている。チベットの人々に必要なのは希望と同情、そして連帯のメッセージだ。絶望と苦しみに負けるなというだけでなく、ダライ・ラマ法王が提唱される非暴力、対話そして和解の道を信じていけばいいのだと確信できるメッセージがこの首脳会談から送られることを期待している。


(翻訳:中村高子)