(2009年1月25日)
春節(旧正月)を迎えるにあたり、中国本土をはじめ世界各地におられる我々の兄弟姉妹である中国人のみなさまにご挨拶を申し上げます。
昨年は世界各地で様々な出来事が重なり、とりわけ中国におきましては、あるときには深く憂い、またあるときにはよろこびに満ち、さまざまな激動を目のあたりにすることとなりました。自然災害の脅威のほかにも耐え忍ばねばならない事態が発生し、また、五輪の開催という晴れ舞台もあり、その結果、各地に大きな変化が残されることとなりました。
世界規模の経済破綻により、途上国を中心に世界中の一般市民が不安と苦悩の淵に投げ込まれています。人類のあらゆる苦しみが終わるように祈ること、苦しみの最中にある方たちの幸福と安寧を祈ることは、信仰を持つすべての人間に託された責務です。
世界一の人口を持つ中国には、五千年を超える長い歴史とともに見事な文化遺産があります。そればかりか、政治、経済、軍事における超大国としても新興しています。しかしながら、自由、法の支配、透明性が無いのでは、この進歩的な現代社会において超大国としての責任を果たすことはできません。
「調和社会」の創造という胡錦濤国家主席の政策は称賛に値します。そのような政策は中国にとって不可欠ですし、世界規模で成されるべき課題でもあります。しかしながら調和社会とは、相互の信頼、友愛、公正を通して実現されるものです。武力や独裁政治を用いて実現することはできません。
中国の人民は、経済的な便宜だけでなく自己の良心に従うことのできる自由や教育を享受し、世界で起きている事柄に眼を向けていく必要があります。このような自由が人類にとっては不可欠なのです。めざましい変化が続く現代社会においては、この地球で起きている日々の出来事に遅れをとらないように努めなければ、自ずとおいていかれることは言うまでもありません。今日の中国は、BBCやCNNといった海外ニュースをはじめ、テレビ、ラジオ、インターネットによる民間のニュースから遮断されていますから、中国の人民はいま世界で何が起きているのか、真実を知ることができません。私は、そのような中国政府の閉鎖的な姿勢に失望しています。そのような姿勢は、中国の人々の基本的権利はもちろん、短期的、長期的な利益を確保するうえで大きな妨げとなります。
21世紀は情報革命の時代であるといわれます。それでも中国をはじめ、情報の流れを規制している国はあります。そのような行為は時代錯誤であり、長期的に持続することはできません。ですから中国においても、情報の普及と共有が速やかに自由化されるものと私は信じております。
昨年、多くの中国人有識者が、中国における自由、民主的思想、公正、平等、人権を求めて膨大な数の記事を発表し、キャンペーン活動を行ないました。とくに最近では、あらゆる職業の人民が「08憲章」という基本的人権を求める文書に署名し、その数が増えていくのを我々は目にしました。これは有識者をはじめとして、中国の人民が自国における開放性と自由への切なる思いを表明しはじめたことにほかなりません。これは、我々みなにとって誇りとなる出来事です。
最後に、中国人のみなさまに重ねて新年のご挨拶を申し上げ、新たな年が、中華人民共和国が平等、公正、友愛を確保することによって有意な調和社会を築ける年となりますよう心よりお祈り申し上げます。
2009年1月25日
ダライ・ラマ
(翻訳:小池美和)