2019年8月27日
ブレット・D・シェーファー
国連のシステムの内で、中国の影響力が増大している。屈冬玉(Qu Dongyu)が今月、国連食糧農業機関(FAO)の事務局長に就任し、国連専門機関のトップを務める中国人が4人に増えた。
この流れは懸念されている。中国は国際的には良性の勢力ではないためだ。中国は国連の価値やプログラム、政策を、中国が優先する事項とイデオロギーに有利になる方向への転換を試みており、それは国際社会のシステムを何十年も支えてきた価値や慣行を損なうものである。
国連のシステムにおける中国の影響が強く見られる最近のニュースを見れば、中国の台頭はトランプ大統領の下でのアメリカの「国際的リーダーシップからの撤退」に起因するものだとするのが一般的だ。しかし、国連のシステムにおける中国の影響力の拡大は何も新しいことではなく、現在の米国政権のみに起因するものでもない。
国連の専門機関のトップに就いた最初の中国人は、2007年に世界保健機関(WHO)の指揮を執ったマーガレット・チャンだった。 6年後、李勇(Li Yong )が国連産業開発機構(UNIDO)の局長に就任した。2015年に赵厚麟(Houlin Zhao)が国際電気通信連合(ITU)の事務局長に就任し、柳芳(Fang Liu)が国際民間航空機関(ICAO)の事務局長に就任した。現在も在職中である最後の3名の就任は、オバマ大統領の政権下のことである。
要するに、トランプが大統領に就任する以前から、国連における中国の影響力は高まっていたのである。前の政権下では注目されなかったことが、なぜ今注目されているのかとは別問題として、注目され対処されるべき問題なのである。
中国の影響力が拡大するにつれ、アメリカの利益と対立する政策を主張する力や、中国が厄介な問題であると見なす国連の動きを鈍化させる力も大きくなっている。
たとえば、中国が拒否権を行使して国連安全保障理事会の決議をブロックしたのは、国連が中華人民共和国を公式に政府として認めた1971年以来、12回だけである。さらに、これらの拒否権は、ビルマ、シリア、ベネズエラ、ジンバブエの抑圧的な政府を、その政策に対する国連の制裁と非難から保護するために投じられたものである。
ブルッキングス研究所の調査によると、中国は2013年以降、国連人権機関で積極性を増し、「国際的な規範とメカニズムの独自の解釈」を推進している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、中国の当局者たちが国連の規則に違反して国連スタッフを脅迫し、中国の政策に批判的な非政府組織に嫌がらせをしていると報告している。
さらに、国際公務員は中立で独立した立場であるはずだが、中国は国際機関で働く中国人に、中国の利益と政策を有利に進めることを期待している。 2018年10月、中国は国際刑事警察機構(ICPO)の孟宏偉(Meng Hongwei)総裁を逮捕し、権力の濫用と「党の決定に従う」ことを拒否したとして彼を告発した。
中国政府の指示に従わないとどのような事態が待ち受けているかを知っている柳芳(Fang Liu)が、台湾が主要な航空交通ハブであるにもかかわらず、ICAOのトップの地位を利用して台湾のICAO会議への出席を妨げたのも不思議ではない。
中国が経済的および軍事的に強化されると、国連における中国の影響力や存在感も同様に成長する。政治的および財政的現状から、アメリカはこの流れを完全に覆すことはできない。ただし、中国の優先事項を考えると、アメリカや志を同じくする国々は、この流れの影響を無視することはできない。
アメリカは、中国の影響を合理的に抑え、中国のリーダーシップがアメリカの利益を直接損なうことのない組織の部分に制限して向けられるようにするための、戦略的措置を講じなければならない。これには、中国の利益と戦術の詳細な評価に基づく広範かつ包括的で長期的な戦略が求められる。アメリカおよび主要な国際機関で志を同じくするリーダーシップを促進し、国際機関でアメリカ人の雇用を促進して、アメリカの圧力を意図的かつ慎重に行うことが必要である。
(翻訳:植林秀美)