(2006年6月29日 AP通信)
(北京)今週末、初のチベット行き鉄道が開通する。中国鉄道省の発表によると、高地での酸素不足に対応するため車両は酸素調整機能付きの密閉式、永久凍土に敷設した線路の安定性はハイテク冷却技術を用いて確保するという。
4年の工期に投じられた費用は42億ドル。すでに中国巨大鉄道ネットワークの中継地であった青海省のゴルムドを起点にチベットの首都ラサに結ばれた。
「中国のリーダーたちが1950年代から実現を夢見てきたこのプロジェクトは、貧しい中国西部の経済を潤し、富裕な東部との交易と情報網を確立してくれるだろう」と中国側は語る。
一方、評論家たちは、「これは中国政府による軍事行動の一環だ。漢族中国人の移民をチベットに大量に流入させることで、チベット文化を破砕しようとしているのだ」と語る。
鉄道部青蔵課の常務副主任、朱振升氏は、「この路線は地方の発展に大いに貢献し、地方の人々に利益をもたらす」と語ったが、人権擁護家やチベット独立運動家たちが訴えているように、一般チベット人が鉄道から直接の恩恵を得るチャンスはほとんどないことを認めている。
「さしあたり、チベット人が列車で働く機会は皆無に等しいでしょう」と状況を簡単に説明し、「雇用の機会を増やしたいとは思っています」と語った。
“Students for a Free Tibet”のメンバーやチベット独立運動家たちは黒色のアームバンドをつけて抗議。土曜日には世界各国の中国大使館および領事館でデモを行なう構えだ。
「中国の鉄道がチベットまで伸びたことは、チベット人へ恩恵ではなく、中国政府によるチベット支配の強化を意味する」とメンバーはウェブサイト上で語っている。
人権擁護団体によれば、中国政府はチベット寺院の僧侶の数を制限し、宗教教育を規制。僧侶に政治教育の授業を課し、ダライ・ラマを糾弾するよう強制しているという。
1950年に中国共産党の軍隊がやってきた時点では自分たちの領土は独立していたのであり、ダライ・ラマはチベット文化を守るのに必要な自治権を求めて運動しているのだと、多くのチベット人は語る。
一方中国政府は、チベットは何百年も前から中国の一部であったと主張。独立を煽っているとしてダライ・ラマを糾弾している。
初のチベット行きの乗客を乗せた列車は、土曜日の夜に北京を出発。48時間後の月曜日にチベットの首都ラサに到着する。毎日運行するかどうかは未定、と中国政府はいう。
中国語で「スカイ・トレイン」の別名をもつこの鉄道は、世界でもっとも高い標高5,029メートルの山脈を時速96キロで走る。これまでの最高記録は、ペルーのリマ〜ワンカヨ線の標高4,800メートル。
青海〜チベット線では、その区間の8割が標高3,962メートル以上の不安定な永久凍土の上を走ることになる。永久凍土を安定化させるため、レールの周囲に冷却剤を通すパイプを埋め込み、凍土の確実な凍結を維持する。 朱氏は、「電気のいらない冷却システムのようなものです」と語る。
広東省深川を拠点に活躍する技師で、1970年代、アラスカ油田のパイプラインの凍土に同様の冷却技術を設置したメンバーのひとりであるダニエル・ウォン氏は、「パイプには太陽エネルギーが使われているのでしょう。ポンプとコンプレッサーを作動させてアンモニアかなにかの液体をガスの中に常時循環させることで冷気を発生させるのではないでしょうか」と語る。永久凍土の安定性がもっとも低いと思われる区間には高架橋が架けられ、その上を120キロメートルに渡って走ることになるとも語った。
車両はカナダのボンバルディア社製。紫外線防止効果のある二重窓に加えて、標高の変化に応じて酸素レベルを調整できるように設計されている、とボンバルディア中国代表のチャン氏は語る。
「高地で呼吸困難が生じたら、座席に設置されている装置で酸素たっぷりの空気を吸うことだってできるんです」と朱氏は語った。