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中国の支援が報じられた反ダライ・ラマ団体が解散

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2016年3月12日
スイス(ロイター)
記者名:ディヴィッド・ラグー、ステファニー・ネベハイ(David Lague, Stephanie Nebehay)

ダライ・ラマに対し世界中で嫌がらせのデモ抗議を展開していた仏教団体が、同団体のウェブサイトの告知によると、デモ抗議を打ち切り、解散した。

この告知が行なわれる前の12月、ロイターは、ダライ・ラマが訪問するほぼすべての国々で見られるデモ抗議の背後には、中国共産党が支援する仏教宗派の存在があることを明らかにした。ロイターは、この仏教宗派が、チベット仏教最高指導者の信頼を傷つけることを目的とする中国政府キャンペーンの重要な手段となっていたことを突きとめている。

告知には「国際シュクデン共同体(the International Shugden Community:ISC)の指導者たちにより、ダライ・ラマに対するデモ抗議を完全にやめることが決定された」と書かかれていた。さらには、ISCとそのウェブサイトが3月10日をもって消滅することが書き添えられていたが、理由は記載されていなかった。

その告知に日付はなく、ISCのスポークスマンであるレン・フォーリーの名が記されていた。以前配布された宣伝資料に載っていたフォーリーの連絡先に電話してみたが、つながらなかった。

同じくISCスポークスマンで、香港を拠点とするニコラス・ピッツにコメントを求めたが、返答はなかった。

ダライ・ラマは今日、ISCが解散を決定したことを知っていたと語った。この告知の背後に何があるのか訊ねると、ダライ・ラマは、次のように語った。

「わかりません。しかし、ロイターの記事は包括的で全人的なプレゼンテーションのような、非常に役立つものでした」

中国政府に対する民衆蜂起の失敗を受けてダライ・ラマがインドに亡命してから50年以上の月日が流れたが、ダライ・ラマは今も中国の占領下に暮らす600万人のチベット人の多くに宗教的最高指導者として影響を与え続けている。中国政府はこれに激高し、ダライ・ラマのことを中国からチベットを分離しようとしている分離主義者と呼び、日常的に非難している。

米国では、ISCは慈善団体として登録されている。2014年以降、この団体の広報役は、ISCはデモ抗議を組織してはいるが、中国政府や中国共産党とのつながりはない、と述べてきた。

デモ抗議を行なっているのは、ドルジェ・シュクデンを崇拝するチベット仏教宗派のメンバーたちだ。ダライ・ラマは、シュクデンが悪霊であることを警告し、崇拝を思いとどまるよう勧めている。

ドルジェ・シュクデンの信奉者たちは、ダライ・ラマが彼らを迫害し、チベット仏教を分断していると主張して、この80歳のノーベル平和賞受賞者を非難している。

ダライ・ラマは、「無知であったがゆえに、私自身もシュクデンを崇拝していたことがあります。しかし私は、シュクデンはきわめて邪悪な霊であり、私たちのためにならないことに気づいたのです」と語った。

欧米のデモ抗議者たち

この問題は内輪の宗教上のもめごとのように思われていたが、欧米にまで持ち出された。抗議者たちは、ダライ・ラマが北米や欧州、オーストラリアの都市で講演を行なう際にも追いかけた。

抗議者の多くは西洋人の新メンバーだ。彼らはチベット人帰依者の小さなグループと連携して、スローガンを唱え、打楽器を打ち鳴らし、ときにはダライ・ラマが講演や法話をしている最中にも邪魔をする。彼らは偏見とでっちあげという理由でダライ・ラマを非難している。

ダライ・ラマのつい先日のイベントでは、デモ抗議はほとんど見られなかった。ダライ・ラマに近しい人々によれば、今週はじめに米国ウィスコンシン州マディソン市を訪問した際には、小規模のデモ抗議があったという。

今日、ジュネーブの国連ビルの向かい側には、ダライ・ラマの話に耳を傾けるために数百人が集まった。打楽器やチベット国旗は目にしたが、ダライ・ラマに対する抗議らしきものはまったくなかった。

米国を拠点とするチベット人で、昨年のデモ抗議ではISCのスポークスマンだったソナム・リンチェンは、デモ抗議を打ち切ることになった理由はわからないと語った。

リンチェンは中国政府との関与を否定し、デモ抗議を続けるかどうかは決めていなかったと語った。彼や一部のシュクデン信奉者は、シュクデンを崇拝しないようダライ・ラマが呼びかけることが、チベット内外におけるシュクデン信奉者の追放につながっていると主張している。ロイターは、こうした主張の裏付けを取ることはできなかった。

「本当に苦しんでいるのは、難民として暮らしているチベット人とチベット本土のチベット人です」とリンチェンは言った。

スイスを訪問中のダライ・ラマは、「私がドルジェ・シュクデンを崇拝することをやめた理由を語るのは、それが私の責務であるからです。耳を貸すか貸さないかは、その人の自由です」と語った。

「ダライ一派との闘争」と中国が記述

ロイターは12月、中国共産党がシュクデン問題について「ダライ一派との闘争における重要戦線」と記述した書類が2014年に中国人高官に配布されていたことを報じた。

国家朝餐祈祷会(National Prayer Breakfast)が開かれたヒルトン・ホテルの向かい側の路上で、ダライ・ラマに対し宗教的不寛容の抗議をする国際シュクデン共同体(the International Shugden Community:ISC)のメンバーたち。2015年2月5日、米国、ワシントン(撮影:ジョナサン・アーンスト/ロイター)

かつてはシュクデンの活動メンバーで、インドとネパールに拠点をおいていた僧侶のラマ・ツェタは、中国共産党中央統一戦線工作部が反ダライ・ラマのキャンペーンを指示していたとロイターに語った。

現在米国で暮らしているツェタは、中国政府がツェタをはじめとする複数のシュクデン僧に金を払い、デモ抗議の計画や調整をさせていたと語った。ツェタは、中国政府が抗議者に支払いをした証拠となるものは提供しなかった。

ロイターの調査はまた、抗議があまりにも執拗になってきたことから、米国やインド、その他の国々の諜報機関がダライ・ラマの身の安全を危惧し、こうした脅威に対して警戒態勢を取るようダライ・ラマに注意喚起したことを記した文書の存在も明らかにしている。ダライ・ラマが昨年二度にわたり英国を訪問した際には、それに先駆けて、ダライ・ラマ英国代表部事務所のためのセキュリティアセスメントが準備された。

「中国共産党はドルジェ・シュクデン派を支援しているのか」というロイターの質問に対し、中国外務省は「ダライ・ラマは宗教的圧制者だ」と返答した。