ワシントン(ロイター,AP通信)
世界銀行は7日、中国政府がチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマの生誕地である中国西部地区の貧困対策への支援として求めていた融資4千万ドルについて、理事会で否決した。5大出資国の米・日・仏・独・英が、この対中融資に反対していた。
世界銀行は昨年いったん中国への融資を承認したが、その後、世界銀行の事前調査が不十分だったと指摘されるなどの問題が続出。対象地域の社会環境情勢の実地調査が必要とされたが、中国がこの調査を拒否したため、融資の最終決定は保留状態になっていた。理事会の否決によって、これまで対中融資に積極的だったウォルフェンソン世銀総裁は、苦しい立場に追い込まれた。
世界銀行の対中融資に関しては、融資対象としての適切性を調査しないまま、貧困対策という理由だけで融資するのは問題があるなどとして、批判の声があがっていた。中国は、世銀の最大融資国の一つ。中国政府は、中国西部地区の貧困農民約5万7千750人を約300キロ離れた土地に移住させるために融資を使うとしていた。
中国代表のチュウ理事は「昨年承認された融資を再び、理事会の採決にかけたことは受け入れられない」と、理事会の判断に不満を示した。チュウ理事は、中国への融資を理事会が再検討する過程で「大きな政治的圧力」があったと、指摘した。
専門家筋はこれまで、世界銀行の貧困対策融資は「文化の大量虐殺」につながると警告していた。理事会の否決を知ったチベット文化保護を訴える活動家たちは、喜びを隠さなかった。チベット文化保護運動を展開する「インターナショナ・キャンペーン・フォア・チベット」のジョン・アカリー氏はこう述べた。
「これは吉報だ。まるで夜の海に潮が満ちてきたようだ」
否決にいたるまで理事会は「やや混沌とした状態」だったという。理事会の決断を見守ったある関係者は「疑問なのは、ウォルフェンソン総裁がなぜ事前に票の根回しをせず、理事会にこの問題を持ち出してきたかだ」と語った。
米財務省は「米国をはじめ多くの出資国が、今回の対中融資計画は世界銀行の方針に反するものと判断した」と声明を出した。