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ローマ宣言とチベット

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(2009年11月20日)

第5回チベットに関する世界議員大会は、2009年11月19日、「チベットに関するローマ宣言」および今後数年間の行動計画を採択して幕を閉じた。
長い間懸案となっているチベット問題を解決するには、中国指導部とダライ・ラマ法王あるいは法王特使との間に対話が持たれる必要がある。今回の会議、ローマ宣言および行動計画の焦点は、中国指導部をチベット問題解決につながる対話に導くための最善策を探ることにある。会議参加者は、チベットに関するこのような討論が中国を脅かすものではなく、むしろ中国の後ろ盾となることを前面に出すべきだと考えている。中国にはまだ答えを出さなければならない基本的な問題が残されている、と参加者は言う。「国家は誰のものか?皇帝か人民か?」
中国政府は現在の活発な経済活動をさらに促進させるためにも、その問題に遅かれ早かれ取り組まなければならないはずだ、と参加者は考える。
大会終盤には、ナンパ・ラ銃撃事件の生存者、ロプサン・チュデン氏がその恐ろしい体験談を披露した。彼はナンパ・ラ峠を越えようとしたところで銃撃に遭い、登山家のテントに隠れて難を逃れた。彼の人生の明暗を分けた痛ましい事件の詳細が語られ、会場の人々は熱心に耳を傾けた。
午前中の会議ではテンジン・ノルブ、ケイト・ソーンダーズ両氏が、いわゆる「第三の極」としてのチベットの役割と、チベット高原の環境破壊が何百万という人に及ぼす悪影響について現実的かつ包括的な報告を行った。18日の会議でダライ・ラマ法王も「環境に国境はない」と話されたように、チベットの環境問題はチベット民族だけでなくチベットを源泉にした水を生計や生存の拠り所にしている何百万という人間に関わる由々しき問題なのだ。アジアの主要河川の源流をたたえ、地球の第三の極であるチベットの環境を守ることはすなわちチベットの山々から遠く離れた人々の暮らしを保障することに他ならないのである。

第5回世界議員大会におけるチベットに関するローマ宣


㈵. 序言

2009年11月18、19両日、ローマで第5回目の会合をもったチベットに関する世界議員大会は、

・ チベット民族の独自のアイデンティティー、文化そして生活様式に関する権利を擁護する。
・ チベット民族および、彼らがダライ・ラマ法王の指導のもとに選択した非暴力の道を引き続き強く支持していく。
・ 議会および行政機関の重要な役割、つまり、チベットがおかれた厳しい状況について政府や国際機関に喚起を促し、チベット民族援助のための政策作成を促進する役割を再確認する。
・ 過去四回の会合の決議、行動計画およびその結果を顧み、考察する。
・ 中華人民共和国憲法の枠組み内でチベット民族が真の自治権を享受できる道を模索する。
・ この世界議員大会は決して反中の立場をとるものではなく、チベット民族と中国人民は互いに尊重し合いながら共存できるという信念のもと、正義と真実を追求するものであると宣言する。

㈼. 所見

第5回チベットに関する世界議員大会は、

  • 前回2005年の会合以来、チベットがおかれた状況は悪化していると認識している。中華人民共和国はチベット民族に対し厳しい政策をとっており、チベットの自治を要求するダライ・ラマ法王に対しても以前にも増して強硬な姿勢を示している。
  • 中国当局による圧制に対し心の叫びを訴えるため、チベット高原中のチベット人が立ち上がり参加した先例のない規模の平和的なデモに共鳴する。
  • デモに対し中国当局がチベット高原中で厳重な取り締まりを敢行したことに遺憾の意を表明する。言論、信教、集会、組合の自由に保障される権利を行使したために、記録にあるだけでも735名のチベット人が勾留されている。
  • 国際基準に見合う法の適正手続きを欠いたままチベット人が処刑されていることに対し激しい憤りを覚える。
  • 責任ある国際社会の一員になる意思があるのなら、中華人民共和国は国際連合憲章および世界人権宣言に謳われた正義と人権の国際基準に則り、その統治下にある民族を守り尊重するという責務を果たさなければならないことを認めるべきだと考える。
  • 中華人民共和国には、チベット民族の正当な訴えに向き合いそして取り組む道義的責任があると考える。またそれは、国際基準に則った正当な法規の執行、チベット民族の人権(信教・表現の自由および文化・アイデンティティー・生活様式に関する権利)の尊重、真の自治の施行をもって実現されるべきである。
  • 人権高等弁務官事務所、人権理事会および拷問禁止委員会を含む国連関連機関の最近の資料や、国家機関および非政府団体の資料から、中国当局がチベット民族の人権を組織的に侵害していると判断する。
  • 中華人民共和国は「経済的社会的および文化的権利に関する国際規約」を批准し署名しているが、実施状況とは大きなギャップがあることを認めざるを得ない。チベット人の不満の根本的原因はそこにある。
  • チベットからの亡命者(長期にわたり亡命先で生活する者も新たな亡命者も含めて)には引き続き支援が必要だと判断する。亡命者の多くは子どもたちで、人道的支援、教育・医療分野への支援そして入植地の活性化を図るための支援などが必要である。
  • 「第三の極」といわれるチベット高原の環境破壊がすすんでいることを憂慮する。温室効果ガスの排出や中国政府および企業による天然資源の乱採掘、そしてチベット遊牧民の定住政策(定住によって伝統的な生計手段が失われ、チベットの放牧地は管理されず荒廃する)などが気候変動に寄与している。
  • 中国政府がチベット高原の気候変動緩和政策をとることは、アジア地域の何億もの人々に恩恵をもたらすと考える。気候変動対策を成功に導くにはチベット民族を動員し、その知恵を活用することが不可欠だ。
  • 各国政府および市民がチベット民族のために様々なかたちで貴重な援助の手を差し伸べていることを評価する。亡命者の受け入れ国であるインド政府および国民の計り知れない貢献は特筆に値する。
  • 2008年3月に始まったデモ直後に国際機関や各国政府が対話を促す声明を発表したことは、同年の対話実現に大きく寄与したとして評価する。
  • 中国政府とダライ・ラマ法王の特使との交渉を成功させるには適切な国際機関の仲介のもとにオープンな話し合いを目指すことが極めて重要だと考える。
  • ダライ・ラマ法王が望まれているのはチベットの独立ではなく中道のアプローチであると明言する。
  • ダライ・ラマ法王の代表らにより提言された「全チベット民族が名実共に自治を享受するための草案」を、法王が要求されている中華人民共和国憲法に則った真の自治の具体案とする。
  • トレンティーノ=アルト・アディジェ州(南チロル)など、世界各地の自治区の例に見られるように、国家の領土保全を確保しつつ、少数民族独自の民族性や言語を敬い自治権を認めることで、相互間の葛藤も克服し得ると考える。
  • 対立する二者間の溝を埋め相互理解を深めるために非暴力は有効な手段であると断言する。さらに、ダライ・ラマ法王のような非暴力の指導者が中華人民共和国内に平和と安定をもたらす可能性があると考える。
  • 過去全ての会合における決議および宣言の内容を再承認する。ダライ・ラマ法王の立場に関しても、またチベット亡命政権を正当なチベット民族の代表機関として認める決議に関しても同様である。

㈽. 行動計画

以上のことを踏まえ次の決議を採択する。

  • チベット問題の意義ある解決に向け、中国政府とダライ・ラマ法王特使との間に実質的な交渉がもたれるよう支持を表明する。なお、「全チベット民族が名実共に自治を享受するための草案」を現実的かつ建設的な方向性を示す基盤とするよう求める。
  • 中華人民共和国に対し、チベット民族の基本的人権と自由を尊重するよう働きかけていくように、各国政府に要請する。
  • 第三者の関与が対話の再開を助け、会談がオープンにすすめられるために重要である、ということを各国政府に納得してもらえるよう努める。
  • 「市民的および政治的権利に関する国際規約」を批准するように中華人民共和国に促す。
  • チベットの気候変動に対し、チベット人を動員しながら様々な国が共同で取り組んでいけるシステムを模索することを各国政府に提案する。今大会の参加者は、コペンハーゲンで開催される国連気候変動会議に先立ち公開状を起草し、「第三の極」としてのチベットの重要性を訴える。
  • 政府要人がダライ・ラマ法王を会談のためにお迎えする場合、相応しいかたちで歓迎するように各政府に働きかける。
  • 各国政府がチベットに関する情報の普及とチベット関連政策の実施をすすめていけるように、行政部にチベット問題対策事務所を設置するなどの努力をする。
  • チベットを支援する議員を各国から募りそのネットワークを広げていく。議員による国際的なネットワークはチベット亡命政権と共に事務局を立ち上げ、議員グループ間の連携をスムーズにし、将来の行動計画に対し適当なサポートがなされるように計らう。その行動計画とは、
  1. チベットに関する国際議員大会の決議・提案を議会で議題として 採り上げる。
  2. 多国間フォーラムなどの場で各政府が進めるチベット関連政策(人権、環境、安全保障、開発、経済支援などの分野に関する政策)についての詳細な報告発表の場をもてるように要請する。
  3. チベット内部のチベット人社会および亡命チベット人社会の支援計画をサポートしてくれる政府、地方自治体および個人を見いだす。
  4. 中国人議員および中国人有権者と交流し議会における意見交換に努める。
  5. 多国籍議員代表としてチベットを訪れ、チベット遊牧民や政治犯の現状などについて現地調査を試みる。
  6. 議会において、外務省や人権委員会などの同席のもと、チベット人代表を伴った公聴会の場を設ける。可能であれば中国政府代表の参加を求め、チベット内部の政治的、人道的状況について話し合えるよう計らう。
  7. この宣言に対し、できるだけ多くの支持、承認、署名を募るためにキャンペーンを行う。民主国家・地方自治体議員、政党、地域社会リーダー、宗教リーダー、ノーベル平和賞受賞者、オピニオンリーダーそして世界中の善意ある全ての市民をその対象とする。

(翻訳:中村貴子)