(2009年2月4日 台北時報)
2週間前、連邦議会におけるヒラリー・クリントン氏の米国務長官就任宣誓の影で目立たなかったが、米国大統領バラク・オバマ氏による北京に対する政策の前兆ともいえる中国への静かな要求があった。
直後、タイミングを見計らうかのように北京政府は防衛白書を発行、アジアで米国が軍事力を増強していると遠回しに指摘した。同白書は、米国がアジア・太平洋地域の軍事同盟を強化し、軍事配備を見直しを行い、軍事力を増強していると述べている。
オバマ氏が大統領に就任した1月20日の翌日、国務長官に就任したクリントン氏は、「中国とは建設的かつ協調的な関係にしたい」と、上院外交関係委員会に伝えた。
しかし、一方でクリントン氏は、「相手にも努力してもらう。中国が将来に向けて国内外でどのような決定を下すかによって、米国の対応も自ずと異なってくる」、と述べた。
報告書の中で、クリントン氏は委員会から出されていた質問に対して回答した上で、米国が何を期待しているかについて詳述している。
「温暖化や核拡散といった共通の課題に取り組むことで世界と同じ土俵に上がり、門戸解放を行い、市場主義社会に向けて前進するという具合に、中国が責任ある国際社会の一員になれるよう応援していく。要は中国次第だ」、とクリントン氏は語った。
ここで面白い経緯がある。1月8日、当時米国の国務副長官だったジョン・ネグロポンテ氏は、米中外交関係樹立30周年記念ということで北京を訪問していたが、近く発行予定だった、数ヶ月かけて準備を進めていた白書について、中国はネグロポンテ氏に知らせなかったのである。1月13日、クリントン氏は就任、報告書を発行した。1月20日、中国がオバマ氏の就任日に白書を発行した。
実際、中国に対するオバマ氏の政策を反映する形で、クリントン氏の宣誓はジョージ・W・ブッシュ前大統領の路線を反映したものと思われていた。しかし、中国に対して曖昧さのない断乎とした要求を突きつけるという、今までになかった内容になった。
「米国は中国との重要な取り組みの進め方について慎重に検討している。取り組みが継続していくことを期待する」と報告書で述べているように、クリントン氏は北京政府との対話について明瞭に意見を述べていない。
それでも、台湾、チベット、中国における人権といった諸問題について、クリントン氏は明瞭な意見を述べている。
台湾に関して、クリントン氏は先例に従った。
「米国政府の方針として、現状を一方的に変えることに反対であることを明確にすると同時に、台湾と中国が平和的に相互の相違を乗り越えられるように応援する」と、クリントン氏は述べた。
陳水扁前統裁時は台湾の独立に向けて動いたが、現在の馬英九現統裁は「現状維持」を誓っている。
今度の米政権は、「チベットの人々の人権と信仰の自由を支持する。チベット人が中国人と一緒に暮らしていくためにも、チベット人の宗教および文化を尊敬する必要がある。チベットは真の自治権を謳歌するべきだ」と、クリントン氏は述べた。
チベットという次元を超えて、米国政府は、「公私を問わず、中国およびワシントンにおいて、ありとあらゆる機会を利用して、人権問題について中国に圧力をかける」と、クリントン氏は語った。
それに対して、「台湾独立、東トルキスタン独立、チベット独立を後押ししている分離主義者の行動は、中国の統一に脅威である」と、中国の白書は主張した。東トルキスタンとは、新疆ウイグル自治区のムスリム・ウイグルを指す。
「中国は外からの戦略的作戦行動と牽制に直面している」、と白書は主張した。歴代の米国大統領、国務長官、国防長官、米国太平洋軍司令官、北京米国大使は、米国が中国を脅かしているわけではないことを、過去30年間にわたって中国指導部に対して訴えてきたが、結局無駄骨であった。
「特に、台湾に武器を売り続けている米国は、3件の米中共同コミュニケで定めている基本方針を破っており、そのため米中関係に深刻な影響が及んでいると同時に、台湾海峡の平和と安全を危うくしている」と、白書は主張している。
1972年、1979年、1982年に締結した3件の共同コミュニケは、米中関係を拘束するものであったが、考え方の相違により当初から論争の火種であった。たとえば、米国は中国と台湾の相違を平和的に解決するよう訴えている。しかし、中国政府は紛争解決にあたって軍事力を投入する権利を保持していると言う。
(翻訳:亀山信夫)