デイリー読売
中共の軍によるチベット侵略から半世紀経って、亡命中のダライ・ラマは、新たな侵略者たち—石油販売業者、金の採掘者、材木業者、牧畜業者—と闘っている。ドリルとチェーンソーを装備したこれらの新参者たちによって、今やラサは「新興都市」になりつつある。
中国は、天然資源の「西部の宝庫」としてチベットを解放している。チベットには世界埋蔵量の半分を占めるリチウムの他、中国の鉱物埋蔵量では第一位のクロム鉱、同じく第三位の銅山、そして数え切れないほどの量のダイヤモンドがあるからだ。
チベットを「西部の宝庫」として解放することで、中国はヒマラヤ地方(チベット)を早急に中国経済の主流に取り込もうとしている。これは、毛沢東主席の中国人民解放軍が50年前の10月に進軍して以来ずっと中国政府には認知されることのなかった戦略のひとつだ。中国政府は、チベットの繁栄は中国と深く結びついており、その繁栄に続いてチベットの感情や思想も共産主義に結びつくことになると信じている。
ダライ・ラマのチベット亡命政権にとって、力ずくの近代化は重大な挑戦を表す。チベットの貧民層が標準の生活レベルに達せられるよう改善がなされることに異論を唱える者はいない。しかし、こうした多くの投資は、中国人の移住が押し寄せて中国の政治的統制をさらに強化させるための構想によるものではないかという危惧はぬぐえない。
「チベット人に有益なプロジェクトは支援する、しかしチベット人に害を及ぼす原因となるものには反対する」と北インドのダラムサラにあるチベット亡命政権は声明で発表した。
今やラサでは、スーツをぱりっと着こなした若いビジネスマンたちが携帯電話と現金の束を振り回して、カラオケバーでずらっと並んだ売春婦たちを物色している。チベットの首都には騒がしい株式取引所があり、そこで投資家たちはリストにある地方の企業の株取引することができる。旅行者たちでいっぱいの改装されたポタラ宮からは、近代的な建物と新築の天安門スタイルのコンクリートの広場が見渡せる。
ちょうど今月(10月)、チベットのトップ官僚のレクチョックは香港で投資家たちにこう言った。 「ヒマラヤ地方の最終目標は、『グローバル経済に統合する』ことにある」 「投資家のあなたたちはリッチになり、我々は発展する」とさらに宣言した。
中国政府に対して力を持たないダライ・ラマは、協力している多国籍企業や貸付を行っている代理事務所に働きかけてチベットの経済成長が緩やかなものになるように努めている。
伝統的にチベット人のものである土地への中国人農民移住計画に世界銀行が融資することを反対したキャンペーンが成功し、ダライ・ラマの支援者たちは勇気づけられた。
今、中国人は、イギリスの巨大石油企業BPアムコが出資し、中国の国有石油企業ペトロチャイナ(註)がチベット高原にある青海省に建設した天然ガスのパイプラインを手中に収めたのである。それだけでなく、チベットから石油を採掘する計画をも進めようとしている。
チベット亡命政権は声明でこう発表した。
「現在企画されているプロジェクトは、チベットに害を及ぼすだろう」
「逆にチベット人の社会と環境に悪影響を与えるプロジェクトはただちに中止し、再考もしくは断念すべきである」
青海省西北部から隣りの甘粛省の蘭州にわたる950キロに及ぶパイプラインは、中国政府の「大西部開発」政策のひとつである。「25億元(3億200万ドル)のパイプラインは、雇用を創出し、インフラを改善する他、富の再分配を助けるものである」と中国は言っている。
しかし、チベット問題の活動家たちは、これが中国人農民を誘い、脆弱な環境システムを混乱させ、チベットにはほとんど利益をもたらさず天然資源を消耗するためのものだと主張する。
ワシントン拠点のインターナショナル・キャンペーン・フォア・チベットのスポークスマン、ローン・ストックマンは言う。
「天然資源の産出をベースに地域を発展させようとすることは、まさに植民地化することに他ならない」
「最初の圧力は消費者に対してであったが、今は団体に対してだ」 「我々は環境と人権の責任を会社に追求していくことはできる」
中国のこの新しい策略は、1959年流血のチベット民族蜂起以来、インド亡命中のダライ・ラマの政治的活動に幻滅する者が増えていることを反映している。
東ティモール、コソボ、チェンチェンの武装独立運動に対する国際世論の賛同に触発され、インド拠点の「チベット青年会議」への支援はさらに増えつつある。「チベット青年会議」は中国に抵抗するためには暴力も辞さないとしている。
(註) ペトロチャイナは中国石油天然ガス集団公司(CNPC)が海外上場のために一部の部門を分社化した子会社で、油田開発や石油精製が主要業務。
2000年4月ニューヨーク市場、香港市場に上場し、合わせて最大31億ドルを調達する。