2023年4月19日
ダライ・ラマ法王日本代表部事務所
代表 アリヤ・ツェワン・ギャルポ

4月に流れたダライ・ラマ法王が少年にキスをしている映像は、一部のメディアによってセンセーショナルに報道されました。残念ながら、たくさんの人が性急にコメントしたため、さらに多くの誤解と誤認を生んでしまいました。
中央チベット政権のペンパ・ツェリン主席大臣やチベット亡命議会を始め、僧侶、官僚、市民社会の多くの代表者が、この事件に関して声明と説明を発表しています。また、チベット研究の著名な学者35名も、ダライ・ラマ法王への中傷を糾弾する声明を発表しています。また、ラダック人、アルナチャル人、チベット人を始め、世界中の人々が、一部のメディアがダライ・ラマ法王の誠実さを誤解し、疑っていることに抗議しています。チベット政権と密接な関係にあるチベット人官僚である私も、この件に関する説明とその後の釈明をさせていただきます。最後に、動画へのリンクも紹介します。
最初に流れた短い動画は、ダライ・ラマ法王の名誉を傷つけるために、既得権益を持つ当事者によって操作・ねつ造されたものです。実際の事件は2月に起こったのですが、今回のビデオが流れたのは、4月の第1週目でした。このビデオはチベットと中国で広く拡散されたため、この卑劣で悪質な行為の背後にいるのが誰であるかは分かります。チベットに暮らすチベット人や中国の信者たちは、ダライ・ラマ法王の写真を保管することも許されず、法王の姿を見たり、言葉を聞いたりする機会は与えられていません。しかし、今回、彼らは元気で健康な法王の姿を見ることができて、大変喜んでいます。今回の動画のねつ造は、中国共産党の工作員の期待とは程遠く、逆効果でした。
米国在住のチベット人、ジグメ・ウゲン氏は、この事件の経緯と映像の全貌を説明し、中国がダライ・ラマ法王と子供との無邪気な触れ合いをセンセーショナルに報道したことを解説しています。この説明によって、この事件はダライ・ラマ法王を中傷し、祖国の自由と正義を求めるチベット人の闘いを弱体化させようとする中国の陰謀であることが後に明らかになりました。
私たちは、平和と非暴力の象徴であるダライ・ラマ法王の神聖さと慈悲深さを疑うことはできません。世界中のチベット人やヒマラヤ仏教徒にとって、ダライ・ラマ法王は慈悲の仏であり、チベットの守護神である観音菩薩の顕現です。特にメディアや映画スターによる性急で無礼なコメントは冒涜的です。残念でなりません。
切り取り、操作されたビデオと悪質なコメントだけを見た人は、ビデオのフル映像を観て、法王がどのような文脈で少年にキスをしたのかを確認すべきです。また、事件直後の少年とその母親の言葉も聞いておくとよいでしょう。多くの人の前で、ライブカメラの前で、そして少年の両親の前で、すべてが起ったということを私たちは忘れてはなりません。また、一方的な判断を下す前に、法王の無邪気で陽気な性格を理解する必要があります。
コメントをする前に、チベットの文化を理解することも同様に重要です。ここからは、チベットの家庭文化における「舌を食べる」ことの意味を説明します。これは、SNSで広くシェアされています。
チベット文化では、年老いた祖父母が幼い子供にチュとキスをするだけでなく、小さなお菓子や食べ物を口から子供に与える、つまり直接口と口を合わせる光景をよく目にします。これは、他の文化圏では見かけないかもしれませんが、チベットでは一般的に行われている風習です。長老が軽いキスとキャンディーを与えた後、口の中には何も残っておらず、与えるものも残っていないので、「OK, now “eat my tongue” ( 法王は英語が苦手なため“suck”と言い間違えました) 」という言葉を言うのです。チベット語のフレーズは「Che le sa」です。「私の愛とお菓子を全部あげたから、もうあげられるものは私の舌だけだよ。だから舌をお食べ」という意味です。これは、長老たちが子供たちに向けた遊びのようなものです。この遊びは、ラサ地方(チベットの首都)ではあまり行われず、アムド地方(ダライ・ラマ法王の出身地)でよく行われており、間違いなくチベットの古くからの風習なのです。』
1950年にチベットを残酷に侵略した中国は、それ以来、チベットの占領を正当化し、チベットを中国化するためにあらゆることをしてきました。しかし、チベット人は決してあきらめず、チベット人の自由の精神とアイデンティティは強く、打ち負かされることはありませんでした。このチベット人の団結力と強さの唯一の理由は、ダライ・ラマ法王の指導力にあります。今、中国共産党政権は、この偽のカット映像で、ダライ・ラマ法王を悪者にし、チベット運動を危うくすることで、チベット人の信仰とアイデンティティの核心を攻撃しようとしています。
中国共産党がこの卑劣な策略を思いついたもう一つの理由は、3月8日に法王がインドのダラムサラの宗教行事で、ある少年をモンゴル仏教の最高ラマの一人であるジェツン・ダンパ・フトゥク10世の生まれ変わりと認めたからです。この神聖な行事には、約600人のモンゴル人と多くのチベット人が参加しました。モンゴル人とチベット人は、歴史的、宗教的、文化的に深い関係にあります。実際、第9代ジェツン・ダンパのフトゥクトゥクは中国を逃れ、チベット人と共にインドに避難しています。
中国憲法第36条は少数民族の宗教的・文化的権利を宣言しているにもかかわらず、中国共産党政権はチベット人、ウイグル人、南モンゴル人、法輪功学習者、キリスト教徒が信仰と宗教を実践する権利を否定しています。中国がチベットを占領して以来、チベットでは6000以上の僧院が破壊されました。現在でも、チベットのラルンガル、ヤチェンガル、ドラゴといった場所で、僧院や宗教的モニュメントの破壊が進んでいます。ラルンガルやヤチェンガルは仏教の教場として知られ、チベット人の師匠のもと、チベット人と中国人が共に平和に修行をしていました。中国共産党の指導部は、このチベット人と中国人の密接な関係を政権の脅威とみなし、センターを閉鎖し、修行者たちをそれぞれの場所に強制的に追いやりました。誰が分離主義者なのかが、よく分かります。
宗教を信じない中国共産党指導部は、2007年に宗教命令No.5を公布し、宗教の絶対的な権限を主張しました。この公布によって、チベットやモンゴルのラマ僧の生まれ変わりを選定・任命する絶対的な権限を主張したのです。今年3月にダライ・ラマ法王が、ある少年をモンゴルの第9代ジェツン・ダンパ・フトゥク・リンポチェの生まれ変わりと認めたとき、中国は侮辱されたと感じたのでしょう。その怒りと憤りがダライ・ラマ法王の誠実さを攻撃し、法王の名誉を損なわせるための行動となったのです。専制的な共産主義政権は、ダライ・ラマ法王の影響力が高まるのを見るに耐えられなかったのでしょう。また、モンゴル人とチベット人の古くからの宗教的・文化的な結びつきが復活し、活気を帯びてくることも許せなかったのです。共産党指導部は、こうした動きを中国共産党政権の存続に対する重大な脅威と捉えています。ここでもまた、誰が分離主義者であるかを注目しなければなりません。
私たちは皆、上記の事実を踏まえて、このねつ造されたビデオの背後にいるのは誰なのか、彼らの最終目的は何なのかを見極めなければなりません。チベット人、モンゴル人、中国人、ヒマラヤ国境沿いの人々、そして国際社会は法王を尊敬し、最も高く評価しています。このダライ・ラマ法王への敬意が、彼らの団結の強さとなっているのです。中国共産党の最終目的は、信仰と尊敬の共通のアイコンを攻撃して破壊し、信者の間に分裂を生じさせることです。これが偽のビデオの正体です。ダライ・ラマ法王の教えと世界平和への貢献、非暴力のメッセージを正しく理解することは非常に重要です。性急で衝動的な発言は、敵の手の内に入り、私たちを分断させようとする者を利するだけです。ですから、私たちは中国共産党の虚偽のフェイクニュースの罠にはまらないようにしようではありませんか。
「和訳編集:北澤杏里」
*ツェワン・ギャルポ・アリヤ博士は、ダライマ法王日本代表部事務所の代表です。中央チベット政権の元情報と国際関係省の幹事長とチベット政策研究所の元所長である。免責事項:ここに記載されている見解は、彼自身のものです。
【参考資料】以下のリンクをごらんください。
- ダライ・ラマに対するもう一つの中国の陰謀、再び失敗
- 法王にお会いできたことは、とても素晴らしいことでした!| By チベットハウス・ジャパン
- 第1回:ダライ・ラマの無邪気なやりとりをセンセーショナルに取り上げるのはやめよう|チベット人の視点
- 第2回:ダライ・ラマの無邪気なやりとりをセンセーショナルに取り上げるのはやめよう|チベット人の視点
- チベット亡命議会からの声明
- 中央チベット政権ペンパ・ツェリン主席大臣の説明
- 35 Academic Scholars of Tibetan Studies Issue Statement Criticising Media Slandering of His Holiness the Dalai Lama
- Obituary: His Eminence the Ninth Khalkha Jetsun Dhampa
- Dalai Lama names Mongolian boy as 3rd highest leader
- Mongolian child named by Dalai Lama as reincarnation of Buddhism’s third most important leader
- Constitution of the People’s Republic of China
- New measures on reincarnation reveal Party’s objectives of political control
- As China Steps Up Demolition of Larung Gar, Tibetan Political Leader Point To Revival of Cultural Revolution in Tibet
- Xi Jinping replicating Mao’s Cultural Revolution in Tibet