(2008年4月10日 ダライ・ラマ法王日本代表部事務所)
2008年4年10日、ダライ・ラマ法王がアメリカ、シアトルへ向かう途中、トランジットのために成田に早朝、到着した。ダライ・ラマ法王日本代表部事務所代表のラクパ・ツォコ、インド大使館の政治担当参事官、儀典担当大使館員がダライラマ法王と随行員らを空港で迎え、成田ヒルトンホテルへと向かった。
日本のメディアの要請により、短時間の記者会見が午後3時から3時55分までヒルトン内で行われた。18のテレビ局、29の新聞社と通信社、12の雑誌社とラジオ局、100人を超える人々が会見に出席した。
ダライ・ラマ法王は報道関係者に挨拶をし、人間価値の促進、宗教間の調和、チベット問題の解決という、自身の三つの使命について述べた。
イギリスとパリの聖火リレーでの抗議活動についての意見を問われ、ダライ・ラマ法王は次のように答えた。「最初から私は中国でのオリンッピック開催を支持しています。中国は最も人口の多い国であり、歴史のある国です。中国人はオリンピックを開催する資格があります。最近チベットにおいて残念な出来事がありますが、私の姿勢は変わっていません。」
「実際、ロンドンとパリの聖火リレーのあと、私はサンフランシスコにいるチベット人たちに、聖火リレーのあいだ暴力的な抗議活動はしないようにとメッセージを送っているのです。しかしすべての人は言論と表現の自由を持っています。誰も『黙りなさい』などと言う権利はないのです。民主主義の国においては、非暴力的な手段によってこの言論と思想の権利というものがよく実践されています。チベットにおける最近の問題の原因は、この自由がチベット人にはないということなのです。」
中国人に対し何かメッセージは、という質問に対し、ダライ・ラマ法王は、3月10日のチベットにおける衝突以降、一部の人々が、チベット人は反中国であり中国からの分離を求めているという印象を作りあげようとしているが、すべての中国人には自身の立場をすでに明確に説明してあると述べた。「チベットは中国の一部であり続けます。そのほうがチベットは物質的に発展するのです。しかしチベットには固有の古くからの仏教文化があります。この文化と言語を保持することはすべての人々にとって重要なことなのです。だからこそ、チベット人は意味のある権限を持つべきなのです。」
「中国の一部の指導者たちは、チベット仏教を中国からの分離の源であるとみなしています。チベットにおける自治とは、単なる紙の上のものでしかありません。現在のチベットにおける衝突は、不当な扱いに対するチベット人の深い憤りのあらわれなのです。政府レベルにおいて、私は悪魔のようにされていますが、私が悪魔かどうかは皆さんが判断してください。しかし悲しく思うのは、中国政府によって流される情報にしか頼ることのできない非常に多くの中国の人々が、私についてと私たちの主張を間違って受け取ってしまいかねないということです。ですから、事実を明らかにするために皆さん(メディア)、どうか手を貸してください。すべての人々、とくに中国本土にいる人々に私は中国政府が言うような悪い人間ではないと伝えてください。」ダライ・ラマ法王は笑いとともに語った。
チベットにおける暴力行為とその背後にダライ・ラマ法王がいるのではないかということについて、ダライ・ラマ法王は、中立な機関がその点に関して徹底的な調査をすべきだと主張した。政治に関する平和的な抗議は犯罪行為として扱われるべきではないが、状況を利用して略奪や破壊行為を行ったものに対しては裁判にかけられ罰を受けるべきであるとも述べた。
ヨーロッパの人々へのメッセージとして、ダライ・ラマ法王は、EU加盟国は言論と思想の自由を十分に享受しており 、違った考えを自由に表現することができる。さまざまな問題に関し て異なった意見を持つことができるということは素晴らしいことであり、彼ら次第なのだ、と語った。ヨーロッパの人々、とくにドイツ、イギリス、フランスの人々が純粋に懸念を示してくれていることについて非常に感謝している、とも述べた。
北京オリンピックの開会式に招待されるとしたら招待を受けるかどうかという質問に対しては、もし状況が改善し、中国当局が問題に対してもっと現実的に取り組むのであれば、大きなセレモニーを楽しませていただきたい、と大きな笑いとともに答えた。
中国の指導部へのメッセージとして、ダライ・ラマ法王は次のように述べた。「チベットとウイグルでの危機は、その地域において状況がうまくいっていないという明らかなサインであり、中国政府はこれらの現実を受けとめねばなりません。意見の相違があるときに武力で弾圧するのは、21世紀においてはもはや時代遅れのやり方であり、もっと透明性のある方法が求められているのです。いわゆる国家機密というものは不信や疑いのみを生むものであって、人間社会の発展にとっては最大の障害となるものです。」
「中国が超大国になるためには、すべての危機を道徳的な責任をもって扱うことが必須となります。これはチベットやウイグルにとってのみの利益ではありません。12億もの人々を抱えた中国にとっての利益でもあるのです。メディアに携わる皆さんにはこのメッセージをぜひ中国の指導部に対し明らかにしてほしいのです。」
記者会見の後すぐ、ダライ・ラマ法王と随行員らは午後4時に成田空港に向けて出発、飛行機は日本時間4時55分シアトルに向けて飛んだ。チベット人と日本人支援者たちはダライ・ラマ法王を一目見ようとホテルに多数集まった。
会見するダライ・ラマ法王(代表撮影)