(2006年6月24日 ナショナル・ポスト(カナダ))
ダライ・ラマにカナダ名誉市民の称号を授与する——この保守派の動議に国会が満場一致で決議したことで、オタワ市は亡命中のチベット最高指導者によろこばしい変化の証を示すこととなった。
この誉れ高き称号の受章者は、過去において二人しかいない。ひとりは、南アフリカ共和国の黒人解放運動指導者、ネルソン・マンデラ。もうひとりは、第二次世界大戦末期のハンガリーで迫害されていた10万人におよぶユダヤ人を救出したスウェーデン人外交官、ラウル・ワレンバーグ。ダライ・ラマはこの二人に並んで、カナダ国民が同胞として誇る人物に選ばれた。
平和と非暴力の世界的リーダーであり、ノーベル平和賞の受賞者でもあるダライ・ラマは、チベット人の精神的指導者であると同時にチベットの事実上の最高指導者である。チベットは中国に占領され、現在も中国政府の圧政下にある。中国共産党による弾圧を背景に、チベットの文化・宗教への弾圧、漢民族のチベット地域への移住を促進し中国への同化を強行に進めようとする中国に対し、ダライ・ラマは自らの説く平和に基づく真摯な教えを貫いてきた。ダライ・ラマは話し合いの席に着くよう繰り返し中国に求め、チベットの完全独立ではない中道の道を探りたい意向を伝えようとしてきた。
ダライ・ラマの懐柔的な姿勢に反して、中国共産党はチベットへの締めつけをいっそう強化。チベットを核廃棄物の投棄場と化し環境を破壊している。さらに中国は経済的な影響力を他国への盾にして、ダライ・ラマという地位も、チベットが自由を訴えるその根拠をもそれらの国に認知させないようにしてきた。過去、カナダの首相たちは遺憾ながらも中国の意に従い、ダライ・ラマとの会談を固辞してきたが、二年まえに初めて、ポール・マーティン首相が会談に応じた。しかし中国の圧力を受けたマーティン首相は、カナダ連邦政府の建物でない中立地帯での会談を主張。さらに、「精神的指導者としての範囲内の会談に限る」と明確にしたうえでの前提条件つきの会談となった。そのような不条理な要求は、中国のチベット政策にたいしてカナダ政府が示すべきであった譴責の土台を削り取る結果となった。
ダライ・ラマに名誉市民権を授与するという今回の動議は、トーリー党のデーヴィッド・スウィート氏が提出。下院の全賛成票を得た。中国の侵略問題には触れていないものの、9月にカナダを訪問するダライ・ラマにとっては名誉の決議である。次回、ダライ・ラマがカナダの首相に面会を望んだときには、パーラメントヒルが会見の場となり、議会に招かれることになるであろう。