(2009年8月6日)
全チベット民族の宗教的・政治的な最高指導者であられるとともに世界平和の伝道者でもあられるダライラマ法王に敬意を表しますとともに、議長であるSisson氏、Thaktsang博士、Jiaqi氏ならびに来賓の皆様、参加者の皆様、報道関係の皆様、そして中央チベット政権の同僚の皆様に親しみを込めてご挨拶申し上げたいと思います。
何よりもまず、このような歴史的な会議をジュネーブの地で開催してくださった国際友和会(International Fellowship of Reconciliation:和解のための国際共同団体)ならびにスイス・チベット友好協会(Swiss Tibetan Friendship Association)の皆様のご尽力に心からの感謝を申し上げます。この極めて重要な時期に中国とチベットの両民族が長年の疑念から抜け出そうとせず、両民族の間により良い理解を築いていく努力をしないとすれば、それは中国人とチベット人双方にとっての大きな損失となるばかりでなく、二つの民族を分離させようと躍起になっている人々の手助けをすることとなってしまいます。ですから、この会議の開催は現在必要とされていることを反映するものであります。
スイスは、長年の間その国策として戦争を放棄してきた中立国であるとともに、多くの国際紛争を解決に導く貢献を果たしてきた長い歴史を持つ唯一の国でもあります。さらに言いますとスイスは、ヨーロッパの中で最も多くのチベット人を擁しているということはさておき、素晴らしい風景、地形、気候を併せ持つ景観美に魅了された多くの人々にとっての大好きな観光地であります。ですからスイスは、この会議の開催には完璧な地なのです。人間社会に調和と友好をもたらすことに力を注いでいらっしゃる国際友和会とスイス・チベット友好協会両団体もまた完璧な主催者の方々であります。知性や経験がともに豊かで正義を愛し、寛大な考え方によって偏狭な気持ちを遠ざけ、自らの見解を究極のものとして事実の中から真実を見出そうとしていらっしゃる参加者の皆様もまた、完璧です。さらにこの会議は、ほかならぬダライラマ法王そのお方によって恩恵を賜る基調演説を頂戴し、完璧なお導きのもとに行われます。ですから私は、先に述べましたように四つの「完璧さ」から成るこの会合が、中国とチベット両民族にとっての短期的なそして長期的な利益に大いに貢献する素晴らしい成果をもたらすものと確信しております。
参加者の皆様は貴重な時間とお金を手放し、世界各国遠く離れた場所からはるばるお集まりくださいました。中国人とチベット人との間の和解への関心と、そのためにご自身の上に負われている責任の大きさを示す皆様のそのような行為に我々は深く感動し、勇気づけられております。私は、この会議に皆様を歓迎いたしますとともに、全チベット民族を代表いたしまして、ここにお集りくださった一人一人の皆様に心からの感謝の気持ちを表したいと思います。
ここにお集まりの皆様はすでにご存じかと思いますが、チベット人と中国人はその長い歴史のほとんどを兄弟姉妹として仲良く暮してまいりました。時には戦うこともありましたが全体としましては、親しい隣人としてともに歩んでまいりました。7世紀以降、二つの民族は宗教という面においても関係を発展させるようになりました。13世紀末、中国元王朝の皇帝たちとチベットの指導者たちとの間には祭司—後援者関係と呼ばれる特殊な関係が生まれ、この関係は満州国による支配が中国に及んだ際にも再現されました。20世紀は、私たちが住むこの地球全体にとっての政治的、経済的、社会的な激動の時代でした。世界的な激動の流れに乗って中国共産党が中国全土の政権を握ってからというもの、中国人とチベット人は言語に絶する苦痛や困難を経験することとなりました。1959年にダライラマ法王、そして8万人を超す彼の追随者たちが亡命してから50年が経ちました。チベット本土に残っている600万人を超えるチベット人が未だ、これまでの長く暗い年月と変わらない苦しみの中にあり、今日に至るまで彼らの状況は変わっておりません。しかしながら、これらの苦しみの原因がほんの少数の中国権力者によって作られたチベット政策によるものであって中国人によるものではないということを明確に認識しておられるダライラマ法王は、チベット人と中国人が心の繋がりを持ち続けることができるように取りはからう全ての可能な努力をされてこられました。中国社会の中にも、ダライラマ法王に敬意を表し、チベット人に同情を寄せてくださる真実の理解者が大勢いらっしゃいます。チベットに同情を寄せてくださる人々からなる団体は現在、チベット人に対する支持表明という意味においてかつてないほど異彩を放ち、目立つ存在となっています。例えるとしますと我々は、2008年3月に始まり世界を揺るがした大規模かつ平和的な反対運動に続いて、チベット本土の真の状況に関する誠実な記事を書いてくださった中国本土や中国本土外からの多くの中国人の方々を存じ上げておりますが、これらの記事は草の根レベルでの中国人の見解を反映するものであります。
中国当局は以前、過去の「封建主義の下での農奴制」からの「解放」を達成してからは全チベット人が喜んで中国政府に信頼を置いているものとし、少数の分離主義者を「ダライ派閥」称し、諸悪の根源として彼らを非難してきました。しかしながら昨年3月の事件以降、中国当局は組織的で巧みに計画された行動やプロパガンダに従事するようになり、チベット人による抗議を全て反中国的な行動として描くことでチベット人と中国人を分離させようとしています。中国当局のプロパガンダによって惑わされた結果、チベット人に対する敵意を心に抱くようになった中国一般大衆の人々がかなりいたようであります。しかし最近では、次第に明らかとなる事実の中から真実を理解してくださる中国人の方々がますます増えています。北京において出版された昨年のチベットの抗議に関する最近の調査報告は、中国当局のプロパガンダが広めた虚言に騙されることのない中国人が数多く存在するという事実を裏付けるものであります。この点においてダライラマ法王はかねてより、「たとえ中国の指導者たちに対する私の信頼が弱まりはしても、中国の人々に対する私の信頼はいつでも完全なもので、変化することはないのです。」とおっしゃってこられました。
一国の安定の基盤となるものが国家間の和合であるのに対し、世界中の平和の基盤となるものが中国の安定であります。このことを軽く受け止めてはなりません。ダライラマ法王によって導かれているチベット亡命政権は600万人のチベット人の独立した代弁者であります。本政府は中華人民共和国の権力者たちに対し、本政府が双方の利益となる中道政策を堅持し、中華人民共和国の憲法条項に沿ったかたちでチベット問題の解決を探ってゆきたいということを折に触れて明確にしてまいりました。とりわけダライラマ法王の特使たちは、2002年以来の8回にわたる正式会談と1回の非正式会談の中で中国共産党中央委員会の代表者たちに対し、この点を言葉や書面により明確に伝えてまいりました。我々がチベット問題を中華人民共和国の政治的な枠組みの中で解決する方法を求めることに尽力していることは、チベット側の対談者が8回目の会談のなかで中華人民共和国に提示した『全チベット民族が名実共に自治を享受するための草案』の内容からも読み取ることができます。我々はチベット人と中国人との対立を望まないような取り組みを追求するのに尽力していますから、我々が昨年提示した草案について今後中国指導部と対話をしたいという意向が変わることは決してありません。
中華人民共和国は多民族国家であります。ですから、統治者の人々はその管轄下にある全ての民族の希望を満たすべきなのです。もしそれを達成することができれば、中国の憲法に記されている民族間の結束と平等もまた実現されることでしょう。
現在の中国指導部の信念体系、政策や執務ぶりを受け、これまでに人々は不満や不調和、反対を表明するさまざまな方法をとってきましたし、恐らく今後もそうするでしょう。しかしながら最も重要なことは、このような行動がチベット人と中国人との間の調和のとれた関係の悪化に繋がることがないように注意しなければならない、ということなのです。亡命チベット人、そしてダライラマ法王に導かれているチベット亡命政権をはじめとするチベット人が本当に考えていることや我々が置かれている立場を中国の一般大衆の人々に説明していただきますよう、参加者の皆様にお願いしたいと思います。そうすることで安定した、調和のとれた関係が二つの民族の間にもたらされますように。また、われわれが今後取るべき行動の助言やご指導を皆様からお聞かせ願いたいと思います。
この場をお借りいたしまして、東トルキスタンにおける最近の悲しむべき情勢に対する失望を表したいと思います。命を奪われた人々やけがを負ってしまった人々、それとともに財産の多大な損失を被った全ての人々に対し、私の哀悼とお祈りを捧げます。
最後になりますが、ダライラマ法王のご長命ならびにダライラマ法王の全ての願いが実現しますようお祈り申し上げます。チベット人と中国人との結束が何千年も続きますように、そしてチベット本土およびチベット本土外のチベット人が再び一体となることができますように。この会議が有意義な成果をもたらしますように!ありがとうございました。
(翻訳:櫻木晴子)