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「失われた」チベット美術への需要が急増

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2001年6月26日
ニューヨーク(UPI)

美術品市場はチベット美術に対して飽くなき渇望をあらわにしているが、その多くは1950年から続く中国のチベット支配の中で略奪された5千7百もの仏教僧院から闇市場に流れたものである。

マンハッタン、グリニッチ・ ビレッジにある文化センター、チベット・ハウスが現在開催中の展示の焦点は、民族の文化遺産の痛ましい喪失と、1959年のダライ・ラマ14世のインド亡命以降、国外に流出した美術品のごく一部を守ろうとするチベット仏教徒たちの試みである。

「雪の国からの美術財:チベット・ハウス帰還品コレクションからのセレクション」と題されたこの展示には、主なチベット宗教美術品の見事な作品が含まれている。

それは、トルコ石やサンゴが散りばめられた銅メッキの神々の小彫像、巻物にもなる神聖な掛軸(タンカ)、鮮やかな色の蓋がついた写本の木箱、そしてメッキが施された祭典用の品々である。

この帰還品コレクションは、現在中華人民共和国の「自治」区となっているチベットで、ダライ・ラマが世俗的、宗教的権力を取り戻した際に持ち返る文化的名作を残すため、ダライ・ラマ本人の要請により構成されている。

映画スターのリチャード・ギアを最も有名な支持者にもつチベット・ハウスの会長 ロバート・A.F・サーマン、コロンビア大仏教学教授は、「我々は、ダライ・ラマが戻れば美術品をチベットに返すつもりですが、ただしそれは返しても安全であることが確実な場合に限ります」と約束した。「それまでは、ここニューヨークで見ることが出来ます」と話した。

個人収集家により、200点以上の品がチベット・ハウスに寄付されたが、その中に含 まれる30のタンカには、神聖な宇宙と気高い仏の生まれ変わり、復讐の怒りに満ちた神々、そしてそれを脅かす悪霊など、その住人を図式化した絵画(マンダラ)が描かれている。

アンティークなものから、つい最近チベットで描かれたものまで、タンカはチベットのコレクションの中でも最も人気が高い。

マンハッタン中心街にあるUBSペイン・ウェバー・ギャラリーの「ニューアーク(ニュージャージー州)美術館所蔵品からのチベット:山と谷、城とテント」と題された同時開催の展示は、タイプの異なる、より世俗的な性質の収集品を提供している。

展示品の中には、銀の鞍や装身具、飾り立てられた箱、色とりどりのヤク毛のテン ト、携帯用の厨子やマニ車など、チベットの半遊牧民たちの家庭用品がある。

以前は、博物館級の彫刻やタンカなどを含むチベットの品々は、アメリカやヨーロッパのサザビーズやクリスティーズといった競売画廊の例年のアジア美術競売では珍しい品目であった。しかし現在では、インドの品や、同じくヒンドゥー教、仏教美術の主な出所であるネパール、カンボジア、インドネシアなどから売りに出される品と、数の上では引けを取らないばかりか、上回ることも多々ある。

現在、チベット仏教美術の最高値記録を持つのは、1997年にアムステルダムのクリスティーズにて21万4千ドルで売られた、15世紀前半の、4つのマンダラが描かれたタンカである。現在、二大競売場とその他の多くの小さな競売場から1年間に生み出されるチベット美術の総収益は、何百万ドルにも上るが、その中で、チベットから合法的に持ち出されたという裏付けのあるものは少ない。

これに加えて、チベット美術を手に入れることができる場所は、ニューヨークの マディソン・アヴェニューの画廊、サンフランシスコ、バンコク、香港、ロンドン、パリ、また、チベットの首都ラサがあり、ここには正真正銘の古美術と近代的な美術品の両方、特に伝統的な模様を再現した美しい羊毛の敷物を陳列する店やバザールが数多く ある。

売買や寄付により博物館が所蔵するチベット美術は急増しているが、取得される品々の出所について問われることは少ない。

チベットに返還されると破壊される怖れがあるため、これらのチベット美術に関しては、盗まれた文化的財産の返還を課す国連の条約は適用されないようである。

主に1900年代前半に取得されたチベットの所蔵品をもつニューアーク美術館には、アメリ カで最も良質の所蔵品が揃っている。しかし、チベット美術を見るために最適な場所は、今でもチベットである。

かつてダライ・ラマの市内居住地であったポタラ宮の美術品と図書館、ラサ市中心部のジョカン寺、そして300の僧院のうち最大で、中国の監視下にあってなお、観光客のためのお飾りとして中国の下で活動を続けているデプン寺などで保存されている豊かなコレクションは、最も素晴らしく、また一般に開放されてもいる。

大半の学者の説によると、チベット美術が最盛期を迎えたのは、ポタラ宮を建てたチベット統一者であるダライ・ラマ5世の統治時代である。チベット仏教の主な宗派が生まれた紀元1千年以降に作られた美術作品の9割は、過去50年の間で破壊されたと推測されており、ダライ・ラマ5世の時代のものは鑑定家らの間で非常に珍重されている。

チベット仏教は、1989年のノーベル平和賞受賞者ダライ・ラマにより、インドおよび彼が訪れた世界各国で生き続けている。米国でのチベット仏教最大のコミュニティのひとつはニューヨークから北に車で3時間、キャッツキル・マウンテンの、かつて「ボルシチ地帯」と呼ばれたユダヤ人らの避暑地であった土地に位置している。

最新の統計では、キャッツキルには1970年代のものを含め、40以上の仏教僧院と研究所 があり、これらはチベット仏教だけでなく、主に中国、日本、韓国の禅仏教も集まっている。ニューヨークのウッドストックには、22エーカーの広さを持つ施設があり、それは1999年にチベットからインドに亡命し、近々訪れる予定の10代のカルマパ・ラマの北アメリカ・センターとなっている。

新刊の、G.H. Mullin著「The Fourteen Dalai Lamas」(Clear Light Publishers、 555ページ、29.95ドル)には、チベットの歴史とその仏教文化について、徹底的に書かれており、ダライ・ラマが前書きを寄せている。