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真の自治に関するチベット民族会議 ダライ・ラマ法王特使ケルサン・ギャルツェン氏の声明 中国−チベット間の対話:その現状と展望

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(2011年11月29日 ブリュッセル欧州議会)

まず始めに折よくチベット会議を主催してくださった欧州議会のチベット・インターグループに対して深くお礼を申し上げます。今会議が、不安の日々を過ごすチベット内部のチベット人に私たちが彼らのことを心配し、我々もまた彼らと共にあるという強い希望のメッセージを送ることになることは間違いありません。チベットは今や一つの巨大な牢獄と化しています。外界から封鎖され、そこで中国公安部および軍部が権力を乱用しているのです。およそ20年前にはこのヨーロッパでも独裁体制下で苦しい生活を強いられていた人々がいました。現在東欧と呼ばれるそれらの国々出身の方々の中には、今でも共産主義体制下の生活をはっきり記憶されている方もいらっしゃるでしょう。世界が苦境におかれた人々を見放してはいないということ、そして自由、正義、人間としての尊厳のために闘う彼らと共にあるということを、弾圧を受ける人々に伝えることがどれ程重要か、お分かりになる方も多いでしょう。それがどれほど抑圧された人々の心の支えとなり、彼らに希望をもたらすかもご理解いただけると存じます。

欧州議会はこの会議を通じて、『ヨーロッパはチベットの人々の苦しみと悲劇に心を痛め、その自由と正義の闘いを支持している』というメッセージを再度送ることになるのです。このメッセージはチベット人を大いに励まし、彼らの希望となるでしょう。皆さまの深い思いやりと支持、団結に対して重ね重ねお礼を申し上げます。

本会議における私の役目は、中国−チベット間の対話の現状と展望について最新の情報を皆さまにお伝えすることです。

まず、チベット指導部が中国−チベット間の対話に関して基盤としている指針と原則について概要を説明いたします。ダライ・ラマ法王は、寛大と和解の精神をもって真剣に対話に臨めば人類の対立のほとんどは解決できるはずだと信じてこられました。ですからチベット問題に関しても常に非暴力な対話をその解決方法に据えてこられました。1988年、ストラスブールの欧州議会において、ダライ・ラマ法王は中国との交渉のための正式な提案をされました。提案を発表されるにあたり欧州議会を選ばれたのには狙いがありました。互いに協調し合い利益を分かち合えるような場面でこそ人々は一致団結することができるのだというということを強調なさりたかったのです。法王は欧州連合がまさにそのよい例だとお考えになりました。

ダライ・ラマ法王は同提案において、チベット問題解決のためにその独立を求めないことを明示しました。ストラスブール提案の指針は、和解と歩み寄りの精神に基づき交渉することで、互いに納得する方法を導こうというものでした。これがいわゆるダライ・ラマ法王の『中道のアプローチ』です。

こうしてダライ・ラマ法王とチベットの指導部は、中華人民共和国憲法に認められたチベット民族のための真の自治を目指すという勇気ある決断に至ったのです。同憲法には自治および自治制について基本的原則が明確に謳われており、それはチベット民族の要求や希望と一致するものです。ですからチベット指導部は、チベット独自の文化や言語、宗教やアイデンティティー、チベット高原の壊れやすい自然環境の保護という点においては、チベット民族の基本要求を保障することができると自負しているのです。

2002年に中国指導部との直接交渉が再開した時には、亡命チベット社会の指導部には既に、どのように交渉に当たるか明確なポリシーができていました。チベット側からのアジェンダはただ一つ。中華人民共和国憲法の枠組み内で単一自治体によるチベット民族の統治を実現する真の自治を要求することでした。

私は光栄にもダライ・ラマ法王特使の一人として交渉を委任されました。2002年以降、9回の正式な協議と1回の非公式な会談が私たちと中国側代表との間にもたれました。それが複雑で困難を伴う過程であることは明らかでした。私たちがチベット指導部から与えられた使命は次の通りです。

中国側と接触を保ち、なおかつ関係を深められる雰囲気、環境を整えること。亡命チベット社会の指導部の立場や見解に関する誤解や誤認を一掃するためあらゆる機会を利用すること。ダライ・ラマ法王および亡命チベット社会指導部はチベットの分離や独立を要求するものではない、という事実を繰り返し説明すること。私たちの要求が、中華人民共和国憲法に則ったチベット民族のための真の自治であるということを明言すること。相互利益を導く分野に関して、相手の信頼を得られるような提案をすること。議題と時間枠の合意を得たうえで会合を重ね、対話プロセスの安定化を図ること。

私たちは2002年の第一回目の協議から、それらの指示通り、相互間の信頼関係を築くための手段を双方が提言していけるよう努めてきました。私たちの側からは直ちにさまざまな案を提言しました。中国指導部に対し、ダライ・ラマ法王への非難をやめ、法王の肖像の所有を許可するといった善意を見せていただけるようにお願いもしました。亡命チベット人とチベット内部のチベット人の交流拡大を図り、学者や専門家が互いの学術・文化・宗教機関を訪ねられるようにすることも提案しました。いくつかの基本的な点を含めさまざまな分野で双方の主張に大きな隔たりがあることが明らかになったため、まずは双方にとって有益だろうと考えられる争点に注目し、年間2〜3回の協議をもつことを提案しました。さらに私たちは交渉開始当初から、ダライ・ラマ法王と中国指導者の直接会談を実現させることが私たちの任務である旨を江沢民国家主席に書簡で知らせて参りました。そのような首脳会談がきっかけとなり、チベット民族と中国人民間の友好関係に新たなページが開かれることになるかもしれないのです。ですからその件に関しては私たちは協議の度に要請を繰り返してきました。

非常に残念なことには、私たちの提案はことごとく中国側から拒絶され続けてきました。相互の信頼関係構築のための私たちの提案に応ずることもなければ、中国側からは一つとして前向きな意見の提示はありませんでした。

2002年の対話再開直後から中国側の態度に変化は見られません。承認、相互依存、関与、譲歩、妥協といった政治的意思が中国指導部に欠如していることは2008年11月の第8回会談で明らかになりました。

2008年7月、第7回会談では中国側から、チベットが要求する自治についてその程度やあり方について意見の提示を求めてきました。そしてそれに応えるかたちで2008年10月31日、私たちは『チベット民族のための真の自治に関する草案』を中国指導部に提出しました。同草案を通じて私たちは、中華人民共和国憲法に謳われた自治に関する原則を適応すればチベット民族が求める自治について、ある特定の要求は実現可能であることを詳細に渡り示しています。

しかし中国側は、私たちの要求は『半独立』または『偽装した独立』であるとして、同草案をそっくりそのまま頭から拒絶しました。彼らは「草案のタイトルがもう既に受け入れられるものではない」とまで言ったのです。ダライ・ラマ法王はチベットについて意見を述べる立場にはおられないし、チベット民族に代わって発言する資格もお持ちではないということに関しても、何度伝えても理解してはいただけませんでした。

最後に行われたのは2010年1月北京での会談です。それ以来私たちは中国側に対し次回の会談への参加を催促し続けてきました。痛ましい焼身自殺の事件やチベット内部の全般的状況悪化を踏まえ、私たちはほぼ二週間前にも、チベット内部の安定を図る方法を模索するためにも対話が必要だと中国政府に強く促しました。それに対する中国政府の反応を私たちは未だに待っている状況です。

ごく最近、チベットの政治的リーダーが新たに選出されました。歴史的な変化と言えます。しかしこの民主的に選ばれた新主席大臣、ロプサン・センゲ博士も明言しているように、チベット運動の主たる目的はチベットの人々の基本的自由と尊厳を回復することに変わりはありません。主席大臣は2011年10月12日の声明で、中国−チベット間の対話における彼の立場を次のように語りました。「再三再四申し上げてきたように主席大臣としての私の最重要課題の一つは、平和的な協議を通じてチベット問題を解決するためにいかなる努力も惜しまないということだ。選挙運動中も明言してきた通り、私はダライ・ラマ法王が提唱される中道のアプローチを支持し、2002年に再開された継続中の対話プロセスに深く関与していくことを約束する。チベットの現状は厳しく、私も何度となく強い憂慮の気持ちを表明してきた。最近起きている事件は、チベット全土に蔓延する厳しい現状に対しチベット人が大きな不満や怒り、そして失望を抱いていることを意味している。私たちの緊急課題は、チベット人の不満と怒りの根本原因を明らかにしそれを人々に知っていただくために最大の努力をすることだ。私も中道のアプローチの精神に則り双方が納得いく解決策を模索すべく粉骨砕身する決意でいる。二名のダライ・ラマ法王特使にはできるだけ早急に対話再開に漕ぎ着けることを依頼した。」2002年以降の中国−チベット間の対話から、私たちは真剣で協力的な相手に恵まれてはこなかったと言って間違いないでしょう。片方がどれだけ真剣でも前進はありません。当会議はその意味で大変重要になってくるのです。

私たちチベット民族は皆さまの助けを必要としています。まずは外界にチベットの門戸を開き、中国当局や公安部隊によるチベット内部での権力濫用を止めさせなければなりません。国際社会の目は彼らへの抑制力となり、とらわれの身となっているチベット内部のチベット人にとってある種の盾となるはずです。

最終的には、私たちチベット側は相手にも交渉のテーブルに着いてもらい、公平、公正でなおかつ双方が納得できる解決策を導くために私たちと真剣に話し合ってもらう必要があります。現代社会において私たちは互いに強く依存し合いながら共存しています。ですからチベット民族が将来自由で尊厳を持って生きられるようになるか、あるいはこれからも厳しい抑圧を強いられ続けるのかは、中国指導部のみに委ねられているわけではありません。欧州連合の対チベットおよび中国政策もまた同じような影響力をもっているのです。中国指導部には、チベット問題を押さえ込み無視することは不可能であり、真摯に取り組み解決するべきなのだということを気付かせなければなりません。今必要なのは、チベット問題についての国際社会による団結した強いメッセージなのです。世界がどのように見ているかは中国指導部にとって非常に重要であり、常に気にしていることなのです。そういう意味でも欧州議会がチベット問題の平和的解決を目指すうえで常にリーダー的役割を果たしてくださっていることに対し、私たちは心からのお礼を申し上げます。


(翻訳:中村高子)