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横浜での謁見と一般講演

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2016年11月17日
横浜

陽光の輝く暖かい横浜の秋の日、ダライ・ラマ法王は、この日の午前中の時間すべてをあてて個別謁見とグループ謁見に応じられ、遠路から法王に拝謁するために来たチベット人、韓国人、モンゴル人のグループと会見された。150人以上のチベット人たちは法王に拝謁するためにフロアに長い列を作り、仏画を掲げる人や涙をぬぐう人、法王が話される間両手をあわせて祈っている人などの姿が見られた。法王は、仏教哲学がいかに広く深いかを強調され、チベット語においてのみその深遠さが失われることなく引き継がれてきたことを語られた。サンスクリット語はもはや日常語として用いられておらず、中国語にもヒンディー語にもこれらの仏典の深遠さを伝えるものはない。

そのような理由から、チベット語は真剣に仏教を学ぶすべての仏教徒、とりわけナーランダー僧院の伝統に連なる仏教徒にとってなくてはならないものであり、仏教の哲学は今日の世界において仏教の心理学と同様に必要性が非常に高まっている。同時に、仏教を学ぶのに最も適した言語であるチベット語が地球上のすべての人々から必要とされている。仏教では、創造主や創造主に対する信仰によって救済がもたらされるとは考えず、自分のかき乱された心を鎮め、平穏な心を培うことによって幸せを達成するという方法を説いている。すなわち、自分自身が自分の「主」なのである。

韓国から訪れたグループとの謁見でお話をされるダライ・ラマ法王。
2016年11月17日、横浜(撮影:ジグメ・チョペル)

法王は次のようにお話を締めくくられた。「中国は物質的な発展を遂げています。一方、私たちは、心の平和を育むことに関して優れています。ですから、外面的な世界における物質的発展に関しては中国の人々が私たちチベット人を助けることができますし、内面的な心の平和を育むためには私たちチベット人が中国の人々を助けることができます」

続いて、法王は韓国曹渓宗の長老や高僧たちと謁見された。曹渓宗は韓国の仏教徒の95%が属する宗派である。このグループの代表者が、法王が座られている椅子が簡素であることをお詫びすると、「私は特別扱いをされるのは好きではありません」と法王は力強く答えられた。「釈尊は、岩の上や森の中で座られて説法をされました。食事を持ってくるよう誰かに頼むこともありませんでした。ご自身で歩いて、托鉢をなさり、その日の食事を得ておられました」

短い昼食休憩の後、法王は別の韓国人グループと会見され、ダライ・ラマ1世ゲンドゥン・ドゥプのエピソードを聞いたとき深い感銘を受けたことを話された。そのエピソードとは、ある人がダライ・ラマ1世に「あなたは来世で極楽浄土にお生まれになるだろう」と言ったところ、「私は極楽浄土には行きたくありません。私が必要とされる場所に生まれて、そこで生きとし生けるものたちの役に立ちたいのです」と答えられたというものである。

昼食休憩の後、法王は、「思いやりのこころ ― 幸せへの鍵」と題する一般講演が行われるパシフィコ横浜国立大ホールに歩いて移動された。このホールは二階席、三階席も設けられた大きな現代的建物である。法王は演台の前に立って講演を始められた。暴力のはびこる世界では不和や不一致があるが、根本的なレベルにおいて、私たちは皆同じ一人の人間であり、一つの人間家族の一員であるという感覚を持つ必要があることを語られた。欧州連合(EU)などの政治組織であれ、私たち人類が一つに団結することであれ、法王のこの日のお話のテーマは、終始、「統合」「連合」「調和」についてであった。

パシフィコ横浜で行われた講演会でお話をされるダライ・ラマ法王。2016年11月17日、横浜(撮影:ジグメ・チョペル)

「あなたが死に直面した時、たとえ高価なダイヤモンドの指輪を持っていても何の助けにもなりません。しかし、あなたをやさしくいたわってくれている友人や身内がそばにいてくれたら、本当の意味で心の支えとなることでしょう」と法王は述べられた。

心の内面に輝く目に見えないダイヤモンドの指輪をますます磨いていけば、内面的価値という宝石によって心の幸せと平和がますます高められていく。法王は、心の力こそ私たちを真の喜びに導くものだということを何度も繰り返し強調された。「宗教に対する信心は人間にしかありません。私たちは思いやりを持ち、慈悲深くあるべき理由を理解することのできる知性を持っています」と法王は語られた。「学ぶことの重要性」も法王が力説されるテーマの一つである。「優れた知性を最大限に活用し、仏教の偉大なテキストを学ぶことは、人間以外の動物たちにはできません」と法王は述べられた。

質疑応答の時間になると、法王は聴衆に向かって、堅苦しく考えず、どんなことでも聞くように、そして批判的な質問は大いに歓迎したいと伝えられた。「私は批判や反論が大好きです!批判的な意見が出たら、自分の考えについてさらに分析し、論理的に考えることができるからです」ふたつの通路にそれぞれ30人以上の質問希望者が並び、どのように怒りを克服すればよいのか、どのように心の平和を実現するべきか、どのように仏性を育み目覚めさせることができるのか、などを質問した。

「昨今は情報が氾濫しており、悪いニュースばかりが記憶に残る」という質問に対して、法王は次のように答えられた。「この世界には、常に悪い出来事や良い出来事が生じてきます。ですから、がっかりしたり、やる気をなくしたりする必要はありません。悪いこともあるかもしれませんが、幸せなことや有難く感じるようなこともたくさんあるからです」

法王は心の力について何度も繰り返し力説された。外国人から「教えを聞く力をどのように育むべきでしょうか」と問われると、「仏教徒は他の人から教えられたことを鵜呑みにすべきではありません。釈尊は“あなたが自分自身の主である”と言っておられます」と答えられた。また、別の観点から、「 聞慧 もんえ・ 思慧 しえ・ 修慧 しゅうえ(教えを聞くことで得られる智慧 、思惟によって得られる智慧、瞑想・修習によって得られる智慧)」という三段階の智慧があることをチベット語で述べられた。

講演会でダライ・ラマ法王に質問をしようと列をなす参加者たち。2016年11月17日、横浜(撮影:ジグメ・チョペル)

法王がいつも幸せでおられる理由について質問されると、法王は次のように答えられた。「慈悲の心と空性について瞑想しているからです。ときどき悲しくなることはありますが、空性や慈悲について瞑想すれば、喜びの涙があふれ、鳥肌が立ちます」

真の喜びは感覚的な体験からは生じない。感覚的な体験は持続するものではなく、真の喜びは心を訓練することによって生じる堅固なものである。たとえば、音楽が演奏されている間は楽しいが、音楽が終わるとその楽しさは消え去ってしまう。しかし、空性について瞑想することで生じる喜びは、決して消えることはない。

「常に現実的であってください。私たちは生まれたその瞬間から、死に向かい始めます。よく学び、精査し、自分自身を観察してください。そして、自信を持つことを忘れてはなりません」と法王は聴衆に向かって語りかけられた。一人の日本人女性は自殺について質問し、別の妊娠中の女性は生まれてくる子どもを待ち受ける世界について不安を感じると語った。法王は愛情のこもったまなざしで彼らを見つめ、「心配する必要はありません」とアドバイスされた。

法王は2011年に津波と原発事故で荒廃した東北地方や福島県などの被災地を訪問された。当時この地域は津波で流され何もなかった。しかし、法王が再訪した際には、人々は住宅を再建し、この地域での生活を再開していた。「希望をなくし、あきらめてしまったらあなたには何もできません。しかし、皆さんには可能性の力があることを思い出し、学び、聞き、智慧を育んでいくならば、あなたにできないことなどありません。そのことをどうか忘れないでください」