東京・八雲学園の女子学生がダライ・ラマ法王を歓迎

Print Friendly, PDF & Email

2013年11月18日東京 (www.dalailama.com

明るい太陽のもと、八雲学園に到着されたダライ・ラマ法王が車から一歩外へ出られると、大きな歓声があがった。中庭にいた生徒たちだけでなく上の階のバルコニーや教室の窓から歓迎の声が聞こえる。チベット国旗を振る生徒も多かった。法王は近藤彰郎理事長・校長の出迎えを受けられた。

生徒たちが講堂に集まり法王が入場されると、合掌した950名の笑顔の女子生徒たちに再び歓迎された。校長が、生徒たちは法王のお話を楽しみにしていましたと挨拶した。

法王は次のように述べられた。「尊敬すべき校長先生、先生方、女子生徒の皆さん、私の思いや経験をここで皆様にお話しできることを大変嬉しく思います。また、皆さんの質問をお聞きするのも楽しみにしています。私はどこへ参ろうとも、自分は皆さんと同じ、身体、心、感情を持った一人の人間であると思っています。もちろん私は男性で皆さんは女性だという違いはあっても、私たちの頭脳は同じで、世界の70億人の人間の一部です。

もうひとつ小さな違いを挙げれば私は年老いていて皆さんは若いということです。校長先生や私は20世紀の人間ですが、女子生徒の皆さんは21世紀の人間です。20世紀は過去のものになりましたが、21世紀はまだ始まったばかりです。私たちは過去に起こったことから学びますが、過去を変えることはできません。しかし未来はこれから私たちが望むように形作ることができるのです。」

法王は、20世紀には大きな進歩や技術革新があった一方で、暴力や虐殺が起こり、その結果大きな苦しみが生じたこと、また今世紀の最初に起こった不幸な出来事は前世紀に犯した過ちの結果であると語られた。

「今大切なことは21世紀を平和と非暴力の世紀にすることです。それは問題が一切生じない世紀にする、ということではなく、争いの原因が存在する限り問題は生じることが予想されても解決する手段として暴力に訴えるのではなく対話を通して取り組まなければならないということです。平和を構築することは簡単ではありませんが、日本やドイツが成し遂げたことを考えてください。完全に破壊されても焼野原から国を復興したのです。必要だったのは先を見る力、意志の強さと力です。」

「世界平和を実現できるかどうか、自分自身で考えなければなりません。20世紀の初頭には多くの人が戦争は避けられないものであり、国家の利益を守ることは必要なことだと考えていました。第一次、第二次世界大戦が開戦されると人々は誇り高く喜んで戦争に加わりました。ところがそのような風潮はすっかり変わりました。人々はベトナムやコソボの戦争に抗議し、イラク問題では世界中の何百万人もの人々が抗議デモを行いました。戦争は大きな苦しみをもたらしますが、人々がそれを拒否したのです。」

「私はヨーロッパをよく訪問しますが、あるとき私は若い人たちに近隣諸国の人たちをどのように考えているか尋ねたことがあります。すると若い人たちは『さあ、特別なことはない、私たちの隣人ですよ』と答えたのです。これはEUが存在するからで、人間が成熟しつつある証拠です。平和が強く求められているのです。」

「1996年に私は英国のエリザベス王太后陛下にお目にかかりました。20世紀の初頭のお生まれです。この間世界は良くなったと思われるか悪くなったと思われるか尋ねました。陛下はためらうことなく世界は良くなったとお答えになりました。陛下がお若かった頃は今では当然の権利である人権や自己決定権について語られることは皆無だったそうです。そういった権利や自然環境への関心の芽生えは、私たちが物事をより現実的に、前向きに捉えるようになったということですから、ここに明るい希望を持つ理由があるのです」

「人間は本質的に攻撃的なので戦争や暴力は避けられないという理論を持つ人がいますが、この理論はよく吟味する必要があり、実際はその反対であることが明らかです。母親は子供を出産すると可愛がり世話をします。子供は母親を信頼し、母親の腕に抱かれていると安心します。科学者たちによるとこの身体的な接触は頭脳の発育に必要なのだそうです。愛情あふれる家庭に育った子供は幸福で健康に育ちます。」

「科学者たちの実験によると子供は自然と優しい反応を好む傾向にあることがわかります。このことから人間は本質的に愛情を備えていると言えます。私たちは生きていくために他者からの助けが必要なので、思いやりの心は必要不可欠なものです。社会的動物である人間がお互いに愛情を示すことは自然なことなのです。」

聞いていた学生たちの顔を覗き込まれてご覧になり、法王はお笑いになりながら話された。

「ほら、微笑んでいる方もいますね。それが自然な人間の反応で、私はそういった反応をいつも嬉しく思います。髪に特別な手入れをしている人も多いでしょう。でも笑顔でいるとさらに美しく見えます。この学校では英語を学ぶ伝統があるそうですが、私は日本の学生たちは英語を学ぶべきだと思います。好むと好まざると、英語は国際的な言語です。私のブロークンな英語ですら他者に語りかけることができるのですから。」

法王は生徒たちからの質問を受けられた。最初の生徒が前に出て、大きな行事に参加する前には必ず緊張してしまうがどうすればよいか尋ねた。法王は、若いころ自分も要人との会議の前にはよく緊張していたと話され、誠実で正直であれば自分に自信を持てるようになり緊張が解けるとお答えになった。さらに、状況を吟味して現実的な目標を持つようアドバイスされた。

別の生徒は、日本は最近外国での問題に脅かされているがどのように対処すればよいのか尋ねた。法王はお笑いになって答えられた。

「それは複雑な質問ですね。原則として前向きな対処方法は人間がひとつであることを考えることです。世界を『私たち』『あの人たち』と分けて考えることは、過去には良かったかもしれませんが、今ではそれは通用しません。自信を持って問題に対話で臨まなければなりません。例えば私たちチベット人は多くの苦しみを味わいましたが、相手も私たちと同じ人間の仲間であると考え、対話を通して解決しようとしています。」最後の質問は自分の計画と反するアドバイスにどのように折り合いをつけるかということだった。法王は、人に相談し得られる選択肢を吟味して最終的な決断をすること、また一度決断したからにはそれを貫くように、法王ご自身もそのようにされていると回答された。

その後、生徒を代表して一人が前に出て、法王のご訪問と講演に対する感謝の意を伝え、法王のお智慧に感謝し今後も忘れません、日本滞在が有意義なものになりますようにと述べた。

ホテルに戻って昼食を召し上がったあと、法王はブロードキャスターのピーター・バラカン氏の仏陀の一生を描いたアニメ映画についてインタビュー取材に応じられた。法王は、仏陀の教えは智慧を会得することを求める独特なものだと語られた。苦悩の根本原因は無知であり、苦悩を軽減するためには智慧を会得し無知を減らさなければならないと述べられた。宿命について尋ねられると法王はすべての人間の宿命は死が訪れることであり、私たちはいのちのある間、他者に困難をもたらさない方がよいと答えられた。

苦行についての質問に法王は、仏陀はある時期に断食という苦行を体験されたがその結論として極端な享楽と極端な禁欲に固執しないことが最善であり、内面性の持つ潜在能力を最大限に引き出すためには強くて健康な身体が不可欠だと学ばれたのだと語られた。法王は取材チームの仏陀とその教えを普及する活動に感謝の意を述べられた。

 (翻訳:植林 秀

関連リンク

「宇宙・生命・教育」についての科学者との対話
悲しみから希望を紡ぐ――慈悲の力